就労継続支援施設カエルの阿部さん 十勝発のファッションブランド
帯広市内の就労継続支援施設KAeRU(カエル)で指導員として働く阿部貴之さん(29)が、来春にも十勝発のファッションブランド「TSUZURA(つづら)」を立ち上げる。十勝で育ち、東京やイタリア・ミラノでファッションデザインを学んだ阿部さんは2013年に重いうつ病を患った。病気克服のきっかけをくれた故郷と家族、障害者のため、アート性の高いブランドの展開を通じて「ボーダーレス」を社会に訴える。
阿部さんは留萌市生まれの音更育ち。音更小、音更中、帯広三条高校卒。東京・恵比寿のファッションスクール「バンタンデザイン研究所」に進学し、在学中にオンワード樫山主催の「TOKYO新人デザイナーファッション大賞」で秀作賞を受賞した。11年3月に同研究所を卒業し、ミラノでの留学経験も持つ。
阿部さんがデザインを手掛けるTSUZURAは、農耕馬やエゾシカの皮革で装飾を施した箱型のバッグをメインとする革小物のブランド。来春の始動に向け、都内のポリゴン青山で2日に発表展示会「人間の在りか」を開いた。
来春以降、首都圏の百貨店で期間限定のショップを開設したり、インターネット販売を開始したりして本格的な受注を始める。価格は6万円からを予定しているが、既にファッション業界から高い評価と関心を集めているという。
製造・販売は就労支援施設カエルを経営する「花」(帯広、久保陽一社長)の事業として行い、製造作業にはカエルの利用者らも協力する。
2日の発表展示会にはファッション業界関係者やモデルら約50人が来場。TSUZURAの製品約40点が並び、新ブランドの華やかさとアート性の高さが多くの人の心を捉えた。千葉県在住のインテリアデザイナー穂刈沙織さん(26)は「デザインもすごいが、一人の消費者としても『かわいい』と思ってしまう。自分でも欲しくなる」と話した。(奥野秀康)
利用者にも恩返しを都内で発表会
都内で発表展示会を開いた阿部さんに、新ブランド立ち上げに込めた思いを聞いた。
-ブランドのコンセプトは。
TSUZURAのアイテムは一つ一つ異なるデザインを持つが、一定の角度から光を当てると、すべて縦36センチ、横12センチの長方形の影ができる。人間は障害の有無や性差など個人差を持っているが、みんな同じ心というものを持っている。分け隔てる必要はない、との思いを作品に込めた。
-留学中にうつ病を患った。克服のきっかけは。
華々しいファッションの世界で、激しいプレッシャーにさらされたことが病気の原因。故郷の十勝の空気や、自分を諦めずにいてくれた家族、仲間たちがいたから、病気と折り合いをつけ、ひどい状態から抜け出せた。これからは、みんなに恩返しがしたい。
-ブランドを立ち上げた後の目標は。
実際に販売するアイテムの製造は、カエルの利用者に協力してもらう。TSUZURAの成功で、利用者のみんなが普通の人と変わらないお給料をもらい、同じように生活する姿を見られたらと考えている。