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アパート一室に猫49匹 続発する「多頭飼育崩壊」

こたつに身を寄せる猫(4月10日、柳田輝撮影)

 玄関を開けると、マスクを通して鼻を突く激しい臭いが充満し、呼吸が浅くなった。3月下旬、帯広市内のアパートの一室で49匹の猫が発見された。室内の壁は爪研ぎでめくれ、木製のドア枠もえぐられていた。押し入れは出産に伴うものとみられる血痕が残る。和室に置かれたこたつをのぞくと、10匹以上の猫が身を寄せ合っていた。別の小部屋でも20匹ほどがこたつに潜り込む。警戒心が強い猫は台所裏に隠れ、時折出入りしていた。(高井翔太)

 ペットブームの影で、飼い主が無秩序に繁殖させて飼い切れなくなる「多頭飼育崩壊」が多発している。排せつ物の異臭や鳴き声、害虫発生などは地域を脅かしかねない問題だ。飼い主の家庭に子どもがいれば、異臭が染みついていじめの原因になることもある。

爪研ぎでえぐられたドア枠)(4月10日、柳田輝撮影)

管内は年3件程度
 環境省の調査によると、2018年度の多頭飼育に関する苦情件数(2頭以上の飼育者に複数の住民から苦情が寄せられたケース)は、全国で2149件あった。このうち確認できた10頭以上の飼育は698件。十勝でも、行政や民間団体への相談件数を総合すると、年間3件ほどは発生している。

 前述の多頭飼育崩壊は、50代後半の飼い主の女性が職場で倒れ、親族が女性の独り暮らしの部屋に入ったことで明るみに出た。帯広市内のボランティア団体「つなぐねこ」に相談が入り、共食いから守るため、その日に子猫3匹と母猫1匹を保護。それ以外にも4匹の死骸や子猫の骨も見つかった。主婦3人が中心の「つなぐねこ」が対応するには限度を超えていた。そこで、札幌市内で保護猫シェルターを運営し、多頭飼育崩壊や飼育放棄などへの対応で実績のあるNPO法人「ツキネコ北海道」(札幌市)に対応を依頼した。

 多数の猫を保護し、譲渡へつなげるには、数十匹を飼育できる施設に加え、避妊・去勢手術が必要となる。ただ、そこでネックになるのが、1匹につき1万~3万円の手術費用だ。

不妊手術チケットも
 生活困窮者がペットに手術を受けさせるには、「さくらねこ無料不妊手術チケット」(公益財団法人どうぶつ基金)という制度があるが、十勝管内では前例がなかった。チケットを利用するには行政との連携が必要だが、動物愛護を主眼とする十勝総合振興局では利用に踏み切れなかった。今回は同法人の吉井美穂子代表(63)が他の自治体の実施例を帯広市に説明し、チケット発行にこぎ着けた。

 多頭飼育崩壊の原因の一つに、飼い主の認識不足がある。猫の繁殖力について吉井代表は「生後8カ月で中学生くらいの年齢になり、親子で近親交配が起き、あっという間に増える」と話す。また、猫1匹の終生飼育には200万円以上かかることを知らない飼い主も少なくないという。

 そして「人の問題もある」と吉井代表。今回は飼い主に相談相手がいなかったことも遠因だった。人も動物も暮らしやすい地域にするためには、行政と民間、地域が連携して、飼い主を孤立させないことが鍵になるだろう。

保護猫活動に取り組む吉井代表

「永年預かり制度」も実施
 ツキネコ北海道では、猫の飼育を諦めていた高齢者や健康不安を抱える人などでも猫と過ごせるよう、希望者に猫を預け、病気などで飼育が困難になった際には引き取る「永年預かり制度」を実施している。同法人(011・641・8505)へ。正午~午後6時。火曜定休。


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