宇宙科学、大樹から 次世代型「圧力気球」開発へ JAXA 5、8月に飛翔試験
【大樹】独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は今年、大樹航空宇宙実験場(町多目的航空公園内)で4、5基の大気球実験を予定している。同実験は今年で3年目を迎え、各種データは、宇宙科学のさまざまな分野での活用が見込まれる。受け入れる町側は「気球といえば大樹というイメージが定着すれば」と期待している。
JAXAの大気球実験は1971年から36年間、三陸大気球観測所(岩手県大船渡市)を拠点に行われてきた。2008年から大樹に移転。昨年から宇宙科学の実験を本格化させている。
今年の実験は5月下旬からと、8月下旬からの2回に分けて実施。内容は、超音速飛行機に搭載するエンジンの性能実験、次世代型の「圧力気球」の飛翔試験など。ブラジルでの実験予定もあり、昨年の6基を下回る。
実験のうち、圧力気球はJAXAを中心に研究・開発が進められ、完成すると100日間以上の長時間飛行が可能になる。気球の開発・運用を手掛けるJAXA宇宙科学研究本部大気球実験室では、気球を使って「より重いものを、より高く、より長く」飛ばすことがテーマであることから、圧力気球への期待は大きい。
同実験室の吉田哲也室長は「実験はJAXAだけでできるものではない。大樹町や漁協などの協力はありがたい」と強調。町企画課も「できる限りサポートする。末永く続けてもらい、関連企業の誘致にもつなげたい」としている。(佐藤圭史)
/JAXA宇宙科学研究本部/吉田哲也・実験室長に聞く/
/気球は宇宙に行く“技術”/
/ジェット気流、さらに成層圏へ/
気球は宇宙科学の先駆けとして観測に用いられてきた。ただ熱気球とは異なり、実態については、一般的に知られていない。JAXA宇宙科学研究本部の吉田哲也大気球実験室長に、気球の役割や実験内容について聞いた。(佐藤圭史)
−気球は宇宙科学でどのような役割を担うのか。
空気に邪魔されずに宇宙について調べようとするとき、また、地球の外から地球について調べようとするとき、宇宙で実験したいという要請があります。そこで、宇宙へ行くための技術が必要となり、気球やロケット、人工衛星などが生まれました。
−人工衛星やロケットとの違いは。
コストや高度、実験時間、搭載できる観測機器がそれぞれ違います。実験時間はロケットが数分なのに対し、気球は大樹で数時間、南極で50日ほど続けられます。観測機器も気球はつり下げるだけなので柔軟に対応できます。気球は人工衛星やロケットに比べて最も低コストで、飛翔回数を増やせます。実験内容が多岐にわたり、大学院生などに実験機会が与えられるので、教育としての意味も大きい。
ただ、人工衛星やロケットは高度100キロ以上のいわゆる「宇宙」を飛翔できますが、気球は空気より軽いヘリウムガスによる浮力で飛んでいるため、空気がまったくない宇宙には行けません。
−実際にどのような気球がどこを飛んでいるのですか。
気球=図右参照=は、氷点下50〜60度にも耐えられるポリエチレンフィルムで作られています。上空では、大きいもので直径100メートルほどになり、バラスト(重り)を降下させて上昇させたり、ガスを抜いて下降させます。
大樹航空宇宙実験場から放球した気球は高度10〜15キロほどのジェット気流に乗って、東に最大300キロほど移動した後に再上昇、高度30キロ以上の成層圏や中間圏を目指します。続いて、逆向きの東風を利用して、気球が陸側へ戻ってきます=図左参照。実験はこの間に行われます。
−大樹へ移転してみてどうか。
実験の安全確保や安定したジェット気流を求めて大樹に移転しました。施設の広さや設備、大樹町の協力など、大変恵まれているのを感じています。地元の人にも実験を理解してもらえるよう、実験グループが内容を説明する機会を設けていきたいと考えています。
よしだ・てつや1962年、東京都出身。91年、東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。2006年4月にJAXA宇宙科学研究本部大気球観測センター教授に就任。08年から現職。専門分野は気球工学、粒子宇宙物理学。47歳。