温もり伝わる大津の人々 まちマイ豊頃編
大津地区で唯一の食事処(どころ)「きいちゃん食堂」。大津産の新鮮食材を使ったラーメンやカレーが看板メニューの同店には、なぜかいつも店の外に笑い声が漏れ聞こえている。
店を切り盛りするのは、「きいちゃん」の愛称で知られる杉山君代さん(67)。誰とでも打ち解け、笑い合う姿が印象的だ。
客の足を向かわせているのは、「味」にも評価を得ているため。実際、お薦めの「しお つぶ・ホッキ入りラーメン」(1000円)を食べてみて納得。うま味とともに素材の柔らかさに驚かされた。新鮮さにひと手間加え、こだわりと工夫の利いた仕事ぶりが見えた。
「人のために愛情を込めて作るっていうことが、自分にとって商売以上に大切なこと」。杉山さんにとって、仕事へのこだわりは、自分へのこだわりでもある。そのために日々の過ごし方にも工夫している。毎日、起床とともに家事や日課を決まったスケジュールでこなし、お店を開ける前には必ず心の中で「気合入れ」。週1回、楽しみにしている踊りの練習に通い、会合ではお酒とともに積極的に若者との会話に入る。常に人と向き合う楽しさを満喫し、仕事につなげているのだ。
「しっかりとお客さまと向き合うためには、まずは自分が活気を持ってなきゃね」。笑顔の奥にきらりと光る目が印象的だった。
<メモ>
きいちゃん食堂 町大津寿町5、015・575・2331。月曜定休。営業時間は午前11時~午後3時。
店は昼時、常連客らでにぎわう。ここで出会ったのが、海の男の雰囲気を漂わせる中村初男さん(67)=大津港町17=。海や漁のエピソードを語る口調は熱っぽかった。
中村さんは漁師歴49年。父親は大津の網元。跡取り息子だった中村さんは18歳で海に出た。ただ、いきなり父親の元に入ったわけではなく、厚岸や広尾などで13年間、乗組員として長い下積みを送った。「海の世界はな、後継者だろうが下積みをしないと駄目なんだ。自分が一生懸命にやらないと若い者がついてこないからな」。
1996年に父親から「太平漁業」を継ぎ、今では親方。それまでには幾多の経験を積み、海や風、波を知り、その先を読む目を養ってきた。
一方、ひやりとする経験もあった。二十数年前のある朝、港で嫌な風を感じたものの、船頭の指示で仲間に少し遅れて出港したことがあった。沖に向かう途中、海がひどく荒れだし、仲間の船が故障したと無線連絡が入った。今まで経験したことのない波と風、潮。荒れ狂う中、何とか救助を成功させたが、「生きるか死ぬかの経験だった」という。
「漁場に行くのも、漁場から戻るのも、海の状態をみて判断しなきゃなんないんだ。難しいし、正直、嫌だなって思うこともあるよ。でも、それが好きだからずっと漁師をやってるんだ」。時折、話は冗談交じりになったが、いざ漁師の仕事の話となると目つきが真剣になった。
87年に手に入れた「第十八太平丸」(19トン)が良き相棒だ。手入れを惜しまず、いつも船体をなでてから漁に出るという。「船は家族と同じ、いや家族以上だね。まだまだ一緒に漁に出て、人並みに魚を捕って、笑って過ごしたいね」と笑顔を見せた。
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