生の音楽をより身近に~人の気配
今回紹介する稲垣勉さんには、複数の肩書がある。自身も「NOA NOA」のギターリストとして音楽活動をしながら、カフェの運営やライブのオーガナイズ、映像配信のディレクターなど、さまざまな角度から音楽と関わっている。
その中で、僕と稲垣さんは、都内での弾き語りライブを一緒に作る、という関係にある。「最近いい会場あります?」という会話から始まり、半年後のこの時期にこんなコンセプトでやりたいということを伝え、それならばと候補をもらう。その中で気に入った会場があれば、今度はそこで何度かやってみる。そうすることで新たな気付きもあり、それがまた次につながる。
最近は上野にある「YUKUIDO工房」で年に一度、弾き語りのライブを開催している。平日はその名の通り工房として、木の加工や家具のリペアなどをしているスペース。他にはない空間とアップライトピアノ、天井が高いことで響く音像が気に入った。
稲垣さんは面白いライブ会場をよく知っている。面白いというのは、音だけで楽しませるのではなく、例えばその場所が持つ独特の雰囲気、おいしい食べ物、本や植物を一緒に楽しむことができるなど、五感で楽しむことができるということ。
過去に渋谷の人気カフェ「アプレミディ」に在籍し、東京のカルチャーをど真ん中で見てきた稲垣さんだからこそ見えているものがあるように思う。それは、バンドセットをライブハウスで鳴らし、弾き語りをライフワークとして続ける僕の活動スタイルには必要な感覚であり、磨き続けていきたいところと共鳴する。
そして、稲垣さんもまた、先のコロナ禍において言葉ではなく行動で励まし合ってきた友人の1人だと勝手に思っている。『Where You Know』を聴きながら、当時のことを思い出す。忘れてはいけないあの頃の気持ち。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。帯広柏葉高卒。Riddim Saunterを解散後、ソロ名義での活動を続ける。V6への楽曲提供が話題になるなか、最新作『KOKORO EP』に続き、『おぼろげ』がリリースされたばかり。