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「ゴドゴドー」壮絶な濁流 清水氾濫現場ルポ

ペケレベツ川の氾濫で崩れ落ちた住宅(左)と、土が流され半ば宙に浮いた住宅(右)。手前には2棟の住宅があったが、濁流にのみ込まれた(5日)

 【清水】台風10号の大雨で氾濫した清水町を流れるペケレベツ川は住宅をのみ込み、市街地に浸水被害をもたらした。以前は草木が生い茂り穏やかだった同川沿いを5日に訪れると、土や岩が転がる荒涼とした茶色の景色に一変し、濁流で土が流され周囲の土地より約2メートル低くなっていた。復旧工事が進む中、過去に例がない大規模水害に見舞われた住民たちは不安を募らせていた。(池谷智仁)

警戒中の町職員自宅流失
 「川の流れは想像を絶していた。『ゴドーゴドゴドー』と巨大な岩が流されているような、聞いたことのないすごい音だった。町全体が濁流にのみ込まれるのではと感じた」。同川の氾濫で自宅が流された町内の男性(46)は恐怖を語る。

 男性は、妻と子ども2人、父親の5人家族。自宅は崩落した石山橋のすぐ近く、川から約40メートルの距離にあった。だが現在は、土と共に基礎から流され、住宅の痕跡を見つけることはできない。隣家も流され、付近一帯には斜めに崩れ落ちた住宅や、土が削られて半分宙に浮いた住宅が残る。

 雨が強くなった8月30日夕方、大学生の長女と高校生の長男を妻の実家に避難させた。「川が氾濫することはないだろう」。父と妻は様子を見ていたが、夜も水位上昇は続き、午後9時ごろに避難所に向かった。

 男性は清水町職員で、災害対策本部設置で警戒態勢に入り、家に戻ることはできなかった。通信環境悪化で夕方以降は家族と連絡が取れず、不安を抱きながらも業務に当たった。

 自宅周辺の状況を確認できたのは業務で外出した31日未明。濁流が道路にあふれ、自宅のすぐ横まで川が迫った。「川幅は通常の10倍はあった。一面、川だった」と振り返る。

 危険を察知し、すぐに引き返した。数時間後、巡回した同僚から自宅が流されたと聞かされた。「目の前が真っ暗になった」。妻と父は泣き崩れたという。

 生まれ育った愛着のある場所だが、「今は怖いというイメージしかない」。現在地に家を再建するかを含め、今後のことは何も決めていない。「夢と思いたいがこれは現実。家族が無事だった、それだけは良かった」。自分に言い聞かせるように語った。

ペケレベツ川沿いにある田口さんの住宅。濁流が土を削り、住宅は“崖”の上に立つ状態に

住民「川のそば怖い」
 「ペケレベツ」はアイヌ語で「明るく清らかな川」を意味し、清水町名の由来だ。場所によっては大人が歩いて渡れるほどの穏やかな川だった。住民も日常的に川を意識することは少なく、「清水は災害に強いと信じていたのに」と今回の事態に驚きを隠せない。

 記者自身も2004年から2年間、駐在記者として清水に住んだ。かつての住居を訪れると、流された住宅から20メートルほどの距離だった。当時は川が危険という認識は全くなく、大きな衝撃を受けた。

 町によると、同川の氾濫で市街地の4分の1が浸水。町全体で住宅全壊6棟、半壊は2棟に上った。

 紙一重で、甚大な被害を免れた人もいる。田口洋さん(80)の自宅は同川から約50メートルの距離だった。しかし、14本の松などがあった庭は土ごと流され、自宅は現在、濁流が生み出した約1・5メートルの“崖”の上に立っている状態だ。

 床上浸水の他、流木で外壁に穴が開き、基礎部分も損傷を受けた。「自宅が流されることも覚悟した。ただ、自然の力だから仕方がない」とため息をつき、今後も住み続ける考えだ。

 一方で、同川沿いで暮らすことに不安を覚える住民も。目の前の家が流され、橋に引っ掛かった姿をつらい気持ちで見た男性(67)は「自宅前の道路は深さ50センチほどの濁流となり恐ろしかった。もう一度自宅を建てるのであれば別の場所にする」と、雨が降る空模様を気にしながらつぶやいた。

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