高橋啓さん新しい訳書出版 「エディに別れを告げて」
帯広市在住の翻訳家高橋啓さん(61)の新しい訳書「エディに別れを告げて」(エドゥアール・ルイ著)が東京創元社から出版された。著者は現在、フランスの高等師範の学生で22歳。本書がデビュー作だが、同性愛という自身の体験をもとに書かれた小説として同国で大きな反響を呼んだ。
北フランスの小さな村を舞台に、生まれつき物腰の女性的な「ぼく」が「ワル」(男)になろうと苦しみ、「楽しい思い出はまったくない」という子供時代からの「逃亡」として、名前も家族も故郷も捨て、大きな街の高校へ進学するまでをつづっている。
小説の背景には同性愛、いじめ、暴力、貧困、教育格差、家族、人種差別の問題がある。高橋さんは「フランスの現代文学はインテリがかって頭でっかちのものが多い中、赤貧洗うがごとくの生活を送り、教育格差を自分の力で克服した人が書いた。その反骨精神がすごい」と話す。
高橋さんは翻訳に際してパリでエドゥアール・ルイに会った。「とてもいい感じの青年だった。辛酸をなめてきたせいか非常に大人だし、覚悟を決めて自立している印象を受けた」という。翻訳については「最後まで文体をつかみあぐねて苦労したが、構成は滑らかで知的。日本の読者がどう受け止めるか楽しみ」と話している。
タイトルにある「エディ」は著者の元の本名で、作品の主人公エディ・ベルグルによる。著者はこの名前に「別れを告げて」、現在の名前に改名した。その辺りの解説は「訳者あとがき」に詳しい。
四六判、246ページ。1836円。(武内哲)