十勝毎日新聞 電子版

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米経済紙「WSJ」 2月から勝毎電子版で

対談を終え、2月1日のサービス開始に向けて握手するライト氏(右)と林社長(1月15日、東京都内のダウ・ジョーンズ・ジャパン本社)

世界中の情報 届ける 質高いジャーナリズム
WSJジョナサン・ライト氏×林浩史社長対談

 十勝毎日新聞電子版サイトで2月1日、米国最大の日刊経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」のオンラインサイトが購読できるようになる。サービス開始を前に、十勝毎日新聞社の林浩史社長とWSJグローバル・マネージング・ディレクターのジョナサン・ライト氏が、今回の提携の狙いや日米のメディア事情などについて意見を交わした。

国内購読2年で10倍 ライト氏
海外向く農業や宇宙 林氏


デジタル戦略
◆提携の狙い

 ライト氏(以下敬称略) WSJを世界に広げる中、コアな市場をどうするかが戦略だった。日本は米国を除くと最もWSJが拡大しているマーケット。過去2年で日本の購読者数は10倍になった。昨年5月には、われわれジャーナリストと世界的なCEO(最高経営責任者)、安倍晋三首相ら政治指導者、黒田東彦日銀総裁ら経済専門家が集まる「CEOカウンシル」を開いた。こうした世界的な戦略の延長上に十勝毎日新聞社との関係がある。

 十勝毎日新聞社はWSJと同様に高い質のジャーナリズムを行い、有料電子版というデジタル戦略がある。われわれにとって大切な読者層を持っている。

 林社長(以下敬称略) 米国・カンザス州の新聞社(ローレンス・ジャーナル・ワールド社)に勤めていたことがあり、30年前から米国の新聞社について調べてきた。紙の衰退を見て、これからは電子版に取り組まなければと考えてきた。

 ライト 世界を見ると各国で紙の衰退の段階は違う。例えばインドは紙の新聞がまだ強いが、通信会社などが大きな変化を起こしている。WSJが大切にするのはコンテンツの質。それに対してお金を払ってくれる人をいかに見つけてくるか。

  十勝は第一次世界大戦で欧州にグリーンピースを輸出した歴史がある。豆相場でお金をもうけ、世界に目が向いた。今はナガイモや枝豆などを輸出している。農家の若い後継者は海外に勉強に行くなど世界の農業への関心が高い。また、十勝には民間ベースで宇宙産業に参入する動きがあって海外の情報は大切だ。北海道で農業に並ぶ主要産業の観光にとって、インバウンドの存在は大きく、世界の情報を求めている。

「プロ」の責任
◆WSJの強み

 ライト 世界中の貿易、行政、商品価格、金融ビジネス、政府などの情報がある。世界中にジャーナリストがおり、質の高いコンテンツをお届けできる。提携によって両社は今後、イノベーションの知識や考えを共有し、互いのビジネスやプロダクトの上でより発展させることができるのでは。

  日本はまだ紙の新聞が強く、デジタルには慎重な見方がある。しかし、そろそろ始めないといけないという意識はある。友人の新聞社社長も提携の行方を注目している。

 ライト 今ほどニュースの情報源が大切な時期はない。フェイクニュースやニュースの「コモディティ(商品)化」の問題、アルゴリズムに基づいた記事の配信などがある中、高い質のニュースは重要だ。WSJは20年間にわたり、有料課金モデルを行ってきた。ニュース記事の価値が下がり、商品のように取り扱われているが、フェイスブックやグーグルとの関係にあってもプロのジャーナリズムを引き続き保つ責任がある。

  勝毎はビジネスとしてだけでなく、報道の質を重視している。地方紙として質の高い情報を維持し、高めていく努力をしている。

 ライト その意味で両社の目指している方向は同じだ。

データと分析を提供 ライト氏
デジタル報道を強化 林氏


提携関係が貢献
◆増える日本購読者

 ライト WSJ単独の購読者も増えているが、毎日新聞やニューズピックスの提携関係も大きい。また「ファクティバ」や「リスク&コンプライアンス」など、プロ向けの情報ニーズも高い。

  株高なども影響しているのでは。

 ライト 日本はアメリカと親密な関係にある。米大統領などの記事は国際的な関心がある。世界中のジャーナリストによる独自の視点のニュースが提供できる。ダウ・ジョーンズの製品は「バロンズ」や「ファイナンシャル・ニュース」、「ダウ・ジョーンズ通信」など、とにかくデータと分析を一般向けやプロ向けでもお客さんに提供している。

  札幌市が冬季五輪の誘致を始めており、北海道としてもグローバルな視点が必要になっている。良いタイミングだと思う。

3年で80万件増を
◆ダウ・ジョーンズの戦略

 ライト この2年前までは(新聞、電子版を合わせて)220万件だった購読者を、3年で全世界で300万件にする野心的な目標を立てた。広告収入は下がり、紙の新聞の収入は減っている。

 紙とデジタルの全体としての有料購読をいかに増やすか。会社全体では「メンバーシップ」を増やすことに集中している。メンバーシップとは、単に購読してもらうだけでなく、CEOカウンシルなどのイベントに来てもらうなど、プラスαを含む。

 デジタルは多くの課題の解決策になり得る。例えばコンテンツのストーリーをどう見せていくか。ジャーナリストだけでなく広告主にとっても、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、双方向の形でコンテンツを見せることができる。アプリでは、読者がどんな記事を読んでいるかをAIで解析でき、好みにあった記事を出すこともできる。

 ダウ・ジョーンズには幸い、広告、購読、プロ向け情報の3つの収入源がある。広告収入に頼っていたメディアは、現在、非常に苦しんでいる。

 ただ業界全体が非常に変わっており、全ての答えを持っている人はおそらくいない。その中でわれわれも勝毎も、いかにビジネスをしていくか。プロフェッショナルなジャーナリズムを保っていることが大切になる。

  勝毎としては電子版でWSJオンライン日本語版などを読むことができるようになり、地域のことはもちろん、世界的な視野での経済情報が手に入るようになる。デジタル報道をさらに強化し、質の高い報道を提供して地域の期待に応えていきたい。

<ジョナサン・ライト>
 ダウ・ジョーンズのマネージング・ディレクターとして、米国外のWSJの購読者拡大に向けた戦略の策定、遂行を指揮。特定の業界に特化した会員向け新情報サービス「WSJ Pro」や、金融業界やファンドマネジメント業界の分析、解説を提供するファイナンシャル・ニュース紙の発行人も務める。香港在住。

購読、追加料金なし
 十勝毎日新聞社は、WSJを発行するダウ・ジョーンズ(米国)と昨年12月、デジタル分野で提携を結んだ。勝毎電子版の契約で、WSJオンライン有料サイトが追加料金なしで購読できるなどの内容。同様の提携は国内では毎日新聞社、ニューズピックスに次いで3例目。

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