伝説の海底、店内に「出現」 帯広のTONOさんが壁画
帯広市内の飲食店に壁画を描いている人がいる。帯広市在住の「TONO」(本名・小林耕文)さん(36)。コンクールや展覧会への出品経験はなく、独学で絵を描き続けてきたが、10月に起業して創作活動を本格化させた。独特の神秘的な雰囲気を持つ作品が、訪れる人たちの心を引きつけている。
9月、帯広市西2南10の「ダイニングバー花隠」の内壁にパリの夜景が現れた。水性の塗料を使い、絵筆で3日間かけて仕上げた壁画は、依頼した店主らを魅了し、テーブルの天板やワインだるの側面も任された。さらに反対側の内壁に、海底に沈んだとされる伝説の大陸「アトランティス」を1日足らずで描き上げた。
TONOさんは1984年帯広市生まれ。帯広工業高校を卒業後、札幌市の服飾専門学校に進んだ。同市内の洋服修理店や帯広市内の土木や福祉関係などで働いてきた。8年ほど前、何気なく描いた絵が飲食店経営者の目に留まり、ラーメン店の看板を頼まれた。仕事を続けながら、居酒屋のメニュー表のイラストや、帯広駅のブースを借りて似顔絵を描いたりしてきた。
さまざまな業種の仕事に就いたが、ずっと雇われたままでいいのかと考えた時、「もっと自分を出していきたい」と強く感じたという。作品を見た人からの「君にしか描けない」という言葉に自信を深め、絵画で生計を立てることを決意。10月に「artwork TONO(アートワーク・トノ)」を設立した。
TONOさんは、「壁画はお化粧のようなもの。スケールの大きな絵はいつかは無くなる刹那(せつな)的なものだが、誰かの記憶には残る。それでいい」と語る。10月には帯広市内の「和食日和 種」と「和洋彩宴 雅楽」の内壁やカウンターを手掛けた。花隠の女性店主(56)は「コロナ禍で気が沈んでいたが、壁画と楽しそうに描く彼の姿に勇気をもらった」と話す。
憧れの画家に、常識にとらわれず独特な世界観の作品を残したサルバドール・ダリを挙げる。TONOさんは、壁画に限らず犬の似顔絵や、ふすまに描いた水墨画風など技法や作風にこだわらず、立体作品にも意欲を見せる。目指すのは、「オールマイティーなアーティスト」。いつか個展を開きたいと、市内のアトリエで創作に励んでおり、「この街を自分の絵で彩りたい」と夢を抱いている。作品はインスタグラム(artwork_tono)で発信、仕事の依頼も受け付けている。(大海雪乃)