十勝坊主、今なお成長 「価値見直し、保護・活用を」
十勝を代表する地形「十勝坊主」について、福山市立大(広島県)の澤田結基教授(47)=自然地理学=が研究を進めている。数千年前にできた化石地形と考えられていたが、詳細な測量で現在も成長していることが分かった。澤田教授は「十勝坊主は失われると元に戻すことができない。地形や地質の価値を見直し、資源として保護・活用してほしい」と話す。(池谷智仁)
十勝坊主の研究は進んでいなかった。1950年代に帯広畜産大研究者の調査で同大農場内の十勝坊主が道天然記念物に指定されたが、それ以降は論文発表はなかった。明治大の小疇尚名誉教授らが2015年から本格的な研究を再開、澤田教授も16年から加わった。
十勝坊主はまんじゅう状と言われるが、円形ではなく、北側が盛り上がった細長い形をしている。地形の成り立ちに関心を持った澤田教授は北側と南側で隆起量が異なると考え、詳細な測量を行った。
十勝管内の十勝坊主を対象に、多視点ステレオ写真測量技術を使い3次元で変化を観測。すると、秋から冬にかけて20センチほど盛り上がることが分かった。澤田教授は「発酵させたパン生地のように膨らんだ。アースハンモックの成長を3次元で詳細に測量したのは世界初」と語る。変化しない化石地形と考えられていたが、一部は今も隆起を繰り返す生きた地形だと証明した。
隆起は南側に比べて北側の方が大きく、北側に伸びて別の十勝坊主と癒着した場所もあった。北側の地温は低く、十勝坊主自体の影に入り日が当たらなかったため、強く凍上したと考えられる。澤田教授は十勝坊主が南北に伸びるのは、北向きで大きく成長するためとの仮説を立てた。仮説を確かめるため、今後も研究を続ける。
寒冷地ならではの周氷河地形の十勝坊主は、開拓や開発の影響で激減している。さらに澤田教授は、「十勝坊主が成長する条件は徐々に悪化している」と警鐘を鳴らす。冬の気温上昇や積雪増加による断熱効果で、凍上が抑制されると考えられるからだ。また、排水事業による地下水位の低下も懸念する。
澤田教授は「十勝坊主は、土壌が凍結しやすい十勝を代表する地形。十勝の菓子の名称にするなど、多くの人に存在や価値を知ってもらうことが大切」と語る。複数の専門誌に研究成果を発表し、十勝坊主の価値発信に努めている。
<十勝坊主>
土壌凍結により盛り上がった地形は「アースハンモック」と呼ばれ、十勝管内では十勝坊主と命名された。十勝坊主は凍結で地面が持ち上がる凍上で成長し、冬の寒さと地下水位が重要になる。とかち帯広空港周辺など十勝管内各地で確認され、大きさは直径1~2メートル、高さ30~50センチほど。
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