スイスで19年の人気和食店 市内「米風」で目覚めた料理熱 清水出身の芝田さん
スイス・ジュネーブで、19年間の長きにわたり和食の創作レストランを営んでいる十勝出身の料理人がいる。清水町出身の芝田博志さん(53)で、数多くのレストランがしのぎを削る中、妻マリー・ピエールさん(53)と二人三脚で、地元スイスの食材を独創的にアレンジして和の味わいを提供し、美食家の支持を得ている。芝田さんは「常に勉強、新しいものを取り入れて、料理への情熱を失わないでいきたい」と話している。(酒井花)
芝田さんは清水御影小・中学校、帯広農業高校卒。高校時代に帯広市内のビアカフェ「米風」を営む中村晃さんと知り合い、魅力ある人柄に触れて「料理の道に進みたい」と、札幌の調理師専門学校に進学した。
当時、札幌市内で人気だったエスニック料理店「きんにくや」(現在は閉店)で修業を積み、中村さんの誘いを受けて1991年、21歳で帯広に戻り、多国籍料理店「赤唐辛子」のシェフを務めた。
2年間働いた後、沖縄へ移住し、沖縄料理店に勤めていた矢先に目にしたのが、スイス・ジュネーブの高級和食レストラン「都」の求人だった。
公用語のフランス語はおろか、英語も十分に話せなかったが、単身スイスに飛び込み、同店で2年間、和食の技術を身に付けた。「新人であろうとも責任が追及される、徹底した個人主義の文化」も学んだという。
スイスとフランスの国籍を持つマリーさんは、慶応大に留学して日本語を学び、帰国後に同店で芝田さんと知り合った。二人は結婚後の2004年、各国の国際機関が立ち並ぶ建物の1階で「レストラン芝田」を開業した。
店舗は、テラスもある全20席の小さな空間。すしやラーメンといった古典的な日本食は一切出さず、ホタテにモッツァレラチーズ、フォアグラとかす漬けなど、地元素材を生かし随所に北海道の風味も取り入れたメニューで、和と洋の融合を目指している。
マリーさんが、芝田さんの世界観を「あうん」の呼吸で伝え、温かいサービスでもてなしている。21年6月に、地元紙ジュネーブ・トリビューンでスイス・フランス近郊の「話題の店」として紹介された。各種の口コミサイトでも高い評価を得ている。
芝田さんは19年続けてこられたことについて、「来店客は美食家が多く、遠出もいとわない。工夫と研究を重ねた新メニューで、飽きさせないようにしている」という。
この夏、芝田さんはマリーさんを伴い、27年ぶりに十勝に里帰りした。十勝発のチーズ工房が増えていることなど、再発見も多かった。「若い頃に中村さんに影響を受けて外に出ていったように、一度は広い世界を知り、さまざまな経験を吸収していってほしい」と後進にエールを送っている。