大樹町・JAXA連携協定締結記念講演 柳原正明飛行技術研究センター長 吉田哲也大気球実験室長
【大樹】町多目的航空公園で今年度、新たに大気球を使った実験を開始する宇宙航空研究開発機構(JAXA)と、町との連携協力協定締結を記念する講演会がこのほど、町生涯学習センターで開かれた。同協定の中にはJAXA側の教育的支援も盛り込まれており、その第1弾としてJAXA研究開発本部の柳原正明飛行技術研究センター長、同宇宙科学研究本部の吉田哲也大気球実験室長が演壇に立った。要旨を紹介する。
(北雅貴)
/宇宙往還機の飛行実験今年も/柳原正明飛行技術研究センター長/
JAXAは1995年から町多目的航空公園で実験を行っている。10年前には、無人機でのGPS(全地球測位システム)を活用したナビゲーションシステムを開発し、大樹で実験した。このシステムはそれ以降のベースとなっている。
2000年度から04年度までの、文部科学省と総務省の合同プロジェクト「成層圏プラットフォーム」の実験では定点滞空飛行試験を行った。全長70メートル近い無人飛行船を、大樹の上空、高度4キロで1時間、滞空させることに成功。通信放送実験も順調に終えることができた。
05年9月には次世代運航システムの試験を実施した。各航空機がほかの機体の情報をキャッチし、互いに干渉しない経路を設定するなど、効率の良い飛行を目指す。さらに発展させ、実用化させようと動いている。
多目的小型無人機の開発では、大樹で機能・性能実験を行った後、気象研究所からの受託で梅雨前線観測飛行を実施。漁業被害をもたらす大型クラゲ監視への活用に向けた試験も展開した。翼を最小化し、胴体で揚力を得る機体「リフティングボディー」型の宇宙往還機の飛行実験は、昨年に続き今年も行いたい。
/大気球宇宙の進歩解明に有効/吉田哲也大気球実験室長/
宇宙の始まりについては、初期に超高温の時期があり、爆発して現在も膨張しているという「ビッグバン」宇宙論が有力で、20世紀の中でも大きな発見といえる。
宇宙には多くの謎がある。星や宇宙の生成、進化を研究するとき、空気によるゆらぎなどが邪魔になり、薄い空気や高い高度で実験を行う必要がある。大気球の高度は25−53キロ。これは成層圏と中間圏に当たる。空気のない宇宙には行けないが、空気が少なく、科学的実験に有効だ。
ロケットや人工衛星はそれぞれの役割があるが、大気球はコストが安いため、飛翔機会が圧倒的に多い。回収可能なので、気球につり下げる観測器の改良によるステップアップが可能だ。
日本での気球実験は1965年に始まり、71年に三陸大気球観測所を開設。昨年までに413機を放球した。オゾン層や温暖化ガスの継続観測、太陽や惑星の観測などに意義がある。大気球は宇宙、地球の誕生や進歩を解明するための方法として有効だろう。宇宙では、解明されていないエネルギーや物質が大半を占める。これまでにない科学観測を可能とする技術を切り開く気球実験を、大樹で展開していく。