「人生変えた味」ホッチーノコーヒーに感動し起業した英国スケート選手 W杯で帯広再訪
5年ぶりにスピードスケートのワールドカップ(W杯)が開かれている帯広市内に、海外選手たちでにぎわう店がある。電信通のカフェ「ホッチーノコーヒー」(東1南6)。開幕を翌日に控えた9日夕、5年ぶりにある選手が再訪した。同店との出会いで「人生が変わった」という英国人のコーネリアス・カーステン選手(29)だ。(北村里沙)
お供のミルが…
「レースの前、最後のリラックスの瞬間として、コーヒーを飲む」と言うカーステン選手。これまでの遠征先にはミルやコーヒー豆を必ず持って行った。
その荷物が必要なくなったのが5年前。前回帯広で開かれた2018年のW杯で来帯し、いつもの遠征のようにコーチとコーヒーショップを探した。見つけたのがブラジル出身のブルーノ・ダネジさん(34)と妻ほたるさん(34)が営むホッチーノコーヒー。カーステン選手は「店のとりこになり、毎日通った。中でもドリップバッグコーヒーには感銘を受けた」と振り返る。
上の3つはカーステンさんが2018年に感動したホッチーノコーヒーのドリップバッグコーヒー。下の5つはカーステンさんとスメディングさんが作ったドリップバッグコーヒー。五輪の色が割り振られ、(左上から)それぞれ「唯一無二の選手」「先駆者」「夢想家」「弱者、「強豪」。2人が経験してきた、そして今まで出会ってきた選手の特徴から名付けた
欧州では個包装で持ち運べるドリップバッグを見たことがなかった。購入した物を何度も飲んだ。「リンクに行く前、ホテルの朝食で。どこにでも持ち歩け、お湯さえあれば飲める」。しかも、すごくおいしかった。
練習拠点にしているオランダに戻り、すぐに恋人でもあるエリア・スメディング選手(25)に感動を共有した。「彼はとても興奮して私に見せてくれて、私もすごくクールだと思った。そして、ヨーロッパではこれと同じ品質のものが一つも見つからなかった」。販売している商品はあったが品質は及ばず、「自分たちで作ろう」と一念発起した。
30年ぶり五輪代表
19年春から材料を調達し、さまざまな焙煎(ばいせん)、豆、フィルターなどを試した。完成まで9カ月ほどかかった。ブルーノさんにもSNSで助言をもらい、豆の量は通常より4グラムほど多い12・5グラムに増やし、コクが出るようにした。コーヒーブランド「BREW’22」を立ち上げ、個包装のドリップコーヒーなどをオンラインで販売。2人の取り組みはBBCでも紹介され、話題を呼んだ。
英国ではショートトラックに比べて、2人が出るロングトラックは盛んではない。資金も十分とはいえず、22年の北京五輪に向けた資金はコーヒー販売で集めた。「BREW’22」は「オリンピックに絶対出場する」との野心を込めたブランド名だった。その結果、英国で30年ぶりのロングトラックの五輪選手になった。カーステン選手は男子1000メートルで9位にくい込む好成績を残した。
帯広で5年ぶりに再会を果たしたカーステン選手らは顔をほころばせた。「5年間、私たちはずっと帯広の話をしていた。彼は日々をカウントダウンしていた」とスメディング選手。ブルーノさんとほたるさんも「オリンピックの時は2人にくぎ付けだった。この店がきっかけでコーヒーバッグを作り始めたというニュースは、お店を始めてから一番最高のものだった」と話す。
夢はメダルと店
今大会でカーステン選手は3週間前にけがを負ったため出場せず、W杯第2戦で復帰を目指す。今後は「イギリスで盛り上がり始めているロングトラックの普及にさらに力を入れたい。コーヒーの力も借りて」と力を込める。
今大会前から同店にはSNSの口コミを頼りにたくさんの外国人選手が集っている。「この1週間はてんてこまい」。ほたるさんは笑顔で選手と会話する。9日には、北京五輪の女子500メートルで金メダルを獲得したエリン・ジャクソン選手(31)=米国=も訪れ、「ここのコーヒーはアメージング」と笑顔を見せた。
ブルーノさんとほたるさんとは「ホッチーノで『BREW’22』のポップアップや、クリスマスの前にはコラボでもしようか」と話し合う。スメディング選手は「まず、一番いい色のメダルを身につけること。そしていつか、コーヒーの小さな店を持ちたい」と話す。ドリップバッグの次は、欧州にもホッチーノのような人々が集う温かい店が生まれるかもしれない。