がん 新たな治療法を 音更出身・北大大学院 山田勇磨准教授
研究費と情報発信 CF活用 副作用少ない手法
副作用の少ない新たながん治療法の開発を目指し、音更町出身で北海道大学大学院薬学研究院の山田勇磨准教授(40)が、細胞の中にある器官「ミトコンドリア」に注目したがん治療法の研究にかかる費用をクラウドファンディング(CF)で募っている。目標額は650万円、16日現在で547万5000円が集まっている。募集は31日まで。
山田准教授は音更東士幌小、音更駒場中、帯広柏葉高、北大薬学部卒。2005年同大大学院薬学研究科修了、08年博士取得。ミトコンドリアを標的とした薬物送達(ミトコンドリアDDS)の研究に取り組んでいる。
心身の負担軽減
DDSは「ドラッグデリバリーシステム」の略で、「体内の狙った部位に適量の薬を運ぶ技術」のこと。抗がん剤の多くは、がん細胞の遺伝子がある核を対象にするが、山田准教授は核ではなく、細胞内でエネルギーを作り出す役割を担うミトコンドリアに着目。ミトコンドリアの内部に薬剤を運ぶことができるナノカプセル「MITO-Porter(マイトポーター)」を開発した。
山田准教授は「異常ミトコンドリアにピンポイントで抗がん剤を送ることができれば、短時間でより効率的な治療ができる。心身に負担の少ないがん治療が可能になる」とし、「核を狙う治療法では効果が見られない患者、これまでの薬では効き目がなくなってしまった患者などに新しい治療の選択肢が生まれる」と話す。
今回の研究では、「マイトポーター」の技術と既存の治療を組み合わせ、7月からの1年間でマウス実験による治療効果の検証を行う。寄付者には額に応じて活動報告冊子の送付、北大での特別講義招待などのリターン(返礼品)がある。
「CFを機に多くの人に研究を知ってもらいたい」と山田准教授。CFサイト内にナノカプセルの仕組みや研究内容を分かりやすく解説する連載コーナー「科学の時間」も設けた。がん患者からのコメントや要望も届いており、「患者さんと双方向でやりとりでき、今後の研究にもつながる」と手応えを語る。
「可能性は無限」
実家のある十勝には、妻と3人の娘とともに年に3回帰るのが恒例だが、新型コロナウイルスの影響で今年は帰省のめどが立っていない。
「大草原を駆け回って育ち、高校生までさまざまな経験ができた。可能性は無限であることを十勝から学んだ」と故郷への思いを口にし、「サイエンスの力で少しでも十勝の皆さんの役に立てれば。『がん治療はつらく苦しいが、耐えなければならない』という今の常識を変えたい」と話している。(安藤有紀)
<研究の詳細や寄付>
CFサービス「READYFOR」内ページ(https://readyfor.jp/projects/MITO-Porter)または「ミトコンドリア レディーフォー」で検索。