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おじいちゃんと保育士の不思議な交流 感謝の献花届く

みのり保育園から届いた献花、供物と妻の千恵子さん

 「おじいちゃん、ありがとう」。10月末に亡くなった帯広市内の森登さん(享年81)宅に、近所の「みのり保育園」(社会福祉法人帯広事業協会運営=五ノ井博園長、園児133人)から献花が届いた。通夜当日の午前、同園職員と子供たち約30人が姿を見せ、全員で手を合わせた。突然の訪問に遺族は驚くばかり。生前、登さんと同園職員の間には、妻の千恵子さん(76)はもちろん、親戚も全く知らない心温まる交流があった。

 「みのり保育園で、おじいちゃんのことを知らない人はいない」。年少組担任の保育士・佐藤久美さんによると、森さんは毎日のように朝夕2回、同園(西22南4)の事務室の窓をたたいては、柔和な笑みを浮かべ、職員にあめなどを手渡していた。

 出会いは3年ほど前。散歩中の森さんと園児たちがすれ違ったときだった。登さんがポケットから、あめを差し出した。「子供たちにお菓子をあげることはできないんです」。保育士が遠慮すると、「じゃあ、保育士さんたちで食べて」と伝えたという。

 森さんは決まった時間に同園に足を運んでは、窓越しに職員と「暑いから熱中症に気を付けて」「寒くなったから風邪ひかないようにね」などと他愛のない会話を交わすだけだった。当初は名前も住所も知らなかったが、職員には「子供たちと“格闘”する中で、ほっとさせてもらう瞬間だった」(保育士の玉置浩恵さん)。

 窓越しの不思議な関係は徐々に深まり、1週間ほど姿を見せないと、心配になった職員が散歩コースを変え、園児と一緒に自宅に様子を見に行ったこともあった。直接の交流はなかったが、子供たちや保護者も森さんを知っていた。

 千恵子さんによると、森さんは同園職員との交流について口にすることはなかった。森さんと買い物に行ったことがある親戚の鈴木寿子さん(64)は「あめばかり6、7袋を買い込んでいた。食べ過ぎないでと注意したが、照れ笑いを浮かべるだけ。保育士さんとつながっているとは思わなかった」と振り返る。

 長男の雅司さん(56)=札幌=によると、森さんは子煩悩で、保育士の佐藤さんも「私たちのことを心配してくれる本当のおじいちゃんのようだった」。五ノ井園長も「地域の人と心がつながる一つの例。ありがたかった」と話す。

 森さんが姿を見せなくなって数カ月。新聞のお悔やみ欄で訃報に触れた職員は「お礼が言えなかったことが心残り。きちんとあいさつしよう」と、献花と供物を準備。通夜当日の10月27日午前、佐藤さんと子供たちで届けた。玄関横で手を合わせてくれたことに、千恵子さんや義弟の鈴木巧さん(65)ら遺族は「迷惑をお掛けしたはずの皆さんから、すてきな贈り物を頂くなんて」と感激。受け取った気持ちを、登さんの遺影のそばに置いた。

 晩年入院中の登さんは何度も「自宅に帰りたい」と言っていたという。「保育士さんや子供たちに会いたかったのかも」。千恵子さんは目頭を押さえた。
(関根弘貴)

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