鑑定・分析第一線で海守る 海上保安庁小泉敏章さん(足寄出身)
【東京】足寄町出身の小泉敏章さん(61)=東京在住=は、長く海上保安庁の化学分析担当の専門官として、海難事故や海洋汚染、麻薬密輸入などの犯罪時の証拠物件の鑑定や分析に当たっている。国際的に重大な事件・事故や大がかりな覚醒剤密輸事件の解明に携わり、昨年度、同庁の分析鑑定分野の職員としては初めて人事院総裁賞を受け、天皇・皇后両陛下のご接見を賜った。山間部の足寄から「海」の世界に飛び込み、この間、鑑定・分析業務は約28年。現在も白衣姿で、分析と後進指導の第一線に立っている。
小泉さんは1954年生まれ。足寄西小、足寄中から足寄高校に進んだ。幼少の頃、豊頃町大津や釧路の海に行き、広大な大海原に憧れた。卒業後の73年に海上保安庁入りし、海上保安学校(京都府舞鶴市)で1年間学んだ後、川崎海上保安署(神奈川県川崎市)に配属され、巡視艇に乗務した。
当時は公害が社会問題化し、工場から海への不法排水事件に当たった。化学の知識の必要性を感じ、働きながら中央大学理工学部の夜間部で4年間学んだ。79年から、当時、横浜にあった同庁海上保安試験研究センター(現在は東京都立川市)の化学分析官として、専門的な見地から塗膜鑑定、薬物鑑定などを担当するようになった。
小泉さんによると、船体は付着物防止のため進水後も塗装を何層も重ね、船体特定の重要な証拠になる。顕微鏡をのぞき、数ミリの塗膜片をパズルのように合わせて鑑定する。忘れられないのは、99年に起きた東京・八丈島沖での漁船衝突転覆事故。カナダに入港していた船から擦過痕(さっかこん)を見つけ、外交ルートを通じて塗膜片を日本に送ってもらい照合、一致し、解決した。
同年には、史上最多500キロの覚せい剤密輸入事件も担当した。既に陸揚げの後だったが、船内をくまなく調べ、微量の覚せい剤成分を検出した。積み替え場所を突き止め、摘発にこぎつけた。
同センターが取り扱う調査案件は年間100件程度で、解明まで数カ月もかかることも。「一緒に働く先輩、仲間のおかげ。地道な仕事だが、後輩の励みになれば」と、人事院総裁賞の受賞を喜ぶ。
昨年12月の授与式では天皇陛下から「長い間、ご苦労さま」とお言葉を受け、妻の寿三恵さん(59)は皇后陛下から、ねぎらいのお言葉を受けた。「徹夜や休日出勤で妻には苦労もかけた。ありがたかった」。3月には足寄の同級生が十勝川温泉でお祝いの会を開いてくれ、「生まれ育った場所なので、帰ると元気になる」と目を細める。
昨年3月に定年退職したが、再任用で引き続き同センターに勤務。海上保安学校の教官も通算8年ほど務めており、以前作成した分析マニュアルの改訂や過去の事例の文書化を進め、豊富な経験を引き継ごうとしている。「受賞が裏方的な仕事を知ってもらう機会になり、うれしい。精度の高い分析に向けて、知識と技術を残したい」と意気込んでいる。(原山知寿子)