欧州種ワイン用ぶどう品種を北海道で育てる
道総研 中央業試験場 作物開発部 作物グループ
1.背景と目的
北海道の醸造用ぶどうは新規ワイナリーの増加やGI北海道の開始などから安定的なぶどう生産や多様なニーズに応えられる品種の導入が求められている。新品種の導入には基本的な栽培特性の他、気象条件に対する糖度上昇・酸度低下の推移傾向が重要な情報となる。本成績の目的は、欧州種醸造用ぶどう5品種について、生育、果実品質特性を明らかにし、地域の気象条件やニーズに適合した品種選定のための資料とすることである。
2.試験の方法
1)北海道における栽培特性
・試験項目等:供試品種:白ワイン用「ピノグリ」「ソービニオンブラン」「シャルドネ」「リースリング」「ケルナー(対照品種)」。赤ワイン用「ガメイ」「ツバイゲルトレーベ(対照品種。以下ツバイゲルトと表記)」。
台木:「テレキ5BB」。仕立て:片側水平コルドン。調査圃場:中央農試、余市町園芸試験場。収穫期:糖度18Brix%または酸度1.0g/100mlを目安に、糖度上昇や酸度低下が緩慢になった日。
2)気象条件からみた糖度酸度の到達予測
・試験項目等:供試品種は1)と同じ。台木:現地試作圃により異なる(3309、101-14等)。調査圃場:1)に加え現地試作圃6箇所(後志2、空知2、上川1、石狩1)。気象データ:解析は農研機構北海道農業研究センター設置のWeatherBucket(SEC社製)と中央農試設置のHOBOproV2U23-001(Onset社製)の観測データ使用。欠測は農研機構が提供するメッシュ農業気象データ(https://amu.rd.naro.go.jp/)(大野ら2016)で補完。糖度酸度の到達予測は、アメダスおよび新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「日射量データベース閲覧システム」より作成。有効積算気温はΣ(日平均気温-10)。(日平均気温-10)が0以下は0として計算。
3.成果の概要
1)供試5品種の栽培特性は対照品種と比較し以下の通り(表1)。①「ピノグリ」:耐寒性、樹勢は並で収穫期はやや遅い。糖度酸度は並である。②「ソービニオンブラン」:新梢の木化程度を評価した「登熟の良否」はやや劣るが、枯死芽率は並であり総じて耐寒性は並である。樹勢はやや強い。収穫期はやや遅い。糖度はやや高く酸度は並である。③「シャルドネ」:耐寒性は並で、樹勢はやや強い。収穫期は遅い。糖度は並で、酸度はやや高い。④「リースリング」:耐寒性、樹勢は並で、収穫期は遅い。糖度はやや低く酸度は高い。⑤「ガメイ」:耐寒性は並で、樹勢はやや弱い。収穫期は並。糖度はやや低く酸度はやや高い。
2)一定品質のワイン製造が可能と考えられる糖度および酸度の目安を18Brix%、1.0g/100mlと設定し、各地における「糖度18Brix%以上」または「酸度1.0g/100ml程度」の到達予測を行った。①糖度上昇は「満開期からの積算全天日射量(MJ/m2)」で表すことができ(R2=0.60~0.89)、酸度低下は、「ベレゾン期からの有効積算気温(℃)」で表すことができた(R2=0.68~0.92)(表2)。②「ピノグリ」:糖度18Brix%以上になるには対照品種より50MJ/m2多く必要で、酸度低下は対照品種並であった。③「ソービニオンブラン」:糖度・酸度ともに目安に達する気象条件は対照品種並であった。④「シャルドネ」:糖度18Brix%以上には対照品種より100MJ/m2、酸度1.0g/100ml程度には100℃多く必要であった(図)。⑤「リースリング」:糖度18Brix%以上には対照品種より100MJ/m2多く必要であった。酸度は1.2g/100ml未満の到達事例がなく推定困難であった。⑥「ガメイ」:糖度18Brix%以上には対照品種より300MJ/m2、酸度1.0g/100ml程度には70℃多く必要であった。⑦上記の簡易な予測として、糖度は7月1日からの積算全天日射量、酸度は8月20日からの有効積算気温にそれぞれ補正(品種により前者0~50MJ/m2、後者0~50℃)を加えた「目安となる積算値」に到達する時期を気象データから予測した(表3)。なお、酸度のあてはまりは年次間差・園地間差が大きい。
4.留意点
1)道内の醸造用ぶどう栽培において、新規に導入する品種選択の際の参考資料として活用する。
2)本成果内容は、園地や年次による変動があり栽培条件・収量水準等にも影響されることに留意する。
3)本成果は、空知中南部・後志北部・石狩・上川南部地域での調査結果を元に作成している。
詳しい内容については、次に問い合わせください。
道総研中央農業試験場 作物開発部 作物グループ
電話(0123)89-2001 E-mail: central-agri@hro.or.jp
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