盲導犬の「オペラ」役割終え引退、視力失った中原さんと歩んだ10年間
小学校への出前講座や啓発行事などで盲導犬への理解を広めてきたオペラ(10歳、ラブラドルレトリバー)が、20日で引退する。人間で換算すると70歳を超え、盲導犬としての役割を終える年になった。飼い主の中原雪子さん(帯広)は「本当にありがとう。でもいざお別れとなるとやっぱり寂しい」と話し、10年近く支え続けてくれた良きパートナーを優しく抱きしめた。(細谷敦生)
中原さんは10年ほど前に、病気で視力をほぼ失った。気分が落ち込む日々を過ごす中で、盲導犬ユーザーの誘いをきっかけにオペラと出会った。オペラという響きに「何てすてきな名前なんだろう」と感動した。しっかりと訓練を受けて利口だったが、最初の1週間ほどは、それまで一緒にいたトレーナーを恋しがっている様子だったと振り返る。
最初の1、2年間は、進行方向を見失うなど若さ故の失敗も時々あったが、3年目ごろから中原さんとの呼吸もぴったりになっていった。病院もスーパーも常に一緒に通い、オペラがあまりにもおとなしくて、「いないんじゃないかと思った」と笑い話になることもあった。
子どもとの触れ合いが大好きなオペラとは、小学校へ講演会に出向いた。視覚障害に関するイベントにも参加して理解や支援を求める活動に一役買った。中原さんは「オペラと歩んできたことでたくさんの人が寄ってきてくれた。それが少しでも盲導犬の認知向上につながっていたらうれしい」と話す。
オペラとの生活の中で印象的だったのは、ある日の信号のない交差点でのこと。中原さんが周囲の音などで判断して道路を渡るために「OK」と声を掛けたが、かたくなにオペラが拒んだ。すると右側から左折する車が目の前を過ぎていった。その時に中原さんは「おまえのおかげで助かったよ。本当に良い相棒だ」と、思い切り褒めてあげた。
十勝管内では現在、オペラも含め4頭の盲導犬が視覚障害者を支えている。盲導犬は10歳前後でその役割を終えて「引退犬」となる。中原さんも「元気な余生を過ごしてもらいたい」と願い別れることを決断した。オペラは今後、札幌の新しい場所で一般の家庭犬のように暮らすことになる。
中原さんは今後、白杖(はくじょう)を使い、これまでオペラと歩いてきた道を自力で歩くことになる。「わずかに見える目でも、これからはオペラの姿が見られなくなるのが今はつらい。しかし私も新しい一歩を踏み出していきたい」と目を潤ませながら語った。
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