大規模停電 住民直撃 未明の揺れ 包む闇
6日未明に北海道を襲った地震は、十勝全域で停電を引き起こし、市民生活は混乱した。通勤時間帯も信号は消えたままで自動車は慎重な運転を余儀なくされ、スーパーやコンビニエンスストアには食料を買い求める人が殺到した。学校休校や病院休診、断水も発生し、住民は対応に追われた。
「長い横揺れだった」「信号が消えて怖い」-。6日未明に胆振地方を震源に発生した地震は十勝でも震度4を観測。大規模な停電の発生で、辺りは暗闇となり、住民たちは不安に包まれた。
午前3時8分ごろの地震発生時に、幕別町札内のコンビニエンスストアで勤務していた20代の男性店員は「急に停電になってから緊急地震速報がスマホから鳴って大きく揺れた」と振り返る。
地震直後に店を訪れた帯広市内の20代男女は「信号が消えて車の運転は怖い。不安なので水を買います」と話していた。
深夜も営業する飲食店も対応に追われた。帯広市中心部の「十勝藁焼 炉端の一心」(三谷諭史店長)は当時店内に7、8人の客がいたが停電のため、店員が炭火などの始末を行い、安全のために店外に出てもらったという。三谷店長は「こういう状況は初めて。レジやパソコンは全て電気。洗い物も満足にできない」と閉店準備を進めながら、復旧を願っていた。
市内の「帯広天然温泉 ふく井ホテル」(西1南11)では揺れの直前に停電。当時は2人のスタッフがフロントにおり、出入り口の確保やエレベーターに人がいないかどうかを確認した。スタッフの成田敬一さんは「結構長い横揺れだった。物が倒れるなどはなかったが宿泊客が数人フロントに来たため部屋での待機を依頼した」と話す。
釧路から観光で市内の別のホテルに宿泊していた会社員金田光夫さん(54)は停電でホテルのロックが解錠せず2時間後に外から錠を壊してもらい、部屋から出たという。JR特急で帰る予定だったが運休のためバスターミナルで待機し、「停電の影響が心配。あすから仕事なのできょうのうちに戻りたい」と不安な表情だった。
食料求めて長蛇の列
十勝管内の大型店や食品スーパーでは、店舗の営業を見合わせたり、一部のみの営業など影響が出ている。現時点では、郵便の集配などは停止し、現金の出し入れ金額を制限する金融機関もある。ガソリンスタンド(GS)も休業したり、利用数量を制限している。
地震直後、停電する中で営業するコンビニエンスストアには客が殺到。おにぎりや弁当、パンが売り切れ、ペットボトルも品薄状態の店も。あるコンビニでは「出荷元からの供給が止まり、交通もまひしているため、商品補充のめどが立っていない」と困惑した。
藤丸では6日を臨時休業に。「店舗の商品被害はほとんどないが、従業員の通勤の安全が確保できないことや、電気系統が復旧見込みがつかない」と説明。店舗前でパンなどの販売を行っている。
フクハラやダイイチでも現段階では店舗での通常営業を見合わせており、いずれも店舗前でおにぎりや飲料など食品を中心に販売対応している。中でも、24時間営業のフクハラ西18条店では、停電発生後も営業をしていたが、その30分後にいったん閉店。午前8時前に店頭販売を開始し、周辺住民が列をつくっている。市内の松井千妃路さん(30)は「7カ月の子どもがおなかにいる。妹に生後間もない赤ちゃんがおり、おむつと乳製品を探しているが、置いておらず困っている」と話していた。午前9時半現在も列は途切れない。
日本郵便北海道支社によると、集配や配達、窓口など通常業務は停止。帯広信金でも自家発電がある18店舗はATMを最低1台稼働させているほか、発電設備がない店舗も含め、窓口での現金の引き下ろし額を10万円に制限している。
栗林石油Dr.Driveセルフ西帯広店(西19北1)では、緊急用発電機を使用。給油の機械を作動して地下に貯蔵しているガソリンなどをくみ上げて営業している。担当者は「午前7時から開店し、会員以外に、現金の支払い(20リットルまで)のみ対応。在庫が切れ次第終了となる」と話していた。
交差点 手信号で誘導
十勝管内は地震の発生と停電の影響により、自家発電機能を備えるものを除いて信号機の作動が止まった。幹線道路では時速約50~60キロで走行する車両が多かったが、細い道では徐行し、互いに進路を譲り合う場面が見られた。
帯広警察署によると、午前5時ごろから同署の交通課署員13人が帯広市、幕別町、音更町の6カ所で、十勝機動警察隊の隊員6人が同市と幕別町の3カ所で交通整理にあたり、交通量が多い交差点で手信号で交通誘導を行った。同署の木下清人交通官は「停電が続くようであれば、不要不急の外出は控えてほしい」と呼び掛けている。
同署管内では、地震発生後から複数件の交通事故が発生しているが、同署は「地震や停電との因果関係ははっきりしていない」として件数を公表していない。人身事故の発生はない(6日午前9時半現在)。
とかち広域消防局によると、6日午前0時~同9時半に火災報知器の作動による出動が7件あった。「普段よりも多く、地震の影響とみられる」(同局)が、火災は確認されていない。
また、施錠された家主と連絡がとれないなどの救助要請3件もあった。十勝総合振興局によると、帯広市内の80代女性が右肩を脱臼した。
JR、バスは運休
管内の交通網も運休が相次いだ。駅やバスターミナルでは利用を予定していた人らが払い戻しの手続きに駆け付けた。
JRは6日午前、道内の普通、特急列車の運転を見合わせた。機械で払い戻し手続きができないため、帯広駅では午前6時半ごろから待合室前にテーブルを並べ、運休便の払い戻し証明の手続きを行った。上士幌町の福田浩枝さん(57)は「午前6時台の特急列車に乗り札幌の病院へ行く予定だったが、キャンセルしなくてはならない」と話した。
バスも信号機の停止により安全確保ができないことから運休した。帯広-札幌行きの都市間高速バス「ポテトライナー」は6日全便で運休。十勝バス(帯広)の路線バスは、陸別行きなど一部便は運行したが、市内線を含めほぼ全便運休した。北海道拓殖バス(音更)も路線バスのほか、旭川行き、釧路行きの都市間バスを運休した。札幌行きのポテトライナーに乗車予定だった鹿追町の女性(20)は、「バスターミナルに来て運休を知った。車で行くのも諦める。停電のままだと帰り道は朝より車が多いと思うので心配」と話していた。
地震に伴う設備点検のため、道東道は午前8時40分時点で、道東道の十勝清水IC-千歳恵庭JCT間を両方向で通行止め。この区間を含め道内4路線5区間で通行止めが続いている。
帯広市空港事務所によると東京(羽田)線のうち、エア・ドゥは午前9時15分帯広発62便、日本航空(JAL)は午前10時帯広発570便をはじめ、午前10時現在、通常運航している。空港連絡バスは全便の運行を見合わせている。