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十勝農業 19~20年 回顧と展望

 2019年の十勝農業は春先の高温・干ばつなど天候に左右された面もあったが、畑作が小麦を中心に豊作基調となった。酪農・畜産も生乳生産を中心に堅調に推移し、農畜産物の管内JA取扱高は過去最高となる3549億円を達成した。昨年の総括と新型コロナウイルスの影響など今年の営農の展望について、2氏に語ってもらった。

<かさい・やすひろ>  1951年音更町生まれ。帯広農業高卒。2013年からJAおとふけ組合長を務める。

◆十勝地区農協農産対策委員会委員長(JAおとふけ組合長) 笠井安弘氏
 -昨年の畑作や青果の作柄を振り返って。
 十勝全体で見ると酪農畜産が底堅かった。天候面の心配はあったが、生産量は畑作、野菜ともまずまずだった。ただ、ジャガイモは量がたくさん取れても価格が上がっていない。ニンジンも価格が飛ばずに終わった。小麦は前年が悪かったので数字は伸びたが、ビートは糖度が落ちた。作物によって個人差があったのではないか。

 天候は冬の間の積雪と、春の雨が少なかった。高温干ばつで、ニンジンなど早い作型のものは芽が出ても焼けてしまい、まき直しを強いられた。

 -2020~22年の畑作物直接支払交付金の数量単価が決まった。
 ビートの基準糖度は0.3度引き上がり16.6度となった。据え置きが望まれるが、計算式(直近の実績)からみて、そうならないだろうと思っていた。その点で道内選出の議員に頑張ってもらった。普通であれば大きく上がるものが0.3度の幅に収まり、ひとまず、ほっとしている。

 -1月に日米貿易協定が発効された。
 交渉した政府は影響を最小限に抑え「ウィンウィン」の結果と強調するが、勝負にウィンウィンはなく、どちらかが負けるものだと思う。政府発表を100%信じるのではなく、実際に始まってから、影響について動きを見ていかなくてはならない。

 生産者への支援としては、補助事業の要件を緩和してもらいたい。人的要件が足りていない個人でも、気軽に補助を受けられるようにしてもらえれば。

 -胆振東部地震など災害が多発し、気象条件も変化している。対応は。
 発電機への対応は進んでいるが、正直、農協や個人でどこまでできるのかという問題もある。もう少し時間がたてば、作付けするものが変わるかもしれないし、十勝の小豆は風味がないと言われる状況がくるかもしれない。気象の変化には神経質にならなければ。

 -人手の確保は。
 可能な分野は機械に任せないと、やっていけない時代になる。外国人雇用についても、特に畑作や野菜は通年雇用ができず、簡単ではない。農家に生まれた人が必ず後継者になるとは限らないが、一方でその逆もあり得る。農家をやってみたいという人を連れてきて、取り組んでもらうことが必要だ。GPSによる自動運転トラクターなど、技術は進歩している。昔のように農家の勘がなくてもやれる時代になっている。

 -今年の展望は
 新型コロナウイルスが拡大しており、加工工場が止まれば、十勝産の原料が供給できなくなる。使い切れない原料が出れば、今年以降の生産にも影響するだろう。需要が減れば価格の低下も懸念される。たとえば小豆は増産方向だが、土産物や和菓子に消費が向かなくなることが心配だ。東京五輪での消費にも期待していただけに、狂ってしまった面がある。一方外出しなくなることで、自宅で消費する食材は需要が増えている。

 営農としては、まとまった雪が降った時期が遅かったこともあり、(4月中旬時点で)春作業は去年と比べると遅いようだ。ただ秋まき小麦もここまでは良い状況。今後の天候も順調であることを願いたい。



<さかい・まさき>  1950年大樹町生まれ。大樹高校卒。家業の酪農を継ぎ、2008年にJA大樹町の組合長に就任。

◆十勝酪農畜産対策協議会会長(JA大樹町組合長) 坂井正喜氏
 -昨年の酪農を振り返って。
 乳価が飲用向けで4円上がった。管内のホクレンの生乳受託量は昨年度、前年度比で3.8%の伸び。生乳生産は7月下旬の猛暑で道内では生産が落ち、十勝も例外ではなった。しかし、その後はV字回復した。生乳生産の伸びと価格に支えられて、総体的に良い年だった。

 -飼料生産は。
 一番牧草は適期に収穫できた。デントコーンは倒伏もなく登熟が進み、農作業自体は順調だった。好調な生乳生産は、質、量ともに良かった飼料が要因の一つだ。

 牧草や飼料用トウモロコシの粗飼料が十分に使えるので、濃厚飼料の購入量を減らすことができ、経営コストの削減につながる。飼料の質がよいので、今年はさらに生乳生産が伸びることが期待される。

 -個体販売の状況について。
 初妊牛の市場価格が下がった時期もあったが、大きく落ち込まずに(価格は)戻っている。技術革新が進み、X精液(性選別精液)によって雌牛を希望すれば、増頭につなげることが可能。ホルスタインの腹を使って和牛を産ませたり、和牛を交配させて交雑種(F1)にしたり、経営判断で選択できるようになった。

 -肉用牛は。
 初生(生後2カ月齢未満)、素牛(生後18カ月齢未満の未授精の牛)など順調に高値で推移した。枝肉価格も1年通して安定していた。都府県の生産者が離農などで減る中、供給元として北海道・十勝が注目されている。

 日米貿易協定により牛肉の生産額の減少が懸念される。ただ一気に影響が出るのではな
い。いかに対策を打っていくかだ。酪農・畜産は規模拡大を続けてきた歴史がある。スケールメリットを追求し、新しい技術を取り入れて生産コストを下げなくてはならない。

 -生産現場の課題を。
 酪農、畜産ともに生産現場の人手不足は課題になっている。規模拡大と同時に労働時間は増える傾向にある。ロボット搾乳などの機械や外国人研修生を活用し、効率的に経営する時代。TMRセンター、ほ育育成牛の受託など分業化が進んでいるので、上手に選択しながら経営していくことが求められる。

 増頭に伴う家畜ふん尿の処理も大きな課題。バイオガス発電は停滞している計画もあるが、北海道電力の送電線増強の動きがあるので、それぞれ準備をしている。

 -昨年の総括と今年の営農の展望は
 16年は連続台風によって牛舎の被害や生乳流通、飼料の品質低下など大きな被害を受けた。18年は胆振東部地震によるブラックアウト(道内全域停電)によって生乳を廃棄する事態になった。昨年は大きな災害がなく、本当に良かった。

 生乳生産は、飼育頭数が増えているのと粗飼料が良かったこと、昨夏は猛暑でなかったので妊娠が順調なことから伸びが期待できるのではないか。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、副産物(子牛)の価格低下も想像される。乳価は決まった価格なので本来の搾りを努力していくことになる。牛が病気にならないようしっかり管理し、生乳を搾るという基本が大事な年になる。

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