靴職人一筋65年の歴史に幕 まるとみの安藤さん
丸富商店(帯広市、高橋和義社長)が運営する靴修理・合鍵のまるとみ(西2南9)の安藤正美さん(81)が30日で退職し、靴職人一筋65年の歴史に幕を下ろす。安藤さんは「お客さんから『おじさんの仕事(靴の仕上がり)が一番いい』と言われるのが職人としてはうれしかったね。今は感謝の気持ちでいっぱい」と語る。安藤さんの退職で、同社の靴修理部門は廃止となる。
安藤さんは清水町生まれ。帯広啓北高等小学校(現帯広第一中学校)を卒業し、16歳で帯広市内の靴屋に奉公した。昭和30年代には西2南3に安藤靴店を開業し、オーダーの靴も手掛けた。輸入品の増加で靴の受注が減り、1967年ごろ、叔父の高橋勉さん(故人)が経営する靴のワシントン(西2南9)で靴の調整・修理を始めた。当時、道外から仕入れた靴は甲が低くて幅が狭く、「北海道の人の足には合わなかった」(安藤さん)。既製品の靴を幅広に調整して店頭に並べ、「ワシントンの靴は履きやすい」と評判になった。
83年に店名を現在の「まるとみ」に変え、現店舗をオープン。9年前に高橋さんが亡くなってからは1人で切り盛りしてきた。音更の自宅から自ら運転して通い、靴裏の滑り止めの受注が多い毎年11月から3月は日曜日も休まずに店を開けてきた。
7年前に狭心症と診断された。何十年もの間、数え切れないほどの靴を修理してきた手は金づちを持つだけで手首が痛み、指もしびれるようになった。今年4月、年内での閉店を決意した。
引退を知り、5~6足を持参した常連客もいる。「1度は他の店に“浮気”しても私の所に戻ってきてくれる人もいた」と笑顔を見せる。接着剤のにおいが立ちこめる店内で、靴を素早く診断し、年季の入った金づちやはさみを使い分けながら手際よく作業する姿はまだまだ現役そのものだ。
長女の林美恵子さん(56)は「65年間現役で働くというのは手に職があってこそ。少しのんびりするのもいいんじゃない」とねぎらう。安藤さんは「車に乗ってカメラを持って野鳥のウオッチングに行きたいね。料理学校にも通いたい」と“第2の人生”を楽しみにしている。
(澤村真理子)