新型コロナ続く影響 農畜産物の需要拡大を
2020年は新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した。農業ではインバウンドを含む観光客が大きく減少したことにともない、農産物需要や価格が低下。在庫が過剰になるなど影響が及んだ。今なおコロナの影響が続く中、今後の需要拡大策や今年の営農をどう考えているか。生産者や専門家の視点で5氏に語ってもらった。
―昨年の管内JA取扱高は過去2番目の3,456億円を記録した。どのような1年だったか。
村田氏 スタートはコロナの影響がどれだけ出るか心配しながらの営農活動だった。干ばつや長雨の影響も受けたが、作柄は平年並みかやや良いぐらいで、とりあえずほっとした。
ただ小豆は十勝ではメインの作物の一つなので、そこの価格下落は生産者にとっては苦しかった。(素俵・60km で)2万円をこんなに早く割ってしまうのかというのが正直なイメージだった。
大野氏 去年はコロナ発生後に3、4月と和牛の枝肉を中心に暴落する状況になった。外食やホテル需要が激減ということで、肉の冷凍庫がいっぱいになり出荷できなくなるのではないかと心配もあったが、関係機関の努力や国の対策もあって最悪の事態は免れた。外食の中でも焼き肉店、また量販店や宅配は健闘したと聞く。価格の上がり下がりはあったが、生産は落とすことなくできた。
―農水省の対応はどのようだったか。
遠藤氏 昨年はコロナ対策が中心で、補正予算も3回組んでいる。コロナがいつか終息した時に、生産者が倒れてしまっていたら元も子もない。大きな額で予算を組み、われわれ出先の機関が説明して回った。オンラインも活用しながら説明した。
―遠藤氏は昨年、宗像氏と千葉氏は今年着任した。十勝農業の印象はどうか。
遠藤氏 十勝農業の規模は平均46ha で大規模経営が進んでいる。最先端の技術、スマート農業の活用も進んでいるし、何といっても生産者の年齢がすごく若い。平均67歳と言われる中、十勝は54歳。最新技術をどんどん取り入れて前向きにやっていこうという農業に対する前向きな姿勢がある。
宗像氏 十勝は1戸あたりの面積が非常に大きい大規模農業。酪農・畜産も増えてきており、畑作と良い形で両輪になってきている。
千葉氏 北海道の中でも一番の生乳生産量、ホクレン十勝地区家畜市場も年間取り扱い頭数が日本一の市場。今年もかなり生乳が伸びているという状況だ。頭数が増えていて、1頭あたり乳量も増えている。牧草やデントコーンの作柄も良いと聞いている。
―コロナの感染が拡大し、畜産への影響はどうだったか。
宗像氏 外食やホテルの消費が減ったが、道産牛肉に対して、安全安心という支持があったことによって最悪の事態にならずに何とかなった。量販店や宅配需要は良く、外食の落ち込みを若干カバーできた。
―畑作や野菜の影響はどうだったか。
村田氏 自分が生産する一つに加工用ジャガイモがあるが、加工用ジャガイモでも使う用途によって明暗が分かれた。例えばポテトサラダの原料になるジャガイモは観光向けの需要が多く、在庫が余った。逆にポテトチップス向けは需要が伸びて、引き合いが強かった。家で食べるのはポテトチップスということ。野菜は一昨年の価格が落ち込んでいて、その落ち込みの方が痛かった。
―青年部活動への影響は。
村田氏 私たちの活動は食農教育活動が柱だが、ホームステイ受け入れなど対面活動は難しかった。ただ広報活動として営農の様子をテレビで発信すると視聴者の反応が良かった。青年部の30秒動画コンテスト(「動画で発信!農の魅力コンテスト」)では、JA陸別町青年部が最優秀を受賞した。こうしたできる活動に力を入れ、農業の魅力を発信した。
―販売面の影響はどうだったか。
宗像氏 ホクレンは道外の販売展開では仙台から福岡まで事業所を持っているがコロナが拡大して4月中旬からは商談に行けなかった。提案で現物サンプルを持って行って話し合うことができず、歯がゆい思いがあった。ただ次第にウェブでも商談に取り組めるようになってきた。
遠藤氏 土産物の需要が低下すると、小豆の在庫がかなり増える。ポテトサラダの加工用ジャガイモの話もあったが、枝豆も食肉も基本的には業務用需要が低下した。また外国人技能実習生の往来も難しくなり、その影響も出ていた。そうした状況を本省に逐次伝えていた。
(高収益作物の)次期作支援交付金は途中で運用が見直され、支局にもいろいろな意見が来た。追加措置がつき年度中に交付ができる見通しになったが、作業が増えたことに申し訳なく思う。
―今季の営農への抱負や展望は。
村田氏 今年は根雪になるのが遅かった。皆、秋まき小麦を心配している。雪が溶けた後、どのように畑から顔を出してくるかが気がかりなところ。小麦は土壌凍結が入ると根が切れてしまい、枯れてしまうので心配だ。
土壌凍結は深く入っていて、1月で40~50cm くらいの計測が出ていた。春堀りナガイモを心配する声もある。近年は高温で、昨年は極端な干ばつもあったので、どう克服していくか。何とかカバーできるところはカバーして、今年も豊作でいきたい。
大野氏 天候で飼料作物の収量や品質が変わることもあるが、決まった量を決まった期間に出荷する。計画している生産ができないと迷惑をかけるので、きっちりと計画通りに生産したい。
また、ふん尿をいかに有効活用するかも大事。牛を増やすことについて二酸化炭素排出のことも言われ、生産を上げていく中では環境問題も考えていかないと消費者に説明ができない。環境も考えながら生産することで、消費者に理解をしてもらえるようにする。
―今年の農政で重点的に取り組むことは。
遠藤氏 政策面では、まずは食料安全保障の強化だ。また(30年に農林水産物・食品の)輸出5兆円という目標がある中で、農水省も「輸出・国際局」ができ、態勢を整えていく。1月の輸出は40%増で好調な滑り出しだった。
国内向けも重要だが、中長期的にみると、日本の食料の需要は縮小傾向にあるのは間違いない。農家の生産基盤を守るには、外に出て輸出にも取り組まなければならない。
先日「輸出産地リスト」が公開されて、十勝はチーズやタマネギ、ナガイモ、ニンジン、ニンニクの産地がリストアップされた。一定の優遇措置もあるので広めていきたい。新たなメニューもあり、輸出に取り組みやすい環境にある。ぜひ輸出促進セミナー開くなど十勝でも進めていきたい。
―ホクレンとして今年力を入れることは。
宗像氏 小麦がそれなりの作柄の中で、消費が若干落ちている。今年7月からの新麦を、早急に入れられる倉庫の態勢にしなくてはならない。小豆も販売強化をしていくことが必須。小豆は小学生に水ようかんを提供したり、消費の応援をしている。
消費拡大として、今まで小豆を使っていないところと連携をして新商品を開発していく。たとえばカルビーとは黒豆と小豆をフリーズドライにしたような塩味のおつまみを作っている。試験的に一部販売もしていてなかなか好評で、新しいニーズを捕まえていきたい。輸入に切り替えたお客さんにもう一度、道産に切り替えてもらうための地道なユーザー運動をしていく。
―バターの在庫も多いと聞く。
千葉氏 生産が順調に伸びていて、消費が減退しているので在庫が積み増しになっている。業務用中心に、脱脂粉乳・バターがはけていかない。まず飲用で飲んでもらうことが第一。メーカーとも協力して対策を打っていく。消費拡大運動で、牛乳乳製品を使ったレシピなどの紹介をしていくなど、消費拡大の活動を継続していく。
また特許庁主催「ブランド総選挙」では帯広畜産大の学生が(十勝和牛を)PRして特別賞を受賞した。そういった活動も生かしていきたい。
―最後に何か伝えたいことは。
村田氏 コロナの影響を受けて、行政やメディアでも消費拡大の運動やってもらい、非常に支えになった。感謝の気持ちを、安定生産で返したいという気持ちで営農に当たりたい。
遠藤氏 われわれ出先機関は、施策を現場に伝え、また現場の意見を聞くことが大事。いろいろな課題も現場と一緒に解決していきたい。要望や要請活動が行われれば、記録として残して全職員が見られるようになる。ぜひいろいろな意見や要望を挙げていただき、施策や予算に何らかの反映をしていければと思う。