信頼で広がっていく~人の気配
秋になると弾き語りツアーに出ることが多い。アコースティックギターを持って、ふらっとなじみの街と人に会いに行く。なぜ秋なのかはよくわからないが、弾き語りの場合はその日程を決めているのが大体半年前なので、どうやら僕は春になるといろんな街のことを思い出し、旅に出たくなるようだ。
毎年いろんな街でライブをするが、なかなか行けない街というのもやはり存在する。僕の場合は5年も空けば行けていない街に入るが、そのひとつが熊本県だった。そろそろ行きたいなと思い、昨年の春に熊本の友人である本田裕朗さんに連絡をした。
彼と出会ったのはもう10年以上前。すでに仲良くしていた熊本のDJの友達として紹介された。少しこわもてだが、頼れるやつだということは当時から感じていた。そして、秋に初めて彼との共同主催で、久しぶりの熊本ライブが実現したのだった。
ライブ会場に彼が選んだのは、植物を取り扱いながらお酒も飲めるというあまり見かけないスタイルのお店。当日までどんなところでライブをするかも分からず、ただ本田さんへの信頼だけでその日を迎えた。オーガナイザーとしての経験を積み、僕のことも理解してくれている彼なら、きっと良い場所を選んでくれているに違いないと思えた。実際、お店の雰囲気はもちろん、オーナーの人柄も含めて、僕はその場所がとても気に入った。良い夜になったことは言うまでもない。
人が人をつないでくれる。そこには人の気配が漂い、それを人気と呼んだりもする。まさにこのコラムで言いたいことが、本田さんとその周りに漂っている。雨上がりに「傘を持たない君と音楽を」を聴きながら、また熊本に歌いに行く計画を立てる。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。帯広柏葉高卒。Riddim Saunterを解散後、ソロ名義での活動を続ける。V6への楽曲提供が話題になるなか、最新作『KOKORO EP』はひとりでレコーディングをした意欲作。グッズと共にオフィシャルショップで販売中!