地下街に魅了され 神戸在住の酒本健実さん 第2弾の本出版
札幌や釧路…道内10カ所掲載
昭和に生まれた全国に点在する小規模な地下街を巡り続けて約130軒-。「地下街は、高度経済成長が生み出したもう一つの『街の形』。初めて出合った時の衝撃と興奮が忘れられず、ついには記録に残したいという衝動に駆られて本まで作ってしまった」と話すのは、神戸市在住の会社員酒本健実さん(28)だ。「地下街への招待」と題したリトルプレスの第1弾「B1」号を2021年に発行、先日第2弾となる「B2」号を上梓(じょうし)した。B2には道内の地下街も多数掲載。昨年秋、初めて十勝を訪れた酒本さんに、十勝への印象と地下街の魅力について話を聞いた。(ライター・高山かおり)
酒本さんは神戸市出身。高校1年生の時、展望タワーを巡り始めたことをきっかけに、団地、喫茶店など昭和の香りが漂うものに引かれた。
在学中、大阪で団地ツアーのオフ会に参加したことで価値観が変わった。「全国の団地を回っている大人の存在に驚き、自分もいろいろな場所に行きたいという思いが芽生えた。団地の見方の面白さも教えてもらい、見慣れていた景色の解像度が急に上がった」
卒業後、金沢市の大学へ進学。3年生の頃、市内片町にあるブラザービル地下街の看板を偶然目にし、「不思議と吸い込まれるように身体が勝手に降りて行った」と振り返る。「それまでは広々とした地下街しか見たことがなく、地上とは切り離された、時が止まったような空間に一気に魅了された」とし、高校時代からの興味が地下街へと集結された。
小規模な地下街が日本にいくつ存在するのか疑問が湧き、タウンページでしらみつぶしに地下のある国内のビルを調査。ビル名をグーグルストリートビューで検索し、魅惑的な看板が確認できた地下街をリスト化、旅行の合間に少しずつ見学を重ねた。
地下街への愛があふれる「地下街への招待」。B1は800円、B2は1000円。酒本さんが運営するBASEのオンラインストア「Towers」でも購入可能な他、筆者のウェブサイト、Magazine isn’t dead.でも販売中
記録を残したい
調査を始めた2016年、金沢駅前にあった金沢都ホテル地下街が閉鎖されることを知った。興味本位で足を運び、話を聞くうちに記録として何らかの形でまとめたいと思い立つ。高校時代に参加したオフ会で出会った大人たちがおのおの自費出版物をつくっていた姿が浮かび、「このままだと何も記録されずになくなってしまう。思い出してもらえるきっかけになれば」と本の制作を決意した。
大学卒業後、神戸市に戻り会社員として就職。5年かけて約100軒の地下街を訪れ、営業を続ける店で話を聞いて回った。
21年12月、「地下街への招待」B1を自費出版。地下街へと誘う下向き矢印、看板、空間演出の要素を「吸引力」と独自に定義し星で示す他、豊富な写真と文章で魅力をひもとく。B2では44カ所の掲載のうち、札幌、北見、釧路など道内10カ所の地下街を紹介。昨年11月、取材旅行のついでに2日間十勝にも滞在した。
ばんえいや豚丼堪能
「かねてより音更町のカントリーサインのファンで、いつか行きたい街だった。自転車で帯広市と音更町を巡り、ばんえい競馬や温泉、地元グルメを堪能した。いっぴんの豚丼が特においしかった」と話す。
道内の繁華街を巡ったが、「釧路は夜になると街全体がネオンで彩られ、昼間の静けさとのギャップに驚いた。帯広は路地が少ない一方で魅力的なスナックがビルに集中していて、それぞれ歓楽街のスタイルが違っているように感じ、面白かった」と印象を語る。
老朽化などが要因で昭和生まれの各地の地下街はどんどん姿を消している。「なくなるのを止めることは難しいが、せめて記録を残し続けたい。現存するうちに、ぜひ多くの人に足を運んでもらい、魅力を味わってほしい」とし、今後も地下街の動向を追って行くという。
道内での本書の取扱店は、札幌市内のシーソーブックスとアダノンキ。取扱店も募集している。