新連載小説 あすスタート「椿（つばき）ノ恋文」
人の手から手へ かけがえのない手紙 作者の小川糸さん思い語る
「ツバキ文具店」「キラキラ共和国」に続くポッポちゃんシリーズ第３弾
新たな連載小説、小川糸・作、しゅんしゅん・画「椿ノ恋文」が１６日、始まる。鎌倉で「ツバキ文具店」を営みながら、代書屋をしている主人公・守景鳩子の物語。「ツバキ文具店」「キラキラ共和国」に続く、ポッポちゃんシリーズ第３弾となる。小川さんが連載に込める思いを語った。
これから始める物語の主人公・鳩子（はとこ）は、小さな文具店を営むかたわら、手紙の代書を請け負う女性です。
最近、手紙を書く機会はめっきり減ったかもしれません。でも、メールやＳＮＳと手紙とでは、同じメッセージでも伝わり方が違う気がするのです。便箋や筆記具、切手のデザインまでをも選んで送る手紙は、相手への思いがより伝わるような気がします。ただ、そんな手紙を書きたいけれど自分では書けない、と尻込みする人も少なくないのではないでしょうか。そこで代書屋の登場です。
手紙でのコミュニケーションが効率の点でメールやＳＮＳに劣るのは否めません。だからと言って、世の中から手紙という文化がなくなってしまったらとても寂しい。私自身よく手紙を書きますし、類は友を呼ぶということか、友人たちも人柄がにじむ便りを送ってくれます。
手紙をしたため、わざわざポストまで出向いて投函（とうかん）する。その手紙が回収され、運ばれて、相手の郵便受けに届く。その時間も含めて、人の手から手へのリレーはかけがえのないものだと感じています。
＜小川糸（おがわ・いと）＞
１９７３年山形県生まれ。２００８年のデビュー作『食堂かたつむり』は英、韓、中、伊、仏語などに翻訳され、１１年にイタリアのバンカレッラ賞、１３年にフランスのウジェニー・ブラジエ賞を受賞。『ツバキ文具店』とその続編となる『キラキラ共和国』、また『ライオンのおやつ』は「本屋大賞」候補となっていずれも上位に選出された。（撮影／山田ミユキ）
この小説は２０１６年に刊行された「ツバキ文具店」、翌年刊行の「キラキラ共和国」に連なります。単身者だった鳩子が、結婚して夫の連れ子の母となり、これから始まる「椿ノ恋文」では三児の母として多忙を極めています。
作家として、自分が年を重ねていくのと同じように年を重ねる主人公がいたらいいなと思い、その願いを鳩子に託しました。そしてこれまで書籍だけで展開してきた物語を、今度は新聞という多くの読者に支持される新しい舞台で繰り広げられたら－－と、新聞小説に挑戦することを決意しました。私にとって初めての新聞小説です。三作は連続しますが、単体で楽しんでいただけるように書きますので、まずは三児の母として、少し頼りない夫を支え、反抗期の長女に悩まされながらも奮闘する鳩子とともに過ごしていただけたらうれしいです。
鳩子のもとには思いもよらない代書の依頼が続々と舞い込みます。理不尽に退職を迫られた会社員の退職届、余命宣告を受けた母から嫁ぐ娘への手紙、免許を返納しない高齢の父への手紙……。面と向かっては言えないし、メールでは味気なく、まさに手紙でしか伝えられない事ばかり。でも、いざ筆を執ると悩ましい－－。鳩子が考え抜いてつづる手紙もお楽しみください。
今回の連載小説を通じて、時間をかけることの大切さを伝えられたらと願っています。日々の暮らしの中で、ちょっと大変なことがあっても時間をかけてよきところに向かっていく。作中では「時薬（ときぐすり）」という言葉を使っていますが、ゆっくりゆっくり人間の中にある自然治癒力みたいなものを目覚めさせていく。そんな意識を読んでくださる方と共有できたらと思います。
素描家のしゅんしゅんさんが描く挿画が小説欄を豊かにしてくれることと思います。この物語自体が、私から読者へのお手紙です。（談）
心がホッとなごむ絵を 素描家 ｓｈｕｎｓｈｕｎ
手紙を書いたら人生が少し変わった。そんな経験はありませんか。電話でもメールでもＳＮＳでもなく、思いを込めて書いた手紙であればこそ伝わることがある。そんな手紙のもつ不思議な力を思い出すような小説とともに、心がホッとなごむような絵を届けたいです。
＜ｓｈｕｎｓｈｕｎ（しゅんしゅん）＞
１９７８年高知県生まれ、東京育ち。広島県在住の素描家。千葉大学で建築を学び、建設会社勤務を経て絵の道に。「おかえりモネ」後半ポスターや長谷川ちえ著「三春タイムズ」など広告・書籍の装画を手掛けながら、国内外で個展を開催している。
