国の過失認め4947万円賠償命令 更別貯留槽中毒死訴訟
更別村内の農場に帯広開発建設部が設置した家畜ふん尿貯留槽内で2011年7月、帯開建職員が貯留槽内に誤って落としたふたを取りに行った酪農家の夫婦が硫化水素中毒死した事故をめぐり、夫婦の遺族が国に過失があるとして、慰謝料など1億1200万円の支払いを求めた訴訟で、釧路地裁帯広支部(井上博喜裁判長)は21日午後、国に4947万7266円の支払いを命じた。橋爪信・現支部長が判決文を代読した。
同訴訟では、ふたの回収を申し出た夫婦に対し、帯開建職員が硫化水素ガスの危険性を説明する義務があったかが最大の争点だった。判決で同地裁は、帯開建職員に安全を確保する職務上の注意義務があったと判断。これを怠ったことと事故との因果関係を認め、国に過失責任があるとの原告側の主張を支持した。
事故で亡くなったのは、渡辺寿文さん=当時(42)=、千香子さん=同(39)=。2011年7月12日、搾乳に出かけたまま行方不明になり、翌13日、夫婦方敷地内の貯留槽の中で硫化水素中毒死しているのが見つかった。遺族は事故から丸一年の12年7月、「2人の死を無駄にしたくない」として提訴した。
<判決要旨>
【主文】国は原告の長女(21)・長男(14)に対し、4947万7266円を支払え。
【事案概要および判断要旨】
本件は、被告の職員(本件職員)が、調査のために原告らの両親が営む牧場を訪れた際、貯留槽(本件貯留槽)のふたを誤って落下させ、これを回収するために本件貯留槽内に入った原告らの両親が急性硫化水素中毒により死亡したという事故について、原告らが、本件職員にふたの回収を両親に委ねるに当たり過失があったとして、国家賠償法等に基づく損害賠償を求めた事案である。
前提として、本件に国家賠償法が適用されるか否かが問題となるが、本件職員が、公務としての調査中に落下させた本件貯留槽のふたの回収作業を原告らの両親に委ねた行為は、公務に密接関連するものであり、「公権力の行使」に該当するから、本件には国家賠償法が適用される。
本件貯留槽は、肥培かんがい施設の一部として被告が設置し、本件事故当時も被告が所有するとともに、施設の改修等が必要な場合には被告の責任で行われていたものであり、日常的な利用において利用者(原告らの両親)が本件貯留槽内に立ち入ることは予定されていなかったから、本件貯留槽の内部は被告が管理していたと認められる。
そして、本件貯留槽の内部は、家畜ふん尿により硫化水素が発生しやすく、十分な安全対策を取ることなく内部に立ち入った場合、生命身体に重大な危険を及ぼす恐れがあった。本件貯留槽の内部を管理していた被告は、ふたの回収作業を原告らの両親に委ねるに当たり、その危険性を警告し、十分な安全対策を取るよう説明するなどして危険が現実化することを防止する義務を負っていた。
被告には、かかる義務を怠った過失があり、国家賠償法上の責任を負う。他方、原告らの両親は、経験十分な酪農家であり、これまでの経験や農協等を通じて上記危険性を知ることもできたから、本件貯留槽の内部に立ち入った点につき落ち度があったと認められる。ただし、事故防止の第一次的な義務は被告が負うべきものであり、自ら落としたふたの回収を安易に委ねた本件職員の対応に軽率な面があったことなどからすると、被告を上回る過失があったとはいえず、過失相殺の割合は4割が相当である。
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