酪農「八方ふさがり」 乳価引き上げや補給金、輸入削減求める声も
酪農現場が厳しい経営環境に直面する中、加工向け乳価や国の加工原料乳生産者補給金の引き上げ交渉が大詰めを迎え、管内の生産者はその行方に注目している。管内は増産をけん引してきただけに、今回の生産抑制や減産の影響も大きい。生産量を抑えきれずに牧場内で廃棄する動きも一部で出てきた。乳製品の在庫解消へ輸入削減を求める声も根強い。(安田義教)
「今の酪農の経営環境は八方ふさがり。緊急事態にある」。国などに政策要望を行う十勝酪農畜産対策協議会の坂井正喜会長(JA大樹町組合長)は、現場の窮状を訴える。
コロナ禍の需要減で現場は生乳生産の抑制を求められ、飼料価格をはじめとした生産費は高騰している。副収入になっていた子牛や初妊牛販売の市場価格も下落した。積み上がった乳製品在庫を削減し、乳価引き上げにつなげるため道内は来年度、2006年度以来となる減産が決まった。
11月分から飲用向け乳価がキロ当たり10円引き上げられたが、道内は飲用の割合が少ないためプール乳価で2円にとどまった。ホクレンと乳業メーカーによる乳製品向けの乳価改定は継続交渉中。乳製品向け生乳に交付される加工原料乳生産者補給金の交渉も大詰めを迎えており、地元は引き上げを求めている。
ただ、搾乳頭数を減らし1頭の乳量を少なくしても、管内の複数の牧場ではさらに出荷を抑えるため廃棄の動きも出てきた。11月末から廃棄を始めた士幌町の川口太一さんは「廃用牛を淘汰(とうた)してきたが、ここまで追い込まれると捨てざるを得ない」と苦渋の表情を浮かべた。
国は国家貿易としてバターや脱脂粉乳を年間約13万トン輸入しているが、川口さんは「大量に輸入する一方で国産を捨てている。輸入枠を減らせば在庫は解消されるのだが」と訴える。
新得町の友夢牧場も総頭数をこの半年で50頭減らして900頭にするなど抑制に努めたが、11月上旬からは牧場内で1日1~2トンの処分に踏み切った。植田昌仁社長は「この状態が来年も丸1年間続くなら経営へのダメージは相当大きく、耐えきれなくなる所が出てくるだろう。現場の大変さがどこまで上に伝わっているのだろうか」とつぶやいた。
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