大樹から「超小型衛星」 旧駅舎隣に地上局、12月運用へ
大樹町内で、超小型衛星にかかわる技術開発などの動きが加速している。超小型衛星から電波を受信する地上局は2012年12月にも運用が始まるのに加え、軌道投入用ロケットの開発や、衛星搭載用カメラの製造も継続的に行われている。航空宇宙の研究者からは「大樹が超小型衛星の中心地になる可能性もある」との声も。四半世紀にわたり宇宙のまちづくりを進めてきた大樹町は、新たな1歩を踏み出そうとしている。(佐藤圭史)
地上局は11年8月、旧大樹駅舎(町寿通1)の隣接地に人工衛星関連の企業などで組織する「次世代宇宙システム技術研究組合」(東京)と東大が設置。両組織は、衛星本体の開発や、衛星データを活用した事業展開などに取り組んでいる。
地上局は高さ約3メートルのコンクリート製土台に、直径4メートルのパラボラアンテナが取り付けられている。同駅舎を社屋とする「北海道衛星」(社長・佐鳥新道工大教授)が同組合の一員だったことなどで、大樹への設置が決まった。
12年春以降は管理者1人を町内に配置。既存の衛星から電波を受信することで実際の運用を想定した試験を行う。同年12月上旬には同組合の1号機が海外から打ち上げられ、年内にも超小型衛星が撮影した地球の画像データを町内で受信できるようになる見込み。同組合は13年度末までに計5機の超小型衛星を打ち上げる計画で、いずれも大樹町で電波を受信する。
北海道衛星では、衛星に搭載して農作物調査などへの応用ができる「ハイパースペクトルカメラ」の開発を進めている。将来的に同組合の衛星に搭載する可能性もあり、実現すれば地元の製品が初めて宇宙に飛び出す快挙となりそうだ。
超小型衛星の軌道投入用ロケット打ち上げ実験も11年、大樹で始まった。収監中の堀江貴文氏(元ライブドア社長)が創業者の事業会社「SNS社」(東京)の小型液体ロケットだ。堀江氏の収監後もメンバーが事業を継続し、同年7月には大樹で推力100キロ級の海上打ち上げ実験を成功させた。法整備などの課題は山積しているが、計画では数年以内の実用化を目指している。
大樹町も地上局のために町有地を貸し出すなど、超小型衛星の関係では協力していく姿勢。民間の立場で宇宙のまちづくりを応援する「大樹スペース研究会」の福岡孝道会長は「衛星による画像データを教材として学校で活用すれば、大樹らしい教育ができる」などと期待している。
中須賀東大大学院教授に聞く
通信や気象観測、工学実験など様々な面で宇宙から現代人の生活を支える人工衛星。日本では1970年の「おおすみ」(23・8キロ)を皮切りに、今では1トン以上の大型衛星が打ち上げられている。一方で低コストを意識した小型化の動きも現れ、将来的に一般企業が自前の衛星を保有する時代が到来する可能性も。50キロ以下の超小型衛星の研究開発を進める中須賀真一東大大学院教授(50)に、開発の意義や今後の展望について聞いた。
-なぜ超小型なのか。
日本を含め、世界中の人工衛星が大きくなり、開発が長期化、国の事業でしかできないほどコストが高くなっている。最近の大型衛星は1機で製作費が数百億円、質量は数トン、開発期間は5年以上。そのため、失敗しないように確実に動く技術を使い、新しい技術を試せないという弊害が出ている。超小型衛星は50キロ以下、数億円規模で、大きな衛星と違ったやり方で勝負する。例えば部品は東京の秋葉原で買えるものを組み合わせている。
-これまでの打ち上げの実績と成果は。
東大と東工大が2003年に、それぞれ世界で初めて1キロの超小型衛星の打ち上げに成功した。東大では大学レベルの予算で、開発期間は2年間だった。今でも運用を続けている。03年以降も超小型衛星を打ち上げており、衛星本体の基本的機能(バス機能)は出来上がった。今後は衛星から撮影した画像データを利用するなどした新しいサービスを探っていきたい。衛星利用の開拓は、世界のどこでもまだ積極的には行われていない。
-中須賀先生が思い描く、将来の衛星の在り方は。
十勝で盛んな農林水産業の分野では、例えば小麦の成熟度を把握できる。1機だけでは足りないが、20機ぐらいあれば、同じ土地を頻繁に撮影することで可能となる。大樹で電波を受信する5機を呼び水に、超小型衛星の技術を広めていきたい。実際に国内外の企業から画像データなどを利用したいという話もある。
大樹町は役場だけでなく、漁協など地域のサポートが得られていることが素晴らしい。町内で実験が行われている超小型衛星の軌道投入用ロケットは世界でも例がなく、期待している。12年末に打ち上げる超小型衛星は、地上5メートルの物体を見分けられる高精度望遠鏡を搭載する。宇宙から大樹町を撮影し、その画像データを地元の方に使ってもらうことも考えている。
なかすか・しんいち 1961年、大阪府生まれ。83年東大工学部卒、88年同大学院博士課程修了。90年に東大に戻り、米国での客員研究員などを経て、2004年から現職(東大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻)。次世代宇宙システム技術研究組合(東京)とともに大樹町内の超小型衛星地上局にも関わっている。
衛生利用アイデア募集
次世代宇宙システム技術研究組合(東京)と東大は、超小型衛星のインターネットサイト「COSMIC USHER」を立ち上げている。専門家から一般まで、超小型衛星利用のアイデアを募っている。
サイト名は「COSMIC(宇宙の)」、「USHER(案内)」の意味。農業、漁業、災害監視、教育など10の分野で広くアイデアを募り、衛星の新たな利用方法の開拓につなげる狙い。同サイトでは既に、人工衛星を活用した「1センチ単位での農機の自動制御」「日本全国の森林調査」「地形変動、崖崩れ監視」といったアイデアが寄せられている。
同サイトでは、大樹で電波を受信する超小型衛星の情報も掲載されている。閲覧は誰でも可能だが、意見を出すには会員登録(無料)が必要。詳しくは同サイト(http://cosmicusher.com/pc/index.php)へ。