コンバインで収穫ロスが少ない! 小豆新品種「十育180号」
道総研 十勝農業試験場 研究部 豆類畑作グループ
道総研 上川農業試験場 研究部 生産技術グループ
1.背景
北海道産小豆は国内生産量の93%を占め(農林水産統計,2021年)、実需者からは高品質と評価され、安定供給が求められている。一方、小豆の10aあたり投下労働時間は長く、特に収穫作業は4.2時間と、大豆の1.9時間と比較して2倍以上の時間を要している(農林水産統計,2003年)。
小豆では収穫ロスを抑えるためピックアップ収穫1)が主流であるが、収穫作業に時間がかかることから、より省力的なコンバインによるダイレクト収穫2)への関心は高い。しかし、ダイレクト収穫に用いられるリールヘッダコンバインは刈り刃の高さを地上10cmより低くすることが難しく、既存品種は地際の莢が多いため、収穫ロスが多くなりやすいことが課題であった。このため、地際の莢が少ない「十育180号」を育成した。
注1)ピックアップ収穫:ビーンカッターにより地際で切断した後、ピックアップスレッシャ等で拾い上げ収穫・脱穀する方法。収穫ロスを低く抑えることができるが、作業が2工程のため時間がかかる。
注2)ダイレクト収穫:豆用のロークロップヘッダ(地際で刈り取ることが可能)または汎用(豆、稲、麦に利用可能)のリールヘッダを装着したコンバインにより、1工程で収穫・脱穀する方法。
2.育成経過
「十育180号」は、落葉病菌レース13)・茎疫病菌レース1,3,4・萎凋病菌抵抗性で成熟期やや早生の「十育165号」を母、胚軸長4)が長く、落葉病菌レース1・萎凋病菌抵抗性で成熟期中生の「十育161号」を父として人工交配を行い、以降、選抜・固定して育成した品種である。F7世代では上川農業試験場において茎疫病抵抗性により選抜し、F8世代以降「十育180号」の地方番号を付して各種の試験を実施した。
注3)レース:病原性が異なる種類。品種・系統により各レースに対する抵抗性が異なる。このため、各ほ場で発生しているレースに抵抗性を持った品種でなければ、被害が発生する。北海道内で発生の多い土壌病害菌は、落葉病菌(レース1,2)、茎疫病菌(レース1,3,4)、萎凋病菌である。
注4)胚軸長:地際から1節目(初生葉節)までの長さ。
3.特性の概要
「十育180号」は、胚軸長が対照品種「きたろまん」の4.1cmに対して、9.0cmと長く(十勝農試、2020~2022年に調査した平均値)、地上10cm莢率5)が低いことから、ダイレクト収穫でロスが安定して少ない(表1、図1)。普及見込み地帯における手刈り子実重は「きたろまん」よりやや少ないものの、実規模栽培試験のダイレクト収穫において収量は多い(表1、図2)。成熟期は「きたろまん」と同等のやや早である。倒伏程度は同等である。百粒重は「きたろまん」よりやや軽いが、普通小豆の範疇である。外観品質は同等である(表1)。土壌病害の落葉病菌レース1、茎疫病菌レース1,3,4、萎凋病菌に対して抵抗性を持つ。低温抵抗性は中であり、道内で安定して栽培可能なレベルである(表2)。実需者による製品試作試験における評価は「きたろまん」と同等であり、北海道産小豆として十分使用可能な加工適性を有する(表3)。
注5)地上10cm莢率:地際から10cmの高さの間に一部でも含まれる莢数の、全莢数に対する割合。値が小さいと地際に莢が少ない。
4.普及態度
コンバインによるダイレクト収穫を実施する地域の「きたろまん」に置き換えて普及する。
1)普及見込み地帯:全道の小豆栽培地帯のうち、早生種栽培地帯(Ⅰ)、早・中生種栽培地帯(Ⅱ)、中生種栽培地帯(Ⅲ)及びこれに準ずる地帯(図3)。
2)普及見込み面積:5,000ha(2027年)
3)栽培上の注意事項:
(1)手刈り子実重はやや少ないが、ダイレクト収穫では収穫ロスが少なく、収量が確保できる。
(2)土壌病害の落葉病、茎疫病、萎凋病に抵抗性を持つが、栽培に当たっては適正な輪作を守る。
※本成績は、生研支援センター「イノベーション創出強化推進事業(JPJ007097)」(01019C、2019~2022年)の支援を受けて実施した。
詳しい内容については、次にお問い合わせください。
道総研十勝農業試験場 豆類畑作グループ
電話(0155)62-2431 E-mail:tokachi-agri@hro.or.jp
- カテゴリ農業
- タグ最新農業情報2023