農に向き合う~農業経営部会会員紹介「音更・山本忠信商店」
1.農業に寄り添う
1953年、大阪・岸和田から十勝へ移住した創業者の故山本忠信氏が雑穀店を開業した。89年からは小麦政府売渡受託業務を始め、2011年には音更町内に製粉工場「十勝☆夢mill(ミル)」を建設、十勝で初となる小麦の製粉事業をスタート。十勝産100%の小麦粉を商品化した。この取り組みは18年度、ふるさと財団(東京)のふるさと企業大賞を受けた。
農業に寄り添い、作り手と食べる側の想いをつなげる企業を目指す。契約生産者と連携した生産物の品質向上の他、地元の小麦や関連産業を盛り上げる取り組みを行っている。消費者への還元を目的にした「ヤマチュウ祭」を毎年開催。札幌、東京、神戸、シンガポールに拠点を設け、顧客のフォローや商品の開発、販売を進める。
2.十勝初の製粉工場で加工度向上へ
「『つくる』を『たべる』のもっと近くに」が同社のスローガン。農業に寄り添いながら、生産者、消費者の距離を縮める流通を作ってきた。その象徴が製粉工場「十勝☆夢mill」の建設。十勝は国内最大の小麦産地だが製粉工場がなく、地元農家や関係者には地元で加工ニーズがあった。業界に風穴を開ける取り組みだったが、「明治時代、豆屋と農家で十勝農業を作った歴史を考えると農業に寄り添うのは必然。一大決心だったがやって良かった」。農産物の加工度を上げて域外に販売していく試みで、パン店など市場の声に耳を傾けてパン用強力粉だけでなく、粉乳や食塩などを配合したミックス粉の製造、販売も手掛ける。
3.「社内が大事」。同友会で気づき
40歳だった1999年、経営を学ぶ目的で同友会の「拓の会」に出席したのが同友会の活動に参加していくきっかけ。自社の企業理念や取り組みを熱く語ったが、先輩経営者からは「そのビジョンに社員はどうかかわり、どう幸せになれるのか」と問いかけられた。当時は足りなかった視点で、山本社長は「営業スキルはそれなりにあったと思うが経営そのものは勉強していなかった。内部が一番大事と気付かされ衝撃を受けた」と振り返る。先輩経営者たちが、自分の失敗談を隠さず話して学びあう姿も刺激になった。
会員だった先代で父の巌氏は一度も参加したことがなかったというが、山本社長は同友会活動に積極的に関わりだす。次期経営者の集まり「あすなる会」では初代の会長、2012~16年は、同友会とかち支部の支部長を務めた。「一度入ると良さが伝わる。それが同友会」と話す。
4.海外にも広がる「ヤマチュウ」。人育つ会社に
この5年間で道内外、海外にも拠点を広げて、「マーケットに寄り添う」経営も強化している。市場の声を開発現場、生産者にフィードバックして商品力、技術力を高めていくのが狙いだ。
拠点網の拡大によって事業の幅が広がったことで、新たな人材が集まる環境にもなりつつある。社内のモチベーションを上げていこうと、ユニークな人材登用制度や若手のアイデアを引き出す取り組みを行う。「“経営者”が何人かいて各部署を引っ張っていくのが理想。若手のアイデアが形になり、『人が育っているな』と言われるような会社にしたい」と話す。
◆特集
・農に向き合う~農業経営部会会員紹介 一覧