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札医大の研究室から(15) 松村博文教授に聞く 2017/12/08

 「ホモ・サピエンス」がどのように地球上に広がり、文化を根付かせていったかということは、現代を生きる日本人をはじめ多くの人々にとって興味深いテーマとして長らく注目を集めている。また、その分布の過程や地域ごとの文化の違い、疾患の傾向に至るまでさまざまなことが分かってきた。専門に研究を続ける、保健医療学部理学療法学科の松村博文教授に話を聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

松村博文(まつむら・ひろふみ)

 1959年兵庫県生まれ。84年北海道大学理学部地質鉱物学科卒業。88年東京大学理学系研究科修士課程(人類学)修了、理学博士取得。国立科学博物館人類研究部主任研究官。2002年札幌医科大学医学部解剖学講座を経て、14年から現職。

浅利 「ホモ・サピエンス」はどのように地球上に広がっていったのか。

松村 ホモ・サピエンスは、約15万年前にアフリカ大陸で誕生した。しかし、すぐに広がったわけではなく、先にホモ・エレクトスという原人がいた。彼らは約7万年前にインドネシアで起きた大規模な火山噴火で絶滅。後続のホモ・サピエンスは寒冷期を経て、5万年前ころユーラシア大陸全域に一気に広がっていったとされている。

浅利 その後、人類はどのように分かれていったのか。

松村 さまざまな身体の特徴を持った人種が生まれているが、もともとはホモ・サピエンスという同じ設計図でスタートしている。
 なぜ、住む地域によって顔や体つきが変わったのかを説明するには、大きく3つの要素がある。どれも寒冷な地域に生息するものの特徴として、①蓄熱効果を持つため身体が大きくなる「ベルグマンの法則」②体表面積を小さくするため突出部が小さくなる「アレンの法則」③紫外線を積極的に取り込むためメラニンが少なく薄い体色になる「グロージャーの規則」―によって説明できる。住む地域の気候によって人間の外見的特徴が変わることを知らないと、無知からの人種差別が生まれることになる。

浅利 日本では「縄文人」と「弥生人」という祖先が知られているが、どのような系譜なのか。

松村 80種類の頭蓋骨などの骨格から人種のルーツを調べて分かったことだが、大まかに「縄文人」の祖先はユーラシア大陸南側の温暖な地域で暮らし、手足が長く彫りの深い顔立ち。「弥生人」の祖先はもともと北側の寒冷な地域で暮らし、手足が短く平坦な顔立ちが特徴だ。
 現在の日本人は北方寒冷型の弥生人の流れをくむことが多いとされるが、アイヌ民族や東北地方には縄文人の特徴が比較的濃くみられたり、西日本では弥生人の特徴が強い傾向にあったり。気候の影響で古代の稲作民がどこまで広がっていたかによって、混血に地域差があると考えられている。

浅利 医学の観点では、発掘された頭蓋骨などからどんなことが分かるのか。

松村 疾患については、梅毒や伝染病、感染症がいつ、どのように広がったのかなどが分かっている。例えば結核は3世紀から5世紀の古墳時代にユーラシア大陸からもたらされたとか、梅毒は江戸時代の男性で5人に1人が掛かっていたことが推測されている。

浅利 十勝の住民に向けて。

松村 日常、われわれの意識や医学の世界でも、人類の「進化」について意識されることは少ない。しかし、たどってきた過去の歴史は遺伝子に深く刻み込まれている。それらを理解することで、例えば少子化はなぜ起こるのか、などといった、未来の諸問題への解決の「手掛かり」を得ることができる。
 ホモ・サピエンスの寿命が他の生物に比べて長いのは、頭の部分が未熟な状態で生まれるので、子の成長に付き添うために、親が長く生きる必要があるからとか、老人が孫の面倒を見る役割を持つなど、独自の特徴がある。それらを知ることで、違った解決方法も見出せると思う。

包括連携協定について

 札幌医科大学(札幌市、島本和明学長)と十勝毎日新聞社(帯広市、林浩史社長)は2014年5月7日、産学連携による保健・医療・福祉の向上など、地域社会や相互の発展を目的とした包括連携協定を締結した。

 同日、札医大で行われた調印式には島本学長、林社長の他、増山壽一北海道経済産業局長も来賓として出席した。
 札医大と勝毎は、連携協定に基づき、健康や疾病予防をテーマにしたセミナーを十勝で開催するほか、新聞社の紙面やWEBサイト(電子版)で情報を発信する。帯広市は食と農林漁業を柱とした地域産業政策「フードバレーとかち」を掲げており、札医大の研究成果を生かしつつ、十勝の食の優位性を発信し、札医大の学生が十勝住民と交流する機会も設ける方針だ。
 具体的には、札医大講師陣が十勝で市民健康講座を開催するほか、十勝の農産物の健康機能性などに関する共同研究に取り組み、その成果を新聞紙面や電子版で発信し、十勝地域を中心とした住民の健康増進につなげていく考えだ。

※2014年5月時点の記事です。島本氏は2016年3月末で学長を退任されました。

札幌医科大学について

 札幌医科大学は1950年に開学し、60年を超える歴史を有する医科系総合大学。2007年に北海道立札幌医科大学から独立行政法人「北海道公立大学法人札幌医科大学」へ移行。5万7861平方メートルの敷地内には、大学校舎(延べ床面積5万8521平方メートル)、研究所(同1617平方メートル)ほか、附属病院(同6万5367平方メートル)などが配置されている。
 医学部、保健医療学部の2学部4学科で構成され、大学院(医学研究科、保健医療学研究科、=院生302人=)、助産学専攻科(学生20人)を合わせると学生・院生数は1347人(2014年4月1日現在)を数える。
 医師、看護師、理学療法士、作業療法士の国家試験では、高い合格率を誇る。過去10年間の医師国家試験の平均合格率は約95%で、全国平均の約90%を上回る。看護師については、過去11年間の国家試験合格率が100%となっている。

包括連携調印式 2014/5/7

島本学長インタビュー 2014/9/10

島本和明(しまもと・かずあき)

1946年10月7日 小樽市生まれ。71年札幌医科大学卒業。72年札幌医科大学第二内科入局。73~75年東京大学医学部第三内科へ国内留学。78~80年米国のサウスカロライナ医科大学へ留学。80年10月札幌医科大学第二内科講師、84年同科助教授、96年同科教授、2004~08年札幌医科大学附属病院病院長を経て、10年4月から16年3月末まで札幌医科大学学長。16年4月から日本医療大学の総長。

※2014年9月の学長在任時のインタビューです。

公開講座 ロコモを学ぶ 2014/10/22

“ロコモ”を防いでいきいきシルバーライフ ~骨と関節の健康を考える~

 札幌医科大学主催の道民公開講座が10月22日、音更町文化センターで開かれた。講師には、札医大整形外科学講座の射場浩介准教授を招いた。射場准教授は「ロコモティブ・シンドローム(略称ロコモ)」をテーマとし、1.ロコモの定義 2.骨粗しょう症と骨折 3.予防と治療の重要性 ― の3つの観点からロコモティブ・シンドロームについてわかりやすく説いた。
 同講座は、札医大と十勝毎日新聞社が5月に締結した包括連携協定に基づき行われた事業の第1段で十勝毎日新聞社が共催している。札医大と十勝毎日新聞社は今後も医療や健康、食などに関する情報発信などの事業を計画している。

< 講演要旨 >

1.ロコモの定義
運動器(体を動かすことに関わるすべての器官を指す)の障害のために要介護になったり、介護が必要になる危険性が高い状態と説明した。

2.骨粗しょう症と骨折
ロコモの原因となる運動器の障害の中で、骨粗しょう症が引き金になるケースが多いことを紹介。それを踏まえ、骨粗しょう症による骨折は単に骨折にとどまらず、生活の質の低下や生命にも関わるものであり、決して軽視してはならないとした。

3.予防と治療の重要性
ロコモの原因になることが多い骨粗しょう症の予防には、食生活と運動が重要で、子供のうちからバランスの取れた食事でしっかり貯金し、軽度の運動でも継続することが大切であるとした。また、家の中で転倒し、骨折する事例が多いことから、転ばないような環境づくりをすることや、骨粗しょう症患者だけでなく、予備群(骨密度70%以上80%未満)のうちから治療を始めた方がいいという考え方も紹介した。

さらに詳しくは紙面PDFで

2014年10月27日19面

10月27日19面

かちまい公開セミナー2015 2015/1/29

長寿遺伝子をご存じですか?老化を防ぐ人体のヒミツ

 十勝毎日新聞社主催、札幌医科大学共催の公開セミナーが1月29日午後2時から、帯広市内のとかちプラザで開かれた。同大医学部長の堀尾嘉幸氏が「長寿遺伝子」に関して研究成果などを説明した。
 同大と十勝毎日新聞社は昨年5月、包括連携協定を結び、健康や疾病予防などの分野で情報発信を進めていく構想。今回は昨年10月の「ロコモティブ・シンドローム」に次ぐ第2弾の公開講座で、約150人が聴講した。堀尾氏のほか、池田町ブドウ・ブドウ酒研究所の内藤彰彦所長がワインの健康機能性について講演した。

堀尾嘉幸(ほりお・よしゆき)

1955年10月9日 大阪府豊中市生まれ。81年弘前大学医学部卒業。85年大阪大学大学院医学研究科修了。同年大阪大学医学部附属病院基礎系医員、大阪大学医学部薬理学第二教室助手。88~90年米国のスタンフォード大学、ノースウエスタン大学へ主任研究官として留学。97年大阪大学医学部薬理学第二教室助教授、99年札幌医科大学医学部薬理学講座教授、2008年札幌医科大学医学部副学部長などを経て、14年4月から現職。

<講演要旨>

  1. 長寿遺伝子(サーチュイン)の研究はここ10年から15年で急速に進んできた。
  2. がんと老化には密接な関係がある。がん抑制遺伝子の「p53」は、がんの発生を抑制するが、老化を促進する因子でもある。
  3. 細胞は老化する。老化細胞は、分裂できずに増殖できない。また、いろいろなもの(ホルモンなど)を分泌し、周囲の細胞を老け込ませることもある。
  4. 活性酸素は細胞や染色体異常を引き起こす要因になる。マウスの実験では、この活性酸素を除去するSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)の活性が低いものは寿命が短い。
  5. 摂食制限をすると、SODが減らず、寿命が伸びることが、動物実験で分かっている。
  6. 赤ワインに含まれるレスベラトロール(ポリフェノールの一種)は、長寿遺伝子(SIRT1)を活性化する。マウス実験では、高脂肪食による肥満や高カロリー食による寿命短縮を抑制する結果がでている。心不全ハムスターの実験でも、延命効果があることが分かった。筋ジストロフィーの治療効果もある。
  7. 長寿遺伝子はみんなが持っている。大事なことは、まず食べる量を減らすこと。それと、運動も大事。エネルギーを消費すると、長寿遺伝子は活性化する。あとは、思い煩うことをせず、笑いを常に心掛けることではないか。

[主催]十勝毎日新聞社
[共催]札幌医科大学
[後援]十勝医師会、帯広市医師会

健康推進セミナーで島本学長が講演 2015/9/5

十勝あるくミルクプロジェクト

 歩くことと、牛乳などに含まれるたんぱく質の摂取を組み合わせた健康増進を提唱する「十勝あるくミルクプロジェクト」の事業として9月5日、健康推進セミナーが帯広市内のとかちプラザで開かれた。このプロジェクトは子供から高齢者まで誰もが手軽に参加できる「歩く」という行為と、十勝の主要産品の1つである牛乳を用い、住民の健康を促進する狙い。
 セミナーの第1部では、札幌医科大学の島本和明学長が「歩くことと健康について」をテーマに語った。

第1部

歩くことと健康について
島本 和明

講師
札幌医科大学
学長
島本 和明 氏

第2部

楽しい歩き方 実践講座
長谷川 昌二

講師
帯広市 健康推進課
健康運動指導士
長谷川 昌二 氏

[主催]
 十勝あるくミルクプロジェクト実行委員会
 (帯広市、一般遮断法人 帯広市文化スポーツ振興財団、十勝毎日新聞社)
[後援]
 フードバレーとかち推進協議会、株式会社 オカモト
[事務局]
 十勝毎日新聞社 事業局 TEL:0155-22-7555

※2015年9月時点の記事です。島本氏は2016年3月末で学長を退任されました。

認知症予防講座 - 脳の健康を考える -  2015/11/11

かちまいエイジングケア・セミナー2015

 十勝毎日新聞社と札幌医科大学による包括連携協定事業「かちまいエイジングケア・セミナー2015」が11月11日午後2時から、帯広市内の北海道ホテルで開かれた。同大医学部神経内科学講座の齊藤正樹助教(日本認知症学会認知症専門医・指導医)が認知症予防について解説した。講演要旨記事

講師:齋藤正樹 氏

札幌医科大学医学部 神経内科学講座助教授。日本認知症学会 認知症専門医・指導医。

[主催]:十勝毎日新聞社
[共催]:札幌医科大学
[後援]:帯広市、帯広保健所、十勝医師会、帯広市医師会

札医大附属病院・山下病院長に聞く 2016/1/5

脊髄損傷に神経再生治療

 交通事故やスポーツ事故、高所からの転落事故などで脊髄を損傷し、運動麻痺などの後遺症に苦しむ患者は全国で年間約5000人が発生するという。現状では有効な治療法がないが、札幌医科大学では山下敏彦教授(附属病院長・整形外科学講座)らの研究グループが、脊髄損傷に対する神経再生医療に取り組んでいる。患者自身から骨髄液を取り出し、骨髄間葉系幹細胞と呼ばれる細胞を培養した上で患者に再投与すると脊髄が再生するという画期的な治療で、日本で初めてとなる神経再生の医薬品を目指す治験として注目されている。山下教授にこの治療法について聞いた。(聞き手・道下恵次)電子版記事

山下敏彦(やました・としひこ)

1958年生まれ。札医大大学院医学研究科修了。88年に米国ウェイン州立大学バイオエンジニアリングセンター博士研究員、83年に札医大医学部整形外科講座に入り、2002年に同教授。14年4月から附属病院長。

道下 脊髄損傷とは。

山下 脊髄損傷は交通事故やスポーツ事故等で背骨が折れてその中にある神経が傷ついてしまうこと。こうした中枢神経は一端傷つくと回復しないといわれ、一生ハンディキャップを背負って生きていかなければならない。全国で年間5000人発生するといわれ、医療費もかかるし、その後のケアにかかわる社会保障費もかかる。そうした面からも社会的問題にもなっている。何より治療法がないということが問題なので、全世界的に脊髄損傷の研究が行われている。

道下 札幌医科大学ではどのあたりに着目して研究しているのか。

山下 本学の神経再生医療学部門では、20年前から神経細胞を再生させるという研究に取り組んできた。(H25年3月より)脳梗塞の神経再生に関する治験を開始している。この研究成果に基づき、数年前(H26年1月)よりその同じ手法を用いて脊髄損傷に応用できないかということで取り組んでいる。
 まずは患者の骨盤から骨髄液を取り出し、その中からいろいろな組織に分化する能力を持つ幹細胞を取り出して特殊な技術で1万倍に培養する。それを点滴で静脈内に戻すことによって損傷した脊髄に幹細胞が到達し、脊髄が再生するという理論だ。

道下 どのようなメカニズムで再生するのか。

山下 血流に投与した幹細胞には身体の損傷部分に集まるという性質がある(ホーミング効果)。まずは早期に幹細胞が損傷部分に達すると幹細胞からいろいろなファクター(成長因子)が放出される。それは神経を回復、保護するファクターや炎症を抑えるファクターだ。それが放出されると急性期の脊髄損傷を食い止める、あるいは回復させる効果がある。また、数週間後に到達した幹細胞そのものが神経に分化して再生するという複数の段階によるメカニズムを考えている。

道下 患者にとっては期待の持てる画期的な治療だが。

山下 神経再生はいろいろ研究されているが、ほとんどが損傷した神経部分に直接幹細胞を注入する研究だ。直接注入は手術が必要であったり、再び神経が傷つくこともあるので患者にとっては負担が大きい。本学の場合は点滴で注入し、血流に乗った幹細胞が損傷部分に到達するということが特徴だ。患者の負担が少ない治療といえる。
 本学では日本で初めてとなる治験という形で神経再生の研究が進んでいる。近い将来に実用化できるのではないかと期待している。現在は急性期の脊髄損傷を対象に行っているが、将来的には慢性期の患者や、さまざまな神経疾患に応用範囲を広げていけると考えており、さらに研究を進めていきたい。

塚本新学長に聞く 2016/4/1

 道内での地域医療の一翼を担う札幌医科大学は「進取の精神と自由闊達な気風」「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」との建学の精神の下、多くの優れた医療者を教育し、地域に輩出してきた。4月1日からは塚本泰司名誉教授が第3代目の新理事長・第11代目の新学長に就任し新たな体制でスタートした。今後の札幌医大が目指すべき医療攻究と地域への貢献について塚本新学長に聞いた。(聞き手・札幌支社長 脇坂篤直)

塚本泰司(つかもと・たいじ)

1949年旭川生まれ。医学博士。73年札幌医科大学医学部卒。95年同大医学部泌尿器科学講座教授、同大付属病院長を経て、2013年同大学を退職。同年慶応義塾大学大学院経営管理研究科に入学。15年3月同大大学院経営管理研究科修了、経営学修士。16年4月から札幌医科大学理事長・学長

脇坂 まずは新学長就任にあたって抱負を。

塚本 建学の精神が我々の進むべき道であり、これを充実させることが第一。特に学生や若い医師を集めるには優れた研究が必要だ。質の高い医療を提供するためにも研究という基盤がないといけない。研究には短期と中長期目標があるが、本学では再生医療やがんワクチンの先端研究が行われ、ようやく花開いてきた。5~10年後に花開く研究の種をまいていきたい。
 それと同時に地域医療への貢献が重要だ。まだまだ北海道の場合は医療者の数が足りず、そこを充実させたい。地域医療の充実のためにはマンパワーがいる。質の高い学生を集めるためにも大学が魅力的でなければならないし、そのためには優れた臨床も実践していかなければならない。今まで本学が取り組んできたことに加え、現代にマッチする状況を考えながらプラスアルファしていければと思う。

脇坂 学長ご自身はこれまでどのような医療研究に取り組まれたか。

塚本 私の専門は泌尿器科。1980年前半から北見や後志管内で、前立腺肥大症や前立腺がんの集団検診を行ってきた。今は見つけやすくなってきたが、当時は前立腺肥大症や前立腺がんは今ほど知られておらず、道内で集団検診ができたということは非常に意義があったのではないかと思う。それが発展して90年ぐらいから道内の漁村で、前立腺肥大症と前立腺がんがどの程度いるのか、米国の病院と共同研究した。米国と日本のデータを日本で初めて比較研究し、それが高く評価された。泌尿器科のがん治療に関しても基礎研究や治療法を確立してきた。札幌医大の泌尿器科手術を全国トップレベルにすることができたと思っている。

脇坂 札幌医大が目指す将来像とは。

塚本 建学の精神にある医学・医療の攻究と地域医療への貢献が我々が目指す道なので、理念としては最高の医科大学を目指したい。これを実現するためには何が必要か。大学も付属病院もハード面はしっかりしてきた。我々が与えられた課題はその施設をどう活用して建学の精神に結び付けるかということ。少子化の影響と社会ニーズが変わってきていることもあり、大学の競争は激しくなり、立ち位置も揺らいでいる。どういう学生を選抜してその学生を教育し、どういう医師に育てるのかが我々の目指す将来像に結びつく。資質ある若い医師を育てていき、最高レベルの医科大学に一歩でも近づけるよう努力したい。

脇坂 2014年に十勝毎日新聞社と包括連携協定を結んだが、今後の取り組みプランなどは。

塚本 地域への情報提供は非常に重要だと思っている。地域に医療、医学の成果を還元することによって住民に病気に対する意識を高めてもらう。公開講座や講演などでお手伝いできることはこれかもやっていこうと思っている。地域の要望も聞かせてもらい、十勝の方々への情報発信を積極的に考えていきたい。

塚本学長が講演 医療セミナー2016 2016/7/28

知っていますか?尿から分かる健康状態

 尿をテーマにした医療講演会「知っていますか? 尿からわかる健康状態」が28日、帯広市内のとかちプラザで開かれた。前立腺がん治療など最先端医療に携わる札幌医科大学理事長・学長の塚本泰司氏が、尿から読み取れる病気のサインについて講演した。
 十勝毎日新聞社と札幌医大の包括連携事業の一環で、210人が聴講した。塚本氏は、尿の色や量、尿の出方からわかる体の状態について解説。血尿は、血尿以外の症状の有無で原因の病気が変わるとし、「膀胱がんを見逃さないことが重要」と述べた。

[主催]
 十勝毎日新聞社、共催・札幌医科大学

塚本 泰司

講師
札幌医科大学
理事長・学長
塚本 泰司 氏

健康推進セミナーで鳥越教授が講演 -  2017/6/9

十勝あるくミルクプロジェクト

 「運動とミルクの深イイ関係-筋力アップで健康増進」と題した健康推進セミナーが9日、帯広市内のとかちプラザで開かれた。十勝毎日新聞社と包括連携協定を結ぶ札幌医科大学の鳥越俊彦教授が、筋肉量を保つことの重要性や牛乳と運動の密接な関連などを解説した。講演記事

鳥越俊彦氏
講演者:鳥越俊彦(とりごえ・としひこ)

札幌医科大学医学部 病理学第一講座 教授
Profile
1960年、鳥取市生まれ。
1984年、防衛医科大学校卒。
航空自衛隊航空医官、自衛隊札幌病院医官、札幌医科大学第一病理助手・講師・准教授を経て、2015年10月から現職。
北海道宇宙科学技術創成センター理事。専門は、がん免疫病理学と細胞ストレス応答学。

[主催]
 十勝あるくミルクプロジェクト実行委員会
 (帯広市、一般遮断法人 帯広市文化スポーツ振興財団、十勝毎日新聞社)
[事務局]
 勝毎光風社 TEL:0155-22-7555

札医大の研究室から(1) 鳥越俊彦教授に聞く 2016/10/14

 がん細胞には“女王バチ”の役割を果たす幹細胞と“働きバチ”細胞があり、あくまで幹細胞を退治しない限りがんの根治や予防はできない-。そんな研究が札医大で進められている。
 医学部病理学第1講座の鳥越俊彦教授に「がん幹細胞とがんの予防医学」について聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

鳥越俊彦(とりごえ・としひこ)

 1960年鳥取県生まれ。84年防衛医科大学校医学科卒業。90年米国ペンシルバニア大学医学部研究員、92年米国ラホーヤがん研究センター研究員、93年自衛隊札幌病院診療科などを経て2001年より同大学同学部病理学第1講座助(准)教授。15年から現職。

浅利 「がん幹細胞」とは、どのようなものか。

鳥越 がん組織を形成するがん細胞は、いわゆる“働きバチ”だけだと考えられていたが、最近の研究で“女王バチ”に相当するがん幹細胞の存在が明らかになった。いわゆる幹細胞は、組織の修復再生を担う正常細胞にもあって、ストレス耐性が強いという特徴がある。善玉か悪玉かの違いはあれ、その強さを持つ点で共通している。

浅利 がん幹細胞はどのような影響を及ぼすのか。

鳥越 いくら抗がん剤や化学療法で働きバチのがん細胞を退治しても、女王バチであるがん幹細胞が存在する限り、それが再び巣を作ったり、他の臓器などに飛んで巣を作ったりしてしまう。
 だから近年世界のがん研究では、働きバチは放っておいて女王バチであるがん幹細胞の退治に重きを置くのが主流になっている。

浅利 そのがん幹細胞を見つけ出す研究は、どの程度進んでいるのか。

鳥越 がん幹細胞は、抗がん剤にも化学療法にも抵抗力があり手ごわい相手なので、免疫の力で抑制する研究を進めている。私たちの研究で、がん幹細胞だけの目印として、男性の精巣にしか見られない特殊な遺伝子を持つことが明らかになり、それを約6種類見つけることができた。
 この目印をワクチンとして免疫することで、がん幹細胞をねらい撃ちする「がん予防ワクチン」の開発を進めている。

浅利 「がん予防ワクチン」のもつ特長はどのようなものか。

鳥越 今までは、例えば乳がんの場合、手術によってがんの主病巣を完全に取り切った後でも、ミクロレベルで他臓器へ転移している場合があるため、厳しい抗がん剤治療を強いられていた。しかし、このワクチンを投与すれば「細胞障害性T細胞」という、がん幹細胞を直接退治する細胞を活性化させることで、ミクロレベルのがん幹細胞を見つけて攻撃できるので、副作用の厳しい抗がん剤治療を行う必要がなくなる。
 近年「ニボルマブ」という免疫抑制を解除する新しい免疫治療薬が開発され、現在国内では悪性黒色腫と肺がん、腎がんの治療に承認されているが、効果が期待できるのは約3割のがん患者で、しかもがん予防効果は期待できない。また、1回の投与で約150万円と高価で副作用もある。「がん予防ワクチン」が実用化されれば、私たちが重きを置く「がんの治療だけでなく予防」が可能になり、安価かつ副作用もないというメリットがある。

浅利 最後に、十勝の読者に向けて。

鳥越 再生医療や免疫細胞療法などといった最先端の医療を施すには特殊な施設が必要で、道内では札幌に集中している現実がある。しかし、私たちが目指すワクチンは、どこの町のクリニックでも注射1本で簡単かつ安価に治療や予防が施せる。
 予防医療の確立とともに、医療の地域格差や貧富格差を解消する薬であることも目指しているので、今後に期待してほしい。

札医大の研究室から(2) 舛森教授に聞く 2016/11/11

 心の性と身体の性が一致しない「性同一性障害(GID)」。近年メディアなどで取り上げられる機会が増えたが、ごく身近に悩みを抱える当事者が多くいるといった現実は、あまり知られていない。
 2003年に道内で唯一専門外来を立ち上げてチーム医療に取り組んでいる、医学部泌尿器科学講座の舛森直哉教授に話を聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

舛森直哉(ますもり・なおや)

 1964年胆振管内むかわ町生まれ。88年札幌医科大学医学部卒業。94年同泌尿器科学講座助手、98年米国バンダビルド大学研究員、2001年札幌医科大学医学部泌尿器科学講座講師、06年同助教授を経て、13年から現職。

浅利 「性同一性障害」とは何か。

舛森 人は生まれる際、身体的性別の典型として男性と女性がある。そこに性の自己認識(性自認)という心の性別も重なり、それらが一致していると自覚する人が割合的には多い。しかし、生まれつき身体の性別と性自認が一致しないと感じる人がいて、その状態だと定義している。

浅利 そのメカニズムは分かっているのか。

舛森 明確には分かっていないが、胎児期の脳の性分化の過程で何らかの原因により身体と心の性にずれが生じるためではないかと考えられている。親の育て方が悪いとか、そういった後天的な要因で性自認が変わるわけではない。

浅利 どのくらいの割合の方がいるのか。

舛森 はっきりとした統計はないが、私たちが13年前に専門外来を始めてから500人以上の方が受診している。北海道の人口が約540万人なので1万人に1人はいることになるし、受診していない人を含めると世間一般に思われているよりもはるかに多いだろう。

浅利 性同一性障害と同性愛についても混同されがちだが、その違いは。

舛森  L(レズビアン)G(ゲイ)B(バイセクシャル)T(トランスジェンダー)などと分類されることもあるが、前の3つは性自認に不一致はない性的指向。トランスジェンダーがすべてGIDとは限らないが、性同一性障害は、性自認そのものに違和感がある状態。性自認と性的指向は分けて考えなければならない。

浅利 GID治療はどのようなものか。

舛森 以前は、精神科で心の性別を身体の性別に合わせようとする治療が行われていたが、現在は、心の性別に身体の性別を合わせようとする治療が原則。性ホルモンを投与することで心の性別に近づけるが、外性器は大きくは変化しないので、外陰部の改変を望む場合には性別適合手術を行うこともある。

浅利 治療での問題点は。

舛森 現在それらの治療は健康保険適用外のため、かなり高額な治療や入院費がすべて自己負担になる。そのため、手術料金の安い海外で行う人もいるが、合併症などのリスクが高い。現在、これら治療の保険適用を求めて関連学会などと連名で厚労省に要望書提出の準備を進めている。保険適用によって治療の敷居が下がるだけでなく、一般的な理解も進むと期待している。

浅利 最後に、十勝の読者に向けて。

舛森 以前より理解は進んできていると思うが、まだまだ差別や偏見は存在する。たとえば性別を記入する際やトイレの問題など、当事者は日々の生活で生きづらさに直面している。まず「そういう人がいる」と知ることが大切。道内での専門外来は私たちだけという状況で、今後は受け皿の少なさも変わっていけばと思う。

札医大の研究室から(3) 長峯教授に聞く 2016/12/9

 たくさん人がいる中で、自分の名前を呼ばれた際にそこだけは認識できるのに、他の会話の内容は入ってこない―。
 パーティー会場にいる状態になぞらえて「カクテルパーティー効果」と呼ばれる、人間の持つこうした能力について研究する医学部神経科学講座の長峯隆教授に話を聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

長峯隆(ながみね・たかし)

 1957年鹿児島県生まれ。82年京都大学医学部卒業。90年同大医学研究科脳統御医科学系脳病態生理学講座助手、2000年同附属高次脳機能総合研究センター臨床脳生理学領域助手、01年同附属高次脳機能総合研究センター臨床脳生理学領域准教授を経て、08年から現職。

浅利 カクテルパーティー効果とは、どういった仕組みで起きているのか。

長峯 私たちは、読書をする際に点として注視する周りの10文字程度は認識できるとされている。聴覚も同様で、たとえば左に意識を向けている時は、自然と右への注意が散漫になっている。つまり、注意をどこに当てるかを意識的に制御することができる。

浅利 音に関して、脳内では何が起きているのか。

長峯 左右両耳で同時に聞いているとき、人はあまりどちらの耳から入るかを意識していない。ところが、パーティー会場で左と右から別々の会話が入ってきた場合、注意を向けた特定の会話に集中して他は無視するように脳の聴覚野で調整を行っている。私自身も実験の被験者となり実感したが、はっきり自覚できる場合もあるし、無意識の領域で必要なものとそうでない情報を切り分けていることもある。

浅利 いくつくらいのことに注意を払えるのか。

長峯 通常、それぞれの耳で2つずつの情報を把握できるとされている。よく、聖徳太子が10人の話を一度に聞いたという説話があるが、実際オーケストラの指揮者はすべての楽器の音を同時に聞き分けられるという通り、意識を傾けていれば、人間はかなりの音に対して別々に反応できることが分かっている。

浅利 注意を向けていない部分はどう扱っているのか。

長峯 われわれは日常生活で、外部環境の状態について浅く広く情報を受け取っているが、特に意識しているわけではない。しかし、歩いていて突然横から大きな音がしたら、とっさに振り向く。特に注意していなくても、突然不意に起こる変化に無意識に反応できる。これは受動的注意と呼ばれる。人間が持つ生体防御能力のひとつといえる。

浅利 能力の個人差や、訓練で向上の可能性はあるか。

長峯 ひとつのことに集中しやすい人、全体に注意が行きがちな人というように個人の傾向はあるが、誰しも"注意の焦点化"や"情報の選択化"を脳の中で行っている。今ある能力をさらに上げる目的については賛否両論あるが、失われた能力の回復や、危険を察知する能力を身につけるという意味で、解明された脳の仕組みを応用することはできるのではないか。

浅利 最後に、十勝の読者に向けて。

長峯 われわれが研究しているのは、人が体感できることが、脳の中でどのように行われているのかということ。脳を含め、人の機能は千差万別。たとえば脳外科手術をする際の手がかりとして、その個性を司る仕組みに極力近づくことで治療の手かがりにもしようとしている。気になることがあれば是非訪ねて頂きたいし、私たちが出向いて説明する機会もあればと思う。

札医大の研究室から(4) 櫻井教授に聞く 2017/1/13

 遺伝子や遺伝がもたらす病気への影響について研究する「遺伝医学」。札幌医科大学では専門の遺伝外来があり、多くの人が気軽に相談することができる。
 遺伝といえば、揺るがしがたい決定的要素のように思いがちだが、実際はどんな研究なのか。遺伝医学の櫻井晃洋教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

櫻井晃洋(さくらい・あきひろ)

 1959年新潟県生まれ。84年新潟大学医学部卒業。87年米国シカゴ大学甲状腺研究部、94年信州大学医学部老年医学講座助手、2003年同社会予防医学講座遺伝医学分野助(准)教授を経て、2013年から現職。

浅利 遺伝医学とは具体的にどんなものか。

櫻井 人の体の特質や特徴が、世代を超えて伝えられていくメカニズムを究明する"タテ"の面と、人は一人ひとり皆違うという多様性の理由を遺伝子のレベルで明らかにする"ヨコ"の面の両方を究明するものだと定義づけている。

浅利 遺伝要因はどのくらい私たちの健康に影響するのか。

櫻井 すべての病気や健康状態には、生まれつきの体質(遺伝要因)、生活習慣や環境(環境要因)、加齢(時間要因)という3つの要素が影響する。遺伝要因だけで発病する病気もあるし、中毒や事故のようにほぼ環境要因だけが関係するものもある。実際には遺伝要因がまったく関係しない病気はほとんどない。ただ、その割合や医療として関与できる程度は病気によってさまざま。
 たとえば、患者数の多い高血圧や糖尿病でも、同じような食生活や運動習慣、塩分摂取を続けても病気になる人もならない人もいる。そこは、それぞれがもつ遺伝要因が影響しているが、その部分に医療として介入できるかといえば、そこまではまだできない。

浅利 では、医療として有効なのはどういった場面か。

櫻井 遺伝要因の関与が大きい、いわゆる遺伝性の病気の中には、遺伝子の情報によって診断が確定するものもや治療方針が決まるものが増えてきた。たとえば、年間約9万人が発症する乳がん患者のうちの5%は遺伝性の体質が原因で発症しているとされている。遺伝性であることが分かった場合には術式の選択や放射線治療の是非、さらに最近では発症前の予防的乳房切除なども考慮されるようになっている。また、遺伝性疾患では兄弟姉妹や子どもなども同じ体質を持っている可能性があり、遺伝子の情報をもとに血縁者の病気の早期発見や早期治療、あるいは予防的治療も可能になる。

浅利 遺伝子や遺伝的要素は人にとって決定的なものというイメージを持つが。

櫻井 むしろ私たちの健康状態や体質、能力などで遺伝要因が関与する程度は、多くの人が考えているよりも小さい、人は遺伝子だけでは決まらない、ということを強調したい。最近はインターネットなどで手軽に病気のなりやすさや体質を調べるという遺伝子検査サービスが増えているが、科学的根拠は極めて乏しく、占いと大して違わない。
 われわれ社会の認識として「人はみな違い、だからこそ一人ひとりは唯一のものとして尊重されなければならない」という価値観を共有することが大前提。多様性の一側面として遺伝性の病気がある、というフラットな受け止め方が大切だと思う。

浅利 最後に、十勝の読者に向けて。

櫻井 すべての人は例外なく数十の遺伝性の病気の要因を持っており、決して特別なものではない。とはいえ、ひとたび当事者になれば戸惑いや心配を抱くのは当然のこと。遺伝に関してはまだ誤解も多い。どんな些細なことでも良いので、一人で悩みを抱えず専門の外来で正しい知識を得てほしい。私たちの遺伝外来は、心配ごとのお手伝いをするところ。気軽に専用ダイヤル(011-688-9690)に電話をして頂きたいと思う。

札医大の研究室から(5) 下濱教授に聞く 2017/2/10

 老若男女問わず多くの人が気にする「物忘れ」と「認知症」。病気に分類されない物忘れと、病気である認知症との違いは何で、その境目はどこにあるのか。専門分野として研究を続ける、神経内科学講座の下濱俊教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

下濱俊(しもはま・しゅん)

 1956年東京都生まれ。81年京都大学医学部卒業、87年同大学院医学研究科修了、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部神経科学部門研究員。2000年京都大学大学院医学研究科脳統御医科学系専攻脳病態生理学講座臨床神経学領域講師、01年同准教授を経て、06年から現職。

浅利 「物忘れ」と「認知症」の違いは何か。

下濱 「物忘れ」は、さっき聞いたことを忘れてしまうとか、昨日の出来事を忘れてしまうといった記憶障害の一種。「認知症」の場合は、それに加えて洋服を着られなったり、計画を立てて実行・決断といった社会生活を営む上で必要な複数の認知機能が障害されて支障をきたすようになったりする状態をいう。
 例えば、前日に日ハムの野球観戦をして、ピッチャーが誰か思い出せないのは「物忘れ」で、行ったこと自体を忘れてしまうのが「認知症」だ。

浅利 認知症の判断はどのように行うのか。

下濱 ご家族が、今まで見られなかった言行や感情の変化が気になるとか、置き忘れや同じことを繰り返し聞くといったことが多くなり、心配して受診するケースが多い。診断では、例えば今日の年月日を言ってもらう、3つの言葉を挙げて別の会話を挟んで再度質問する、などといった簡単な神経心理テストを行い、見当識や記銘力が障害されていないかを診る。

浅利 診断されてから重要なことは何か。

下濱 原因が何かを明らかにすることが、非常に重要だ。ひと口に認知症と言っても、全体の約6割を占めるアルツハイマー型のほか、脳梗塞や脳出血後に起こる血管型、パーキンソン病のような症状をきたすレビ-小体型など幾つかある。ほかに、転倒して数か月たって物忘れ症状が出るケースもあるが、この場合は外科的処置で元の状態に戻る。コンピューター断層撮影(CT)やMRI検査で脳の形態異常の原因を明らかにした上で、適切な治療やケアをすることが重要だ。

浅利 本人や家族に必要なのはどんなことか。

下濱 アルツハイマー型をはじめ認知症は、現代医学でも完治や進行を食い止めることは難しいが、早期の診断と発見により投薬などで進行を抑制することが可能になっている。また、脳血管障害や糖尿病、高血圧といった生活習慣病を合併していると進行を早めるので、それらの治療や適度な運動、食事の見直しも有効だ。
 家族はどうしても認知症になる前の状態を思い出し「どうしてこうなったのか」「しっかりして」などといいがち。まず、認知症という病気なんだということを理解して、しからないなど適切な接し方を知ることがとても大切になってくる。

浅利 最後に、十勝の読者に向けて。

下濱 2025年には日本の認知症患者は700万人を超えるといわれている。誰しも年齢を重ねると、物忘れの症状が出てくるのは自然なこと。一人で悩まず、かかりつけ医の紹介などで「もの忘れ外来」を始め神経内科や精神科、脳外科といった脳の疾患の専門外来を訪ねてほしい。
 そして、病気とどう向き合い、過ごしていくかは、デイケアをはじめとした福祉施設や行政でも相談できるので、それらを積極的に利用して、本人も家族も無理のない介護など長い目で見通していくことが大切だ。

札医大の研究室から(6) 堀尾教授に聞く 2017/3/3

 筋力が徐々に低下し、歩行や呼吸が困難になるケースのある(遺伝性)筋ジストロフィーの根本的な治療法は、現在もまだ見つかっていない。だがその症状の進行を遅らせる可能性を持つ長寿遺伝子(サーチュイン)の研究が行われている。
 新たな治療法として注目される研究に取り組む医学部薬理学講座教授で、医学部長を務める堀尾嘉幸教授に話を聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

堀尾嘉幸(ほりお・よしゆき)

 1955年大阪府生まれ。81年弘前大学医学部卒業。85年大阪大学大学院医学研究科修了、同医学部薬理学第2講座助手、88年スタンフォード大学客員教授、94年同医学部薬理学第2講座講師、97年同医学部薬理学第2講座助(准)教授、99年札幌医科大学医学部薬理学講座教授、2014年から同医学部長。

浅利 筋ジストロフィーとはどんな病気か。

堀尾 筋肉が破壊・変性と再生を繰り返す遺伝性の疾患で、変異する遺伝子の種類により生命に関わる重篤なものから特に自覚症状がないものまで、さまざまなタイプが存在する。
 中でも「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」は、次第に筋萎縮と筋力低下が進行する疾患で、根本的治療法がない難病だ。寿命が普通の人よりも短く、著しく日常生活が制限される。命に関わる問題として呼吸不全やそれに伴う感染症、さらに心筋の障害による心不全がある。

浅利 新たな治療法とされるのはどんなものか。

堀尾 これまで、副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)が唯一の薬物で、病状の進行を2年程度遅らせることができる、といわれていた。最近になり、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを持つ動物モデルに対して、長寿遺伝子が作るタンパク質「レスベラトロール」が骨格筋と心筋に治療効果を持つことを見いだした。

浅利 レスベラトロールが持つ効用や研究はどんなものか。

堀尾 ブドウやピーナッツの皮などに含まれるポリフェノールの1つであるレスベラトロールは、体内の脂肪を燃焼させ、体の糖(グルコース)の利用を促進するほか、免疫反応を抑制したり壊れたDNAを修復したりする働きが知られている。動物を使った研究でも、一部このようなことが証明されている。
 私たちもレスベラトロールの働きに注目し、心臓の働きが自然に悪くなるようなハムスターにレスベラトロールを投与すると、心筋酸化ストレスが下がり心肥大や心筋線維化が抑制され、さらに寿命も有意に伸びることを見つけた。この研究が、今回の筋ジストロフィーの研究につながっている。レスベラトロールは筋ジストロフィーの筋肉の力を増したり、心臓が悪くなることを抑制したりした。

浅利 長寿遺伝子とはどんなものか。

堀尾 もともと酵母で見つかった遺伝子で、酵母にその遺伝子を多く持たせると寿命が延び、逆にその遺伝子を取り除いてしまうと寿命が短くなる遺伝子のこと。この遺伝子は体の中でタンパク質に変えられ、このタンパク質は細胞の中で他のたくさんのタンパク質の機能を変えるような働きをしている。
 ただし、この長寿遺伝子が私たちの体でも長寿をもたらすかどうかは、よく分かっていない。だが、その活性化により体の酸化ストレスが下がったり、筋肉の力が増したり、心臓の不具合が抑えられたりする働きは分かっている。

浅利 十勝の人たちに向けて。

堀尾 札幌医科大学は北海道の地域医療を支え、地域を担う医師を養成して送り出す機関だが、同時に明日の医学をもっと良いものにする研究を活発に行う大学でもある。筋ジストロフィーの新たな治療法をはじめ、皆さんに貢献できるよう努力を続けていくので、今後もご支援を頂ければ大変うれしく思う。

札医大の研究室から(7) 高野教授に聞く 2017/4/14

 私たちの耳を通して音が聞こえる仕組みはどういったもので、その音が聞こえにくくなる難聴には、どういった種類があるのだろう。また、どういった治療法が有効なのだろうか。「聞こえ」を左右する難聴と治療法について、医学部耳鼻咽喉科学講座の高野賢一准教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

高野賢一(たかの・けんいち)

 1975年長野県生まれ。2001年札幌医科大学医学部卒業。11年~12年米国イェール大学医学部免疫生物学部門留学。16年11月から現職。

高野賢一

耳の構造 - 日本耳鼻咽喉科学会サイトより

浅利 音が聞こえる仕組みはどんなものか。

高野 空気の振動である音は、まず外耳道を経て鼓膜に届き、鼓膜の振動が耳小骨という小さな骨の振動となり内耳に到達する。内耳は音の振動を電気信号に変えて神経を刺激する。その刺激が脳に伝わることで「聞こえ」を得ることができる。

浅利 音が聞こえづらくなる「難聴」の原因と種類は。

高野 聞こえの経路のどこかが障害されると、難聴の原因になる。耳あかが詰まったり鼓膜に穴が開いたりしても聞こえづらくなるし、突発性難聴やメニエール病、加齢性難聴など内耳の病気も挙げられる。
 そのほか、遺伝性難聴もある。実は遺伝性疾患の中で最も多い疾患で、1,000人の出生に対して1人の割合で重い難聴をもった子が生まれるといわれている。

浅利 それらの治療法にはどのようなものがあるか。

高野 突発性難聴やメニエール病など薬で治すことができるものもあれば、中耳炎や耳の形態異常のように手術で治療が可能な病気もある。加齢性難聴や遺伝性難聴では、聴力そのものを回復させることは難しいので補聴器で音を入れることになる。どちらの疾患も蝸牛(かぎゅう)にある音を感じる感覚細胞が障害されていて、いまの医学ではその細胞自体を回復させることは難しい。

浅利 補聴器で聞こえを回復できない人に有功な治療法はあるか。

高野 感覚細胞の機能がある程度残っている人には人工中耳、あまり残っていない人には人工内耳を使うことができる。人工内耳の場合、聞こえの目安としては大体両側90デシベル以上(目の前を電車や大型トラックが通っても聞こえないくらい)の難聴の方が適応となる。生まれつきの難聴の子どもだと、1歳から人工内耳手術を受けられるようになっている。
 人工中耳は音の振動をより内耳に近いところで伝えるもので、補聴器の進化版ともいえる。人工内耳は蝸牛の中に直接電極を入れて、内耳の神経を電気で刺激することで、脳が聞こえを認識できる。どちらも手術が必要となるが保険適用となる治療法で、こうした新しい治療法が誕生したことで、劇的に難聴治療が進歩したといえる。
 どういった治療法が良いかは、患者さんの難聴の程度や原因によって異なるため、患者さんごとに選択していくことになる。

浅利 十勝の人たちに向けて。

高野 難聴は身近な疾患のひとつ。特に小さな子どもの場合は言語発達にも大きな影響を及ぼすので、いかに早く周囲が難聴に気付いてあげられるかが重要になってくる。音が聞こえないというのは、予想以上にQQL(生活の質)を下げてしまう。難聴の医療は着実に進歩している。お困りであれば、まずはお近くの医療機関を受診することをお勧めしたい。

札医大の研究室から(8) 畠中正光教授に聞く 2017/5/19

 普及と進化が著しい医療機器のMRI(磁気共鳴画像装置)。この装置でどのような検査が行われ、CT(コンピューター断層撮影装置)とはどう違うのか。それぞれの特徴や有用性、MRIの持つ可能性などについて放射線診断学の畠中正光教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

畠中正光(はたけなか・まさみつ)

 1960年高知県生まれ。85年九州大学医学部卒業。93年同大学大学院医学系研究科修了、医学部臨床薬理学講座助手。95年同大学生体防御医学研究所付属病院助手、2001年同病院講師。06年同大学医学部助(准)教授を経て、11年から現職。

浅利 MRIでは何を診ているのか。

畠中 私たちの体内には、小さな磁石の性質を持った水素原子核が無数存在している。この磁石が、特定の周波数の電磁波を介してエナジーのやり取りをするという性質を利用して、そのエナジーの強弱を白黒のコントラストで表現し、体内の構造や状態を画像化したものがMRIだ。

浅利 CTとの違いは。

畠中 体内の構造を画像化するのは同じだが、CTは体外から放射線であるX線を照射し、体を通過したX線を反対側で計測して画像を作る。X線を使用する以上、一定の被ばくが避けられない。それに対してMRIは、電磁波を使うものの被ばくの心配がなく、その意味で安全性が高い。

浅利 MRIは、どんな検査に適しているのか。

畠中 脳や四肢、上腹部や骨盤の検査には非常に適している。造影剤を使わずに細かな血管を映し出すことも可能だ。以前は、肺や心臓などにはCTの方が適していると考えられていたが、冠動脈や心筋への血流を診ることもできるし、肺についても間質性肺炎の診断などでCTに劣らぬ画像を得られるようになっている。
 検査に30分~1時間程度かかるため(CTでは数秒程度)、患者の状態が悪いときは使いづらいが、被ばくの心配がないので、繰り返し検査する必要がある場合にも適している。

浅利 MRIを使った研究はどれくらい深まっているのか。

畠中 主にがんに関する研究をしているが、最近は、MRIを通して目に見えない、光学顕微鏡的な細かな情報が得られるようになっている。それによって腫瘍の良性・悪性の区別や、悪性の場合はその程度などの予測もできようになっている。
 病変が薬や放射線にどの程度反応するのかについてMRIで分かるようになる日も近いのではないか。体の現時点の状態を評価することから、将来の状態を読み解く情報を得られる技術へと進化していて、とても希望の持てる研究だ。未来と希望が見いだせる。

浅利 十勝の住民に向けて。

畠中 北海道は広くて、医療の面でも不便は多いと思う。ただ、急速にデジタル化が進んでいて、ネットワークで各地の医療機関を結ぶことができるようになっている。例えば、どこかの病院で撮影した画像を札医大に集めてカンファレンスすることもできる。IT(情報技術)を上手に活用すれば、地域が抱える医療の問題をある程度解決できる時代なので、大いに期待してもらえればと思う。

札医大の研究室から(9) 竹政伊知朗教授に聞く 2017/6/9

 日本人の部位別罹患(りかん)数、女性の部位別死亡数がともに第1位の大腸がん。従来の開腹手術、腹腔(ふくこう)鏡手術に続いて近年注目されているのが、これまでより精密な操作が可能な手術支援ロボット「ダビンチサージカルシステム」(以下ダビンチ)による手術だ。これまでに2500例以上の大腸がんの手術経験を持ち、2013年から直腸がんの「ダビンチ手術」を手掛ける医学部消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座の竹政伊知朗教授に、同手術の詳細や利点、可能性などについて聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

竹政伊知朗(たけまさ・いちろう)

 1965年広島県生まれ。1993年大阪医科大学医学部卒業。2002年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。同年4月法務技官医師、6月大阪大学大学院医学系研究科消化器外科助手(助教)、14年大阪大学大学院医学系研究科消化器外科診療局長、15年大阪大学大学院医学系研究科消化器外科講師を経て同年11月から現職。17年徳島大学大学院医科学教育部客員教授。

浅利 「ダビンチ手術」とはどういったものか。

竹政 これまでの腹腔鏡手術の画像は2次元で奥行き感が乏しい手術だったが、アメリカのインテューティブサージカル社が製造販売する「ダビンチ」を用いた手術では、執刀医が3次元の画像を確認しながら内視鏡とロボットアームを操作して行う。
 ロボットアームには複数の関節(屈曲点)があり、手ぶれ防止機能を持つので、腹腔鏡手術に比べて可動域が広く、より精密な手術が可能になっている。

浅利 患者にとってのメリットは。

竹政 開腹手術に比べて傷口や出血が少ないため、術後の回復や社会復帰が早いのが大きなメリットになる。
 直腸は周囲にぼうこうや前立腺、子宮や膣(ちつ)などの臓器があり、骨盤に囲まれているため、直腸がんの手術では狭いスペースでの繊細な操作が必要になる。さらには血管や神経が網の目のように入り組んでいるため、手術の難易度が非常に高い。ダビンチ手術では、腹腔鏡や開腹手術では難しい奥深い場所まで容易に到達できるので、肛門機能や排尿機能、性機能などの機能温存や整容性の面でも大変優れている。

浅利 普及に向けた課題は。

竹政 現状では、大腸がんに対するダビンチ手術は保険適用されていない。このため、良いのは分かっていても、手術に踏み切れないケースは多くある。ただ、ダビンチ手術が良いと広まっていけば、近い将来保険適用されると思う。
 また、操作には十分な知識と高い技術が求められ、執刀医は関連学会の承認などを経て認定される必要がある。現在、手術見学プログラムの指導医がいてライセンス発行可能な認定施設は国内4カ所、手術可能な施設は30カ所程度しかない。医師なら誰もができるわけではなく、慎重に取り組むべき手術方法だといえる。

浅利 十勝の住民に向けて。

竹政 日本は長寿社会になったがゆえ、およそ2人に1人ががんになり3人に1人が亡くなっている。中でも大腸がんは、罹患数第1位の身近でとても怖い病気だが、正確な診断と適切な手術、抗がん剤治療で全国的には治療成績が向上しており、不治の病ではない。北海道でも先進的に取り組み、国内トップレベルの成績に引き上げることが私の務めだ。
 特に直腸がんは、手術の質が再発防止や術後のQOL(生活の質)にものすごく大きな影響を及ぼす。どこで手術をしてもいいということはないので、そうした疑いがあれば、まずは精密検査を受けていただきたい。もし大腸がんの診断となれば、専門的な施設で、「良い手術」を受けることが大切だ。そして、病理結果に従って必要な治療をさらに加えてもらう。それらを通して、がんで亡くなる方が1人でも減るようにしていきたい。

札医大の研究室から(10) 山蔭道明教授に聞く 2017/7/14

 手術や、痛みの緩和などに欠かせない「麻酔」。一般に全身麻酔と局所麻酔、神経ブロックなどが知られるが、近年、その麻酔が持つ技術進歩や安全性に対して注目が集まっている。 1957年、全国で4番目、道内で初めて開講し、今年開講60周年を迎えた札幌医科大学麻酔科学講座の山蔭道明教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

山蔭道明(やまかげ・みちあき)

 1963年室蘭市生まれ。88年札幌医科大学卒業、93年同大学院修了。94年米国ジョンズ・ホプキンス大学医学部麻酔学講座研究員。96年札幌医科大学麻酔学講座助手、2000年同講座講師を経て、09年から現職。

浅利 麻酔の安全性はどの程度まで高まっているのか。

山蔭 30年前は、患者さんが必要十分な麻酔を受けているのかを確かめるには心電図と、聴診器を用いた血圧計くらいしかなかったが、今はパルスオキシメータという機器で瞬時に血液中の酸素飽和度と、おでこにシールを貼っただけで麻酔が効いているか分かるようになった。
 麻酔薬そのものの進化と、そうしたモニターの進化によって非常に安全性が高まったといえる。

浅利 酒が強い人や痛がる人は麻酔が効きにくいという説があるが、本当か。

山蔭 アルコールを代謝する酵素があるかどうかと麻酔薬とはまったく関係がないので、たとえば酒に強いから麻酔薬が早く代謝されるなどということはない。
 麻酔の効きやすさに個人差はあるが、それもあくまで医師が想定する範囲内で、いくら投与しても効かないということはない。例えば元気で若い人は高齢者に比べて効きにくいことがあるが、それも1.5倍くらいの差で、進化したモニターを用いて患者にとって安全な量を投与することになる。

浅利 麻酔には、どのような種類があるのか。

山蔭 麻酔には吸入麻酔と静脈麻酔がある。吸入麻酔薬では脂肪組織にたまりにくいものが開発されていて、そうすると早く覚醒して病室に戻ってもらえる。静脈麻酔薬も代謝が早いものが使えるようになり、投与中は効いているが、止めるとすっと覚めるようになっている。
 以前は、術後(覚醒まで)30分程度掛かっていたが、最近では5分後にはさめて病室に戻れることが多く、術後早期に回復してもらえるようになっている。

浅利 最近の末梢神経ブロックについて。

山蔭 筋肉や神経がよく見える超音波エコーを体表から当てて、必要な部分の神経だけをブロックできるようになった。以前は、この辺りに神経が走っているだろうと予測してブロックしていたが、いまは確実に見ながら安全に行う。手や足、腹壁などのほか、腹腔鏡手術の際の穴を開けた部分だけ痛みを取ることができる。

浅利 十勝の住民に向けて。

山蔭 札医大は、道民の地域医療に貢献できるよう力を注いでいるが、どこの地域でも均てん化したレベルの医療を受けていただけるようにしたい。
 十勝であれば帯広協会病院、帯広厚生病院といった基幹病院で受けられる診療のレベルを上げるよう努力している。北海道は広いので、ドクターヘリやジェット機などで基幹病院への搬送体制を整え、そこに行けば札幌や東京と同じような医療を受けられるシステムをつくるというのが私たちの考えだ。

札医大の研究室から(11) 成松英智教授に聞く 2017/8/18

 広域かつ人口密度が低い北海道で、緊急性を要する患者搬送に不可欠なヘリコプターなど空路での搬送。道内で唯一の高度救命救急センターを持つ札幌医科大学附属病院では、屋上へリポートを活用し患者の受入や移送を積極的に行うほか、道内の拠点病院などにも救命救急医を派遣している。7月30日から道が主体となり運用を開始した「メディカルジェット」でも中核的役割を果たす、高度救命救急センター・センター長で救急医学講座の成松英智教授に、フライトドクター・ナースの役割や体制などを聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

成松英智(なりまつ・えいち)

 1961年札幌市生まれ。92年札幌医科大学大学院修了、道立小児総合保健センター麻酔科医員。93年米国アイオワ大学医学部麻酔学講座訪問研究員。99年札幌医科大学医学部救急集中治療部助手、2007年同准教授、12年札幌医科大学附属病院高度救命救急センター副センター長を経て、同年11月より現職。

浅利 フライトドクター・ナースの果たす役割はどのようなものか。

成松 ドクターヘリや航空機など空路で緊急性を要する患者を搬送しながら、一刻も早く初期治療を開始する。そして、札医大のような基幹病院で本格的な確定医療を行えるようにする。
 空路で搬送するだけでなく、例えば救急車で最寄りの病院に一度運んだ方が良いと判断される場合は、そこで初期治療を行い患者の状態が落ち着いてから空路で搬送することもある。また、途中地点まで急行して患者が運ばれた救急車とドッキングして初期治療を開始する場合もある。状況に応じて的確な判断を行う。

浅利 道内での体制は。

成松 救急専門医療に加え、災害医療とプレホスピタル(病院前医療)の専門知識と技能を得た人が携わる。現在は札幌のほか旭川、釧路、函館の拠点病院からフライトドクターとナースが、ヘリで患者の居る現場に向かう体制が整っている。ドクターヘリだけでなく、道や札幌市消防局、海上保安庁などと連携し、そこが所有する航空機を使って患者を搬送することもある。

浅利 具体例にはどのようなものがあるのか。

成松 紋別市で心肺停止の患者がいて、このときは海上保安庁の飛行機で現地に向かい人工心肺を装着したまま丘珠空港まで搬送。そこから道の防災ヘリに乗り換えて札医大のヘリポートに搬送、確定治療を行った。ドクターヘリが向かえない場合は、このように各機関で協力して救急医療を行うことが可能だ。

浅利 7月30日から導入された「メディカルジェット」の果たす役割は何か。

成松 ドクターヘリに比べて高速で飛行できる距離も長く、医療過疎地から都市部への搬送時間が大幅に短縮できる。特に北海道は非常に広大で、へき地から一刻も早く最寄りの拠点病院に搬送するインフラ整備は急務だった。救急医療でも均一化に向けて大きな進歩になると思う。初年度の運用を検証しながら、今後大いなる可能性を見いだせるのではないか。

浅利 十勝の住民に向けて。

成松 緊急性を要する患者の容体は、5分10分で変わってしまうことが多くある。人の住む地域が偏在する北海道では、なるべく多くの人の命を救う体制づくりが急がれるが、搬送時間短縮によって公平に近い格差を縮める医療のモデルになりうる地域が、十勝や根釧地方だと思っている。
 現在だけでなく100年後の医療も形作るのが大学病院の役割だ。行政などと連携し、救急・災害医療の体制が進むように務めていくので、応援していただければと思う。

札医大の研究室から(12) 三國信啓教授に聞く 2017/9/8

 今まで全身麻酔で行われていた脳外科手術だが、手術により、手足のまひや、言葉がうまく話せなくなるなど、重大な合併症が生じるおそれがあった。近年は、病変を十分に取り除きながら、それら手術による合併症を安全に取り除く「覚醒下手術」が行われている。手術の概要やメリットなどについて、2003年以来、国内屈指の手術実績をもつ札幌医科大学脳神経外科学講座の三國信啓教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

三國信啓(みくに・のぶひろ)

 1963年兵庫県生まれ。89年京都大学医学部卒業。96年米国クリーブランドクリニックリサーチフェロー。97年京都大学医学部大学院修了。2006年同大学医学部脳神経外科学教室講師、08年同准教授を経て、10年から現職。

浅利 「覚醒下手術」とはどんなものか。

三國 かつての脳外科手術ではガス麻酔を使い、最後まで全身麻酔で行っていたが、覚醒下手術は、静脈麻酔を使って最初は全身麻酔で痛みを感じる頭皮部分だけに局所麻酔をする。その後患者は麻酔から覚めて意識がある状態で手足を動かしたり会話をしたり、高次脳機能の検査を行いながら病変を取り除く。手術の最後に再び全身麻酔をする。

浅利 そのような手術を行うメリットは何か。

三國 脳腫瘍、特に神経膠腫(しんけいこうしゅ、グリオーマ)やてんかんでは、手術により多くの病変を取り除いた方が予後が良いとされているが、脳には日常生活で欠かせない神経機能繊維がネットワークをつくっている。これらを傷つけることによって、手術のために手足や言語機能などのまひといった後遺症が出るジレンマがあった。
 覚醒下手術では「ニューロナビゲーション」という機械を使って、手術前に大事な神経の位置や走行を調べてモニタリングし、手術ではそれらの神経に支障がないかを確認しながら摘出することができる。脳腫瘍の治療には知識と経験が必要だ。少なく取れば短期間で再発し、多く取りすぎると症状が出てしまう。「覚醒下手術」のメリットは、「多くの患者が手術後に症状を悪化させずに最大の病変摘出を達成できること」である。

浅利 国内での手術例と、手術可能な病院はどのくらいあるのか。

三國 日本では2000年ころから導入され、03年に所属していた京都大学脳神経外科で始めて以来、グリオーマとてんかんを合わせ約450件の覚醒下手術を担当している。現在、国内では約30カ所の病院が認定施設になっており、北海道では札幌医大と旭川医大の附属病院が対応している。安全に手術が行われなければならないため、認定施設には高い専門性が求められる。

浅利 手術により予後は格段に改善しているのか。

三國 グリオーマの中でも悪性度の高いものは短い命になることが多く、手術が非常に難しい。手術だけで完治させるのは難しいが、覚醒下手術により、若い人で発症しても1回の手術でなるべく多くの病変を取り除くことで日常生活にとって重要な手足の動作や会話、計算、空間的感覚といった脳機能を維持することで支障なく過ごしてもらえる可能性がある。

浅利 十勝の住民に向けて。

三國 脳腫瘍と診断されると絶望的な気持ちになる人が多いが、人生を諦めず、病気の症状を出さないだけでなく、後遺症を出さない手術を受けてもらえるようになっている。
 現在、道内で手術を受けられるのは札幌と旭川だけだが、2カ月ほど札幌医大で治療を行い、手術後は地元に帰ってQOL(生活の質)を落とさず過ごしていけることを考えれば、希望を持っていただけるのではないかと思う。

札医大の研究室から(13) 齋藤豪教授に聞く 2017/10/13

 女性が子供を産むために欠かせない子宮。子宮入り口の頸部(けいぶ)にがんができる子宮頸がんの場合、以前は子宮の全摘出や放射線治療で妊娠や出産ができなくなることが多かったが、近年は子宮体部を残す「妊孕(にんよう)性温存療法」が有効な治療方法として注目を集めている。10年ほど前から同治療法を手掛け、研究を続ける産婦人科学講座の齋藤豪(つよし)教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

齋藤豪(さいとう・つよし)

 1961年釧路管内標茶町生まれ。86年札幌医科大学医学部医学科卒業。90年同大大学院医学研究科修了。95年世界保健機関・国際癌研究所(フランス・リヨン)研究員。98年札幌医科大学医学部産婦人科学講座講師を経て、2004年から現職。

浅利 子宮頸がんの「妊孕性温存療法」とはどんなものか。

齋藤 トラケレクトミー(広汎性子宮頸部摘出術)と呼ばれるもので、がんのある頸部を摘出した後、子宮体部と腟を縫合する。子宮体部を残すことで、手術後も妊娠や出産が可能になる。
 これまでは、ごく早期のもの以外は(子宮の)全摘手術か放射線治療を行うため、妊娠と出産を諦めなければならないケースが多かったが、この手術法によってそれらができるようになる人も増えている。

浅利 妊娠や出産が可能なこと以外のメリットは。

齋藤 子宮頸がんは、近年若い世代の人に増えている。同時に初産年齢も上がっており、妊娠や出産を経験する前にがんになる人が増えているという現状がある。
 子宮を残すことで、すぐに妊娠や出産の予定がない人でも希望を持つことができる。命を救えれば良いという時代ではなく、女性の尊厳を保てるという心理面でのメリットが大きい。

浅利 現在、道内や札医大での手術はどのくらい行われているのか。

齋藤 札医大では、国内で慶應大学病院(東京)に次ぐ手術実績があり、この10年間で100人以上の人がこの方法で手術を受けている。道内ではほかにまだ数例だが、学会や研究会を通じて治療成績や治療法の情報を共有するように努めている。

浅利 子宮がんの現状と予防について。

齋藤 (子宮がんは)およそ10万人に10人の割合で発生しており、決して珍しい病気ではない。治療法や予後は、この20年間でも、大きく分けて手術と放射線治療、抗がん剤の3つで変わっておらず、治療もさることながら早期発見の重要性はいうまでもない。がんの検診受診率は、欧米諸外国では70~80%であるのに比べて日本は30~40%ほどで、北海道ではさらに低い。がんを治すことも大切だが、検診を受けることや、いま見送られているワクチン接種の再開も課題だ。

浅利 十勝の住民に向けて。

齋藤 がん検診は対がん協会や厚生連などによって、どの地域でも受けられるよう確立されているので、うまく利用してほしい。身近な地域に産婦人科が少ないという現状はあるが、北大や旭川医大などと協力して診療体制の維持も手掛けている。
 がんになったとしても早い段階で治療ができるように、何か症状があればためらわず早期に受診してもらえればと思う。

札医大の研究室から(14) 小林宣道教授に聞く 2017/11/10

 ウイルスや細菌などが体内に侵入し、増殖したり毒素を作り出したりすることで起こる感染症。中でも、食中毒を引き起こす黄色ブドウ球菌などはニュースなどで名前を聞くことが多いが、実際にはどんなものでどういったことが問題なのか。専門に研究を続ける、衛生学講座の小林宣道教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

小林宣道(こばやし・のぶみち)

 1961年苫小牧市生まれ。86年札幌医科大学医学部医学科卒業、同衛生学講座助手、93年同講座講師、98年同助教授を経て2001年から現職。

浅利 黄色ブドウ球菌とはどのような細菌か。

小林 その名の通り、ボールのような球状の細菌で、直径は1000分の1ミリより少し短く、とても小さなもの。また顕微鏡で見るとブドウの房のようにみえることから、そのように名付けられた。
 とても身近な細菌で、健康な人の3分の1ほどの人が常在菌として体内に持っていて、皮膚や鼻腔、口やのどの粘膜に存在する。ただ、生きた菌が存在するだけの状態で感染症を起こしているわけではない。

浅利 黄色ブドウ球菌はどのような病気や感染症を引き起こすのか。

小林 よく見られるのは皮膚の感染症で、おできや膿瘍(のうよう)の原因になったり、切り傷のところで化膿を起こしたりする。
 免疫力の低下した人では血液中で菌が増殖する敗血症や骨髄炎、肺炎などが起こる。そして、食品中で菌が増殖したあとでそれを食べると嘔吐(おうと)や下痢を伴う食中毒が起きることがある。

浅利 最近目にするMRSAとは何か。

小林 「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」の略称で、メチシリンという薬剤が効かない黄色ブドウ球菌のこと。 病院の中で感染を起こす菌として昔から有名だが、多剤に耐性になっているので治療がうまく進まない。

浅利 MRSAは、通常の黄色ブドウ球菌に比べて何が問題なのか。

小林 日本国内の入院患者から分離(採取)される黄色ブドウ球菌のうち約半分がMRSAで、これは世界的にみても多い方だ。感染症が治らず重症化してしまったり治療期間が延びてしまったりする。臨床現場のドクターたちも、MRSAや黄色ブドウ球菌対策を一生懸命に行っている。
 正常な免疫力がある人はさほど問題にならないが、病院のような免疫力の落ちている人が多い場所では感染が広がる恐れがあるので、医療従事者も鼻腔内のMRSAの有無を検査することがある。

浅利 十勝の住民に向けて。

小林 黄色ブドウ球菌は皮膚に定着する菌で、皮膚と皮膚の接触感染を起こす。皮膚を清潔に保つことで感染や食中毒の予防につながる。
 これから寒い時期を迎えて同じく接触感染により広がるノロウイルスによる胃腸炎も増えてくるので、日常的に手洗いをしっかり行って感染予防に努めてほしいと思う。



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