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被災の教訓糧に 十勝の高齢者施設、相互に連携進む

地震などの災害に備えたしゃくなげ荘の自家発電装置。山本施設長は、施設連携による防災対策が重要と考える

 大地震や風水害などの災害時に、自力での避難や対応が困難な利用者が多い高齢者福祉施設。6年前の東日本大震災以降、十勝管内の各施設では防災体制の強化が進んでいる。さらに昨年夏に十勝を襲った台風災害も教訓に、さらなる連携の取り組みが始まっている。(松村智裕)

 「町から避難の連絡はなかった。明け方に川を見て青ざめました」。新得町の特別養護老人ホーム「新得やすらぎ荘」と同施設内の聴覚障害者養護老人ホーム「やすらぎ荘」などの施設長を務める高畑訓子さん(59)は、昨年8月末の台風10号を今でも鮮明に思い出す。近くを流れるパンケシントク川が氾濫し、神社橋は崩落していた。

 施設内には当時、約130人の高齢者がいた。耳が不自由な47人には手話で状況を説明。停電には最低限の電力確保で対応したが、長引く断水に苦労した。認知症の人が理解できず、トイレを詰まらせそうになったこともあった。

備蓄の拡充検討
 「保育所などが休みになり、子どもをおんぶしながら働いてくれた職員もいた。もっと被害が大きければどうなっていたか」。食料や使い捨て容器など備蓄の拡充を検討し、町に対しては災害時に直接連絡をもらえるように要望した。

 帯広市大正の特別養護老人ホーム「太陽園」では当時、札内川の濁流が間近の河川敷に迫っていた。避難勧告は聞こえず、停電で1人が転倒し骨折した。

 昨年11月の同園の避難訓練では、1階の入所者を2、3階に誘導し、かかった時間を確認した。杉野全由施設長(59)は「今後も自然災害対策を訓練に盛り込みたい」と力を込める。

 行政の対応も進む。台風10号の豪雨では岩手県岩泉町のグループホームで入所者9人が死亡。高齢者施設で適切な避難行動がとられなかったことを受け、内閣府は昨年12月、「避難準備情報」の名称を「避難準備・高齢者等避難開始」に変更。お年寄りなど支援が必要な人は直ちに避難するよう改めて啓発した。

 さらに政府は2月、土砂災害や洪水の恐れがある地域の施設に避難計画の作成を義務付けることを決定。帯広市では昨年11月、市内の社会福祉施設関係者と災害対策に対する情報交換会を初めて実施した。

 東日本大震災でも、高齢者施設では断水や停電などのライフライン確保や食事提供、地域の被災者受け入れなどの課題が浮かんだ。これらを教訓に、ハード面の充実を図る施設もある。

炊き出しや暖房
 16日に市内でオープンする地域密着型介護老人福祉施設「りんどう」(掛札真施設長)は、LPガスを貯蔵する「災害用ガスバルクシステム」を導入。緊急時に炊き出しや暖房、発電が可能になる。

 鹿追町の特別養護老人ホーム「しゃくなげ荘」(山本進施設長)は、2014、15の両年に行った改修工事で軽油による自家発電装置を屋外に設置。施設内の照明や暖房、地下水のくみ上げにも対応できる。

 山本施設長(59)が会長を務める「十勝老人福祉施設協議会」は14年、加盟全48施設(当時)で災害時の支援協定を締結。各施設ごとに派遣可能な職員や物資、車両を明示し、緊急時の近隣施設への支援を約束している。

 台風10号での協定発動はなかったが、山本会長は「危機意識はさらに高まった。今後は各施設が独自に行う災害訓練を合同で行うなど、支援協定をさらに踏み込んだ内容にしたい」と連携強化を図ることを強調する。(松村智裕)


◆「東日本大震災復興への道」について
震災から6年を振り返る。十勝の調査を続ける研究者の話なども-十勝毎日新聞電子版特設ページ

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