帯広出身の大嶋賢洋さん故郷舞台に初小説 「はだしのゲン」英訳に奔走の編集者
帯広出身で東京在住の編集者大嶋賢洋さん(75)が、昭和30年代の帯広をモデルに創作した「帯広昭和革命1952」(太田出版、29日発売)で、小説家デビューを果たした。編集者として半世紀近く活躍しながら、50歳を超えて同人活動で小説を執筆。念願の第一作の題材には故郷を選び、「戦後10年間くらいの社会の揺れ動きと濃厚な人間関係の面白さを、舞台とした帯広の人たちにも読んでもらい、楽しんでもらえれば」と語る。(許静)
大嶋さんは1949年、帯広生まれ。帯広小、帯広第一中、帯広三条高卒。東洋大第二文学部仏教学科で学んだ後、編集者としてキャリアをスタートさせた。若い頃にアメリカ大陸横断平和行進に参加し、マンガ「はだしのゲン」の英訳出版にも関わった。英訳に尽力した様子は、NHK「プロジェクトX」でも取り上げられた(8月1日午後11時45分から再放送予定)。
その後は「宝島社」や自ら立ち上げた会社を含めて東京の出版社4社で編集者の道を約45年歩み続けている。現在はインフォビジュアル研究所代表。
筆者としても活動し、2007年8月に「定年バックパッカー読本」(集英社)でデビュー。科学技術や文化などを分かりやすく解説する「図解14歳シリーズ」(太田出版)などを送り出した。
次第に小説に関心を寄せ、50歳を機に仲間と小説同人誌「DRUG」を創刊。同誌を舞台に書き続けていたところ、「図解」シリーズでつながりのあった太田出版側が小説執筆を知り、出版を打診した。
デビュー作には、以前から構想していた帯広を舞台とした物語を選んだ。昨年4月に亡くなった母(享年102)の生前、介護のために10年ほど帯広に通い詰め、郷愁を募らせていた。亡き母への思いと合わせ、帯広市内の「北栄ビル」(西2南4、現在は解体)にある時計屋という設定で、実体験をベースに創作した。
色街の女性たちの自由を取り戻すための反乱と男たちの陰謀の物語。記憶をたどり、活気あふれるかつての帯広の光景を描いた。大嶋さんは「ののしりあい助け合いながら人間くさく生きている場所だった。その風景をよみがえらせたかった」と語る。「戦争と暴力についての、男性と女性の世界観の違い」も託したという。
デビュー作を手に「十勝を開拓した晩成社、鈴木銃太郎に関する構想を小説にまとめられれば」と、早くも次回作への意欲を語っている。
「ガンダム」安彦さん表紙描く
表紙絵は「機動戦士ガンダム」などで知られるアニメーターの安彦良和さんが書き下ろした。通常は小説表紙絵を手掛けていないが、作品を読み感銘を受け快諾したという。四六判384ページ、2530円。