先手打ち 基本守る管理を 変わる気象 農業座談会
2016年の台風や18年の長雨など、農業が天候に翻弄(ほんろう)されることが増えてきている。こうした気象に対応し生産力をどのように高めていくのか。近年の天候や、今年の見通し、必要となる営農の在り方について専門家や生産現場の視点で4氏に語ってもらった。
■出席者
帯広測候所所長 浅井義孝氏
十勝指導農業士会会長 坂東隆幸氏
全十勝地区農民連盟副委員長 出嶋辰三氏
十勝農業改良普及センター所長 西村孝雄氏
司会・十勝毎日新聞社編集局長・児玉匡史
夏の気温は平年並み 浅井氏
作業体系の備え必要 坂東氏
司会 今年の天候の見通しは。
浅井氏 4月は肌寒く、平年より気温が低い可能性がある。4~6月の3カ月予報は平均気温、降水量とも平年並みだろう。5月は気温が平年並みか高めと予想する。
6~8月は太平洋高気圧が弱めで、前線や湿った空気の影響を受けやすい見通しだ。夏の気温は平年並みで、降水量が多めに推移するとみている。
出嶋氏 今年ほど雪が少ないのは初めて。雪が少ない分、夏の雨が多くなることはないか。
浅井氏 雪は全道的にも平年の半分だった。十勝は南側を低気圧が通ると雪が降るが、それがなかった。ただ、低気圧が少なかったわけではない。位置が少しずれるだけで変わるので、夏と冬の因果関係は一概には言いづらい。
司会 昨年の天候や今後の見通しを受けて、今年の営農をどう考えるか。
出嶋氏 昨年は春先の播種(はしゅ)は順調で、6月上旬までは良かった。その後ぐずついて、1番牧草の収穫最盛期に天気が良くならなかった。十勝全体で1番草は量はあったが、品質は悪かった。6月上旬に収穫し終えていた人はそれなりのものが取れていたと思う。
飼料用トウモロコシは9月の台風で部分的に倒伏した。品質がそこそこのサイレージはできたものの、収量がなかった。南十勝はどういうわけかここ4、5年倒伏が続いている。手持ちの飼料用トウモロコシの量が少ないので、今年は6月の天気が良くなって牧草を確保しないと、乳量に影響が出るかもしれない。
坂東氏 畑作も昨年は春までは順調だった。ただ、上旬を過ぎると毎日低温注意報が出ていた。植え付けが早いジャガイモやビート、大豆は大丈夫だったが、小豆、菜豆は初期生育から低温に当たった。7月の大雨を食らい、それが秋まで尾を引いた。
そんな中でもよく取れた人は、畑の水はけが良かった。黒ボク土、粘土、低地の畑では基盤整備の実施状況で明暗が分かれた。
最近は雨、暑さ、寒さが長く続く。これが標準だと考えるしかないのだろう。いつどんな天気が来てもいいような作業体系にする必要がある。
浅井氏 昨今は気象現象が局地化、集中化している。坂東さんが言うように、厳しい現象にどう対応するかが大事だろう。
司会 どんな技術対策が必要になるか。
西村氏 基本技術を守ることだ。条件の違いはあるが、土壌排水をきちんと整備する。それと有機物を投入する土づくり。基盤をきちんとし、栽培も基本を励行する。できることをやるのが大事だ。
今年は牧草収穫期待 出嶋氏
倒伏しない密度検討 西村氏
司会 去年の気象についてはどう考えるか。
西村氏 93、94年の冷害ほどではないが、雨が長かった。やはり初期生育は大事なので、そのときの低温、長雨は影響がある。牧草は刈り取れないのが大きかった。乳量にも影響があっただろうし、輸入飼料の購入で経営にも響いただろう。
出嶋氏 今年はしっかり収穫したい。6月下旬ごろは5日でもいいから晴れてほしい。飼料用トウモロコシは倒れると土がついて発酵に影響する。刈る方向が限定されて効率も悪くなるので時間もコストもかかる。台風に来るなとは言えないが、倒れないでほしい。
司会 昨年の台風は。
浅井氏 数は平年並みだった。皆さんには「2」「6」という数字を覚えてほしい。台風は水温が26度以上で発生する。そして平年で年間26個発生すると言われている。そのうち1割が北海道に影響するとされ、昨年は平年と比べそれほど顕著な違いはなかった。
坂東氏 通るコースが違うという感覚はある。
浅井氏 台風が連続した2016年は、通常なら太平洋高気圧があるところが弱く、南海上から北上してきた。そこが例年と大きく違った。
司会 今年の営農で注意している点はあるか。
坂東氏 一番悩んでいるのが土壌凍結。いつから作業できるのかという点だ。早取りのトウモロコシを作っているが、昨年は今時期に苗を植えた。今年は畑に入れず、今も20センチ以上凍っているところもある。まとまった雨が降ると地温が上がるので良いのだが、この先そういう予報は見られない。
小麦は昨秋の天気が良く、茎が多すぎる状態。春の栽培管理によっては倒伏の原因になる。通常は今ごろに追肥するが、「きたほなみ」だと茎がさらに増えるので、抑えないといけない。反対に穂ができる時期までそのままだと肥料分が欠乏してしまう。気象による臨機応変な管理は常に必要だが、今年は経験のない状況だ。そのあたりは十勝農業改良普及センターにご指導いただきたい。
西村氏 小麦は雪が少なくて枯れてしまうのではという心配があったが、現状ではほぼ順調だ。表面の葉は枯れているが、下から茎が出て青くなってきている。通常の施肥管理だと実がなるときに倒れてしまうので、ほ場の状況を見ながら、支援を進めようと考えている。
司会 雨の対策はどうか。
坂東氏 排水しかない。基盤整備は国民の食料を支えるためと考えていただき、力を入れてもらいたい。一回整備すればよいわけでなく、周期的に維持が必要。
出嶋氏 16年夏の連続台風がきたときは、基盤整備をしていた農家の畑は回復が早かった。あれから基盤整備の声が増えてきた。国の予算は変わらないと思うが、手を挙げるところが増えて、予算の割り当てが広く薄くなったのも実態だ。
司会 備えが大事ということだ。
西村氏 飼料用トウモロコシが倒れるという話があったが、試験機関と一定の収量で、倒伏しない栽培密度を検討している。成果が出たら示していきたい。
坂東氏 気象が同じ隣同士の畑でも収量の違いがある。そこは各農家の管理だと思う。後手に回る人は天気が悪い年だと大きな影響が出る。どんな天気であっても良いよう、何でも先手を打つ体制が大事だ。天候を読み自分なりに判断する力も必要になる。
浅井氏 農業が盛んな地域で、気象情報を発表しているが、技術はまだだまだ足りないところがある。少しずつでも精度を上げていけるようよう努力したい。