越冬緑肥を使った有機野菜栽培
道総研 中央農業試験場 農業環境部 生産技術グループ
1.背景と目的
後作緑肥は播種時期が遅れると十分な生育量が確保できず、休閑緑肥は収益面で不利であることから、農閑期を活用した新たな緑肥栽培が求められている。近年、府県では越冬可能な緑肥(以下、越冬緑肥)が活用されつつあるが、本道における導入可能性については未検討である。
本課題では、耐寒性や耐雪性に優れたヘアリーベッチおよびライ麦とヘアリーベッチの混播を対象に、越冬栽培した際の生育特性を明らかにするとともに、後作物を栽培する際の緑肥の腐熟期間や養分供給特性を、有機野菜を栽培することで検証した。
2.試験の方法
1)越冬緑肥の生育特性と栽培法
越冬緑肥に適した播種晩限やすき込み時期、窒素施肥量を明らかにし、雑草抑制効果を検証する。
供試緑肥:ヘアリーベッチ「寒太郎」、混播(ライ麦「R-007」とヘアリーベッチ「寒太郎」)
播 種 量:ヘアリーベッチ5kg/10a、混播ライ麦5kg/10a +ヘアリーベッチ5kg/10a
試験項目:播種時期(9月上旬、中旬、下旬)、窒素施肥量(ヘアリーベッチ0,3kg/10a、混播5kg/10a)
2)有機野菜への導入効果
後作物として有機野菜を栽培する際の緑肥の腐熟期間や窒素減肥量を明らかにする。
(1)緑肥のすき込みに伴う腐熟期間と養分供給特性
試験方法:ヘアリーベッチすき込み後の腐熟期間(2週間、1週間、なし)によるかぼちゃ生育を調査
(2)有機野菜による窒素減肥量の実証
試験方法:越冬緑肥をすき込んだ後、かぼちゃを定植
試 験 区:標肥区(裸地)、減肥区(越冬緑肥:ヘアリーベッチ、混播)
3.成果の概要
1)ヘアリーベッチ、混播ともに多雪地帯や土壌凍結地帯で越冬可能で、すき込み時における雑草乾物重は裸地(100)対比でそれぞれ27~53、19~37と雑草の発生を抑制していた(図1)。
2)ヘアリーベッチの乾物重に対して窒素施肥の効果は認められなかった。
3)両緑肥とも播種時期が遅くなるほどすき込み時の乾物重および養分吸収量は低下した。日平均気温から4℃差し引いた値(下限0)の積算値(有効積算気温)を播種翌日から年末までに350℃、年始からすき込み日までに300℃確保することで、ヘアリーベッチおよび混播の乾物重は各々250、600kg/10a が見込まれた(図2)。ヘアリーベッチは、茎(つる)を伸ばさずそのままの状態で草丈を測定することにより乾物重の推定が可能で、250kg/10a に相当する草丈は35~40cm であった(表1)。
4)3)の有効積算気温を全道各地に適用すると、播種晩限は9月上旬~10月上旬と算定され、後作緑肥よりも概ね1ヶ月播種を遅らせることが可能であった。また、すき込み時期は5月下旬~6月中旬であった。
5)かぼちゃのつる長は緑肥の腐熟期間の影響を受け、2週間>1週間>なしの順であった。腐熟期間の収量に対する影響は小さかったものの、十分な初期生育を得るため腐熟期間は2週間以上確保する必要がある。
6)越冬緑肥の養分供給特性等から算出した後作物の窒素減肥量(有機栽培)は、北海道施肥ガイド(従来法)に準拠できる(表1)ことが示唆された。これにより有機野菜を栽培したところ、収量および窒素吸収量は標肥区(裸地)と同等であり(表2)、従来法の適用は妥当と判断された。なお、3)の乾物重を確保した場合、ヘアリーベッチ(C/N 比11)および混播(C/N 比25)の窒素減肥量はそれぞれ5.5、1.5kg/10a である(表1)。
4.留意点
1)本成果は慣行栽培にも適用できるが、その際の窒素減肥量は有機栽培における減肥量の8割とする。
詳しい内容については、次にお問い合わせください。
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