参加しやすい裁判員制度を 経験者と法曹3者意見交換
【釧路】裁判員裁判制度が、岐路に立たされている。今年で9年を迎えるが、裁判員を決める選任手続き欠席率と辞退率の増加という課題を抱える。特に十勝地域を管轄する釧路地裁の2016年の辞退率は75%と、全国平均(64・7%)を大きく上回る。市民が参加しやすくするためには-。20日に同地裁で裁判員経験者と法曹3者による意見交換会が行われた。(高津祐也)
「裁判官が考え方を同じ目線まで下げてくれて、素直に物事を言える雰囲気だった」「人によっていろいろな考え方があることを知ることができた」-。意見交換会に参加した裁判員経験者4人から一様に裁判に対する肯定的な意見が挙がった。
裁判員裁判では罪状認否や証拠調べ、被告人質問といった、一見難しそうな裁判の流れを市民にも理解しやすいよう弁護側、検察側双方が工夫している。論点をまとめた配付資料やパワーポイント・モニターを使うことも。釧路市の40代会社員男性は「検事の声が聞き取りやすくミュージカルみたいだった。求刑に対する判決以外にも、条件を決めるのにいろいろ話をし、評議中は感情的になって泣いてしまったこともあった」と振り返った。
裁判員は70歳以上や学生などの条件の他、一定のやむを得ない事情が認められる場合は辞退できる。制度開始当初の2009年の辞退率は全国で53・1%だったが、16年は64・7%まで増加。同じく裁判所から呼び出し状を受けた後の選任手続きの出席率は83・9%から64・8%まで低下した。
最高裁はこれらの理由を審理日数の増加や国民の関心低下などが関係していると分析している。さらに、裁判員裁判は原則地裁本庁でしか行えないため、道東を管轄する釧路地裁では、十勝など遠隔地の裁判員にとっては、移動や長期日程による負担が大きい。釧路地裁の辞退率75%は他の道内3地裁(札幌、旭川、函館)と比べ一番高い。
釧路管内の40代公務員男性は「仕事を考えると審理日数が短いにこしたことはないが、一人ひとりの精神的な負担が増えるのでは。きちんとした判断ができるのか疑問」とする。審理日数を少なくするためには選任手続きと審理開始を同じ日にすることでも可能だが、帯広市内の50代公務員男性は「裁判員に決まった後にすぐに審理となるとホテルを取るのも大変。精神的にも一日置いた方が楽」とこれに反対する。さらに、「遠隔地に住む人は一時的に宿泊費や交通費などの経済的な負担があり、前払いでもらえる仕組みがあると参加しやすくなるのでは。帯広の裁判所で開催できれば一番いい」と要望した。
市民参加を狙いに始まった司法制度。辞退率増加と出席率低下は制度そのものに関わってくる問題だ。裁判員経験者の1人は「周りの人に情報を発信していくことが大事」とし、裁判員へのメッセージとして「事件に至るまでにはいろいろな思いがあると分かった。チャンスがあれば勇気を持ってやってみてほしい」と話した。
2009年5月に始まった。裁判官3人と裁判員6人の合議で行う。1年ごとに裁判員候補者名簿が作られ、事件ごとにくじで裁判員が選ばれる。釧路地裁の今年の候補者名簿の人数は1800人。これまで同地裁では60件の裁判員裁判があり、計66人の被告が判決を受けた。