うちのペレ、冬は越せるかぃ? ― ペレ導入放牧草地の冬枯れリスク評価法―
道総研 酪農試験場 草地研究部 飼料生産技術グループ
1.試験のねらい
令和2年度に道東の土壌凍結地帯のチモシー(TY)主体放牧草地へのペレニアルライグラス(PR)の追播技術とその導入効果が示された(酪農試・畜試、R3)。しかし現状では、PR追播実施の判断基準となる冬枯れの程度は、春の萌芽時期に目視で確認され、PRの新規導入の判断材料となる冬枯れリスクの情報はない。
本試験は、秋の利用状況と気象情報からPRの冬枯れリスクを評価する方法を開発する。
2.試験の方法
1)冬枯れリスク要因のひとつ、刈取危険帯を試験2)に反映させるため、秋季の最終刈取時期の処理を設けた模擬放牧試験において生育および収量を調査し、刈取危険帯の時期を気象情報により説明する。
2)作物成長速度あるいは乾物収量と冬枯れの関係を明らかにし、冬枯れに該当する作物成長速度を定義する。これに基づき、作物成長速度の予測による冬枯れリスクの評価法を開発する。
3)試験2)の冬枯れリスク評価法の検証を行い、道内のPR冬枯れリスクをマップ上に示す。
3.成果の概要
1)酪農試では、2016-17年および2022-23年で10月中旬、2021-22年で10月下旬に最終番草を収穫した区で翌年の1番草乾物収量が低かったことから、その時期が刈取危険帯であると示唆された。除雪処理による違いはなかった。畜試での刈取危険帯は判然としなかった。天北では10月中~下旬(1982-83年)、10月下旬(1984-85年)、10月中旬(1985-86年)が刈取危険帯と推察された。最終刈取り時期から根雪前までの日最低気温が0℃以上の日の日平均気温の積算値(EATmin0℃)でみると、刈取危険帯は80~180℃に相当した。
2)年間合計乾物収量の対照区(TY単播区あるいはPR無追播区)比は、前年秋のPR被度や春の作物成長速度と関係があり、前年秋のPR被度の影響度が高く、PR被度の把握やコントロールについての重要性が確認できた。対照区比95%未満を冬枯れとした場合、その閾値は、前年秋のPR被度37%、1番草の作物成長速度0.126(乾物kg/a/日)であった。1番草の作物成長速度の予測精度は高かった(R2=0.91)。説明変数の重要度は、冬期間の積雪深と日最低気温、前年秋のPR被度、長期積雪終日以降の平均気温、PR品種、EATmin0℃、前年の刈取り回数が相対的に高かった(図1)。各要因との関係は、既往の知見(前年秋のPR被度が高いほど・前年の刈取り回数が多いほど、作物成長速度が低いなど)と概ね一致する関係にあった。
なお、EATmin0℃は133℃付近で最小となった。
3)現地事例において、PRの定着程度×の冬枯れリスクの予測値は、0.87±0.19であり、0.5を閾値として判定した場合の偽陰性はなかった(表1)。PRを補助草種として利用した際の冬枯れリスクマップを示した結果、PR主体放牧草地よりも冬枯れリスクが低下することを示した(図2)。なお、同様の手順で作成したPR主体放牧草地での冬枯れリスクマップでは、道東地方での冬枯れリスクは一部を除き総じて高かった。
4.留意点
1)本研究のマップは、限られた地点で得られた調査結果に基づき、作成・検証されたものである。
2)個別事例での導入・追播の判断には、実際の秋のPR被度や管理状況、積雪状況の観察・確認が重要である。
3)本研究では、春に生育が低下し、秋になっても回復がみられないものを冬枯れと定義している。
4)本研究は、日本中央競馬会(JRA)畜産振興事業「土壌凍結地帯の放牧草地におけるペレニアルライグラスにおける追播技術高度化事業」により実施したものである。
5)本成果の一部は、農研機構メッシュ農業気象データを利用して得られたものである。
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道総研酪農試験場 草地研究部 飼料生産技術グループ 田中常喜
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