写真に心を通わせて~人の気配
先日、地元の大樹町に帰省した際、「新聞の連載、いつも楽しみにしてるよ!」と声をかけられた。人を紹介する文章のその先に、また別の人がいてくれる。つながっていることがとてもうれしかった。僕が生み出すものは、全て誰かの五感に触れることで完成する。
写真もきっと同じで、誰かの目に触れることで完成するのではないか。特にクライアントがいるのであればなおさら。撮って満足ということはあり得ない。今回は、ライブや音楽作品とはまた別の仕事でお世話になっている写真家、野呂美帆さんの話。彼女は旅や山登りを中心に、雑誌やWEBメディアで活躍するカメラマンである。僕もアウトドアの仕事が増えていくなかで、何度も彼女に写真を撮ってもらっている。
写真の技術のことは僕にはわからない。当然そのことについて語る気はないが、ひとつ言えるのは、彼女が撮る自分を見るのは嫌いではないということ。「今日は野呂さんか、じゃあ大丈夫だね」という気持ちが、表情にも出ているのだろう。
撮られるこちら側への圧のない、自然体のカメラマン。さらに、僕のことをちゃんと理解してシャッターを押している、そんな気すらしてくる。きっとライブを見にきてくれることや、一緒にたき火を囲んで話をしていることが大きな理由だろう。雑誌で言えば、クライアントである編集部の厳しい目を通って、一番良い写真が載るのだ。心を通わせながら作っている写真とそのページを、ぜひ目にして完成させてほしい。
また、どうしても自分の目で見ることはかなわない街の風景を、写真は運んできてくれる。そこに人がいて、暮らしがあることを想像する。『知らない街の大聖堂』で歌った気持ちを忘れてはいけない。平和を願う。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。帯広柏葉高卒。Riddim Saunterを解散後、ソロ名義での活動を続ける。V6への楽曲提供が話題になるなか、最新アルバム『Chase After』に続き、新曲『Joy』『心たち』を含む新作EPをリリースしたばかり。