プリズムとかち 三陸大気球観測所移転 宇宙エネ開発基地構想
【大樹】国内唯一の科学観測気球実験場、三陸大気球観測所(岩手県大船渡市)の移転決定に続き、同じく大樹町を舞台にした宇宙エネルギー開発基地の建設構想が28日までに明らかとなり、「宇宙のまち・大樹」が改めて脚光を浴びている。世界最先端の、しかも“恒常的”な研究・開発が射程に入ってきたことで、町が取り組む航空宇宙産業基地構想は新たな段階を迎えそうだ。町のイメージアップはもとより、科学者との交流といった教育的側面、経済的な波及効果など各面で地元関係者の期待が膨らんでいる。(北雅貴)
相次ぐ“朗報”歓迎ムード三陸大気球観測所は1971年に開所。大気球を人工衛星やロケットに並ぶものと位置付け、宇宙航空研究開発機構(JAXA、本部東京)が高度30−50キロ付近の成層圏まで気球を打ち上げる実験を続けている。気球大型化によるスペース不足などを理由に移転が決まり、来年度以降、大樹町多目的航空公園での本格的実験に入る。
一方、同じくJAXAが構想を進める宇宙エネルギー開発基地は、宇宙空間の巨大集光鏡で集めた太陽光エネルギーをマイクロ波などに変換して地球に送り、電力や水素を得る計画の技術実証施設。当初5年間の投資は実験装置の開発や基地建設で約500億円が見込まれているという。
3月下旬の大気球観測所移転決定からほぼ1カ月、相次ぐ“朗報”に「宇宙のまち」は歓迎ムードだ。まだ構想段階の宇宙エネ開発基地についても同様。伏見悦夫町長は「大樹で建設するかはJAXAから正式には聞いていない」と慎重ながらも、「もし実現すれば町にとっては素晴らしい出来事だ。大きな財産になる」と受け止める。
関係者の中で高い知名度町が航空宇宙産業基地構想を掲げて22年。特に大気球観測所の移転については、熱心な誘致活動とこれまでの実績が大きな背景にある。町は95年に多目的航空公園を開設。その2年後に航空宇宙技術研究所(JAXAの前身)と協定を結び、これにより本格的に航空宇宙関連の実験が行われるように。98年には独自に延長1キロの滑走路を舗装化。3年前にはJAXAが無人飛行船実験を行い、地球観測などに成果を収めている。
先に同公園の大型格納庫(全長85メートル、高さ35メートル)などで有人飛行船の整備を行った通販大手ニッセン(京都市)の関係者も「航空宇宙関係者の中で『大樹』の知名度は高い。立派な施設と広大な敷地、気象条件は予想通りだ」と話す。
大気球観測所に関しては、JAXAが5月末から格納庫と滑走路を結ぶレール敷設や新たな管制塔などの工事を行い、来年度の本格的な実験開始に備える。
町総務企画課によると、実験は年2回で、それぞれ研究者や学生ら40−50人が4、5週間ほど滞在。「どれほどの経済効果があるかは未知数だが、まちに活気が出るのは間違いない」(奥田眞行町商工会長)と期待は大きい。
官民一体でバックアップ町内では実験関係者の受け入れを視野に、地元の建設会社が新たにホテルを建設。町も教育的側面や将来的な学会開催などさまざまな波及効果を描きながら、「町内の宿泊施設を上回る人数が訪れ、打ち合わせなどで不便が生じるようであれば、公共施設を使ってもらっても構わない」と全面的にバックアップする方針だ。
単発的な実験から、より“恒常的”な研究・開発拠点へ。「宇宙のまち」をさらに確かなものとするには、官民一体の支援態勢づくりが必要なのはいうまでもない。