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農に向き合う~農業経営部会会員紹介「上士幌・十勝しんむら牧場」

新村浩隆代表取締役社長

1.自立した経営へ、生乳に価値加える
 大雪山のふもと上士幌町。新村家が富山県から入植したのは1933(昭和8)年。曽祖父が拓いた土地と意思を受け継ぎ、革新をもたらしたのが4代目の新村浩隆社長(47)だ。新村社長は酪農学園大学を卒業後、別海町やニュージーランド、オーストラリアで放牧酪農を学び、94年からは自分の牧場でも取り入れた。2000年に法人化して十勝しんむら牧場を設立、ミルクジャムをはじめとする乳製品製造を本格化させた。現在の社員数は役員含め13人、パート10人。年商は2憶3000万円。

 その後も菓子製造やカフェ「クリームテラス」の運営、放牧養豚など多角的な経営に取り組んできた。この展開について新村社長は、「大目的は価格決定権を持ち、自立した経営を確立すること。加工・販売や飲食店経営などはあくまでもその手段」と話す。

2.「健康な土」で放牧。牛も健康に
 大学や留学先で学ぶうち、農業の根幹は土だと気付いた。しかし良い土を作る方法が分からない。放牧を始めたものの牛は青草を食べてくれなかった。そんな時、世界で活躍する農業コンサルタントと知り合い、土壌分析を依頼するようになってから70haの畑は変わった。牛ふんの分解が早くなり、牧草密度は上昇。牛もよく食べるようになったのだ。「健康な土には微生物や虫が豊富にいて、その虫を食べに鳥が来るなど、生体の循環が活発に起きている」と新村社長。

 土作りに取り組んでから、牛は病気をほとんどしなくなり診療回数は減ったという。1頭当たりの平均分娩回数は3.7産で、7産、8産する牛も1割ほどいる。土と草と牛、そして乳。いずれもつながっている。

3.「学び合う会」、事業立ち上げの支えに
 新村社長は大学3年ごろから自立経営の青写真を描いていた。「生乳を出荷するだけでは価格の決定権を得ることはない。生産したものに価値を付加して経営を充実すべき」と考えた。一般的な乳加工品はチーズやアイスクリームだが、それはすでに市場にある。検討していくうち「自家牛乳の特徴が生かされるなら、何を作ってもよい」と柔軟に考え、日本にはまだ普及していないミルクジャムに目を付ける。まずはこれだと思い2年半ほど掛けて商品化した。

 このころ、乳製品を手掛ける同友会の先輩経営者から、教示を受けたり視察に出向いたりして参考にした。「学び合う会だから教えを請いやすかった。スタートアップを支えてもらった」と振り返る。

4.共生する農業が商品価値に
 これからの農業について、「生産性を上げるだけでは世の中に認められなくなる。地球や動物と共生する農業を持続させれば、最終的に商品価値を生むだろう」と持論を語る。

 人材育成も課題とし、「ここを学びの場として、新規就農希望者が無理なく参入できる仕組みを作りたい。技術だけではなく経営管理の知識も必要。放牧の研修農場は少ないので役立つはず」と展望を示してくれた。

 また「土地に縛られず、経済活動の場を模索したい。いずれ海外で酪農を基盤とした事業展開ができたらいい」と前衛的な意欲も見せる。


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