ルポとかち「冬山の知識と装備万全に、雪崩講習会」
新雪を楽しむためにスキー場の管理区域外を滑る「バックカントリー」での雪崩による遭難や死亡事故が後を絶たない。専門的な知識や装備が不十分なスキーヤーやスノーボーダーががバックカントリーで判断を誤ると最悪の事態を招きかねない。冬山を安全に楽しむにはどのような知識や装備が必要なのか。多少のスノーボード経験はあるものの、冬山登山に関しては全くの素人の記者(24)が14、15の両日、芽室町内で開かれた雪崩講習会に参加し、冬山に入る上での心構えを学んだ。(高津祐也)
メムロスキー場のコース外で四角柱に切り出した雪を手で数回たたくと崩れ始めた。その強度を評価表で確認すると、「積雪の結合状態があまりよくない」。さらに雪の結晶をルーペで確認すると、雪崩の原因となる「弱層」に分類されるザラメ雪があった-。
危険な「霜ザラメ雪」
日本山岳会北海道支部がメムロスキー場で行った実地講習には、雪山の熟練者から初心者まで20人が受講した。講師の一人、芳村宗雄さん(80)は「十勝の山は昼夜の気温差が大きく、雪崩の原因となる“霜ザラメ雪”が多い」と指摘。「入山前に気温や積雪量などのデータなどで複合的に判断することが必要」と呼び掛けた。
冬山での事故は後を絶たず、今シーズンも全国各地で雪崩による事故が起きている。十勝管内では今月8日、雪崩によるものではないが、天候の急変によって帯広市内の女性(53)が芽室岳(1754メートル)で遭難し3日後に救助された。
同支部では、冬山に入る際は(1)捜索用の電波を送受信する「ビーコン」(2)雪に刺して埋もれた人を探す「プローブ」(ゾンデ棒)(3)折り畳み式の「スコップ」を“三種の神器”とし、装備を義務付けている。今回の講習会でもそれらを身に付けて入山し、雪崩が発生した仮定で埋没者を捜索する訓練を行った。
「雪崩だ!」の合図とともに1チーム8人で役割を決め、半埋没者1人と、雪の中に埋めて埋没者に見立てたザック2個を見つけだす。ビーコンを担当した記者は画面上の矢印が示す方向を頼りに雪上を駆け回るがなかなか見つからない。戸惑いながらも、ふと顔を上げた先には雪に埋もれた人の姿が。「半埋没者発見しました。シャベル隊お願いします!」。すぐに指示を送り、次の埋没者の捜索に向かった-。
駆け回り埋没者発見
終わってみれば発見から応急手当てまでの時間は2分50秒。生存確率が9割以上とされる15分以内を大幅に切る好タイムだった。だが、焦る気持ちからビーコンの画面に夢中になり、すぐ目の前で顔が見える状態の埋没者に気づくのが遅れてしまった。
参加者の一人で、学生時代からスノーボードに親しむ帯広市内の会社員本保貴裕さん(38)は数年前、日勝峠でバックカントリーを楽しんでいた際、急に発生した霧で視界がなくなり、何とか沢伝いに降りた経験があるという。講習を終え、「冬山装備の大切さを身を持って体験できた。周りの友人たちにも伝えたい」と話した。
同支部の講習会は2008年に札幌と函館で始まり、十勝は今年で5回目になる。きっかけは07年11月23日、上川管内上富良野町にある十勝岳連峰・上ホロカメットク山(1920メートル)で同支部のメンバー4人が雪崩の犠牲となった痛ましい事故だった。
「冬山のリスクをみんなで共有する場を提供し、情報発信していくことがわれわれの役目」。当時の登山メンバーの一人だった同支部雪崩研修委員長の植田惇慈さん(68)は、継続して学ぶ重要性を訴えた。
記者自身、スキー場に行くと、管理区域外の山林を滑るスノーボーダーをよく目にする。新雪を滑る爽快感には憧れるが、それは単にウインターレジャーの延長ではなく、れっきとした「冬山登山」。悲惨な事故を繰り返さないためには、愛好者自らが知識と徹底した装備を身に付け、「安全第一」という認識を持つことが必要だ。