帯広の繁華街を支えた「くすりのだるま川上」が閉店 60年余の歴史に幕
帯広市中心部の繁華街に立地する「くすりのだるま川上」(西2南10)が、8月31日に閉店した。店主の川上豊さん(94)が足のしびれで自宅から店舗に通えなくなったため。現在地で60年余り営業した川上さんは「お客さんはありがたかった」と感謝しており、夜の店の「ママさん」から惜しむ声も上がっている。(高井翔太)
陸別町出身の川上さんは十勝農業学校(現帯広農業高)を経て、東北薬科大(現東北医科薬科大)薬学部を卒業。同大の副助手として無機化学の実験などに携わった。
兄の川上直平さん(元帯広商工会議所会頭、2010年8月に89歳で他界)の依頼で広小路の薬局を手伝うために退職し、1955年に帯広に戻った。57年に27歳で独立し「大通薬局」を大通10に構えた。街の中心部に歯科や病院があったため、61年に調剤薬局として現在の場所に移った。
調剤業務に加え、昼は買い出しに訪れた農家ら、夜は手をけがした料理人や飲酒で体調を崩した客らがひっきりなしに訪れた。妻幸子さんや長女小野朝代さんらと共に、夜の店で働く女性に向け、化粧品の販売にも力を入れた。
移転当時は午前8時から午後11時まで営業。2階が自宅だったため午前2時でも起きて客の対応をした。「責任がある。『休業の時はボタンを押してください』と店に書いていた。街の食堂とも仲良くしており、みんなのために一生懸命やった」。休みは元日のみで、2日は午前5時から初売りで福袋を販売した。
薬剤師の朝代さんに店を譲るつもりで2003年に立て替え、2階はテナントとした。しかし幸子さんが00年に69歳で、朝代さんも20年に63歳で亡くなった。中心部にあった歯科や病院も閉院し調剤業務を辞めたが、市の中心部を支えようと気力を奮い、90歳を超えても60代の女性従業員と2人で午後9時まで店を開けてきた。
足しびれ通えず「年齢に勝てん」
閉店の決断は2カ月前。歩道を歩いていると突然、足のしびれに襲われた。診察を受けると背骨が曲がったことによる中枢神経の圧迫が原因だった。「責任があるが、店まで来なければいけない。こんな風になるとは思わなかったが、年齢には勝てん」。余力があるうちに店を片付けたいという思いもあり、急きょ幕を下ろすことを決めた。
中心部の飲食街には惜しむ声が広がる。帯広観光社交組合の森田かおる組合長は、5番館ビルでスナックを経営していたママの一人。「お店を開けたときからお世話になり、残念。化粧品や栄養ドリンクなどを配達してくれ、体調が悪いときはサプリメントなど体にいいものを教えてくれた」と感謝する。
帯広薬業組合の会長などを務め、市内最高齢の薬剤師でもあった川上さん。69年間帯広の中心部で人と薬に向き合ってきた。「1週間くらい温泉にでも入りたい」。肩の荷が下りたような、柔らかな表情でそう口にした。
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