とかち特報部「メーカー続々、寒冷地エアコン」
コストや機能「熱い」商戦
「冬のエアコンは役立たず」という、北国のかつての常識を覆えそうと、大手メーカーが近年、次々と寒冷地エアコンを投入してきている。本州では普及率が9割を超え飽和状態となってきたエアコンも、北海道ではまだ2割程度と市場開拓の余地が残されているからだ。電気料金高の逆風の中でも、各メーカーは日本に残された最後の「エアコン秘境」に熱視線を送っている。
「エアコンを冬に使うとは…。正直、期待していなかった」。日本一寒い町陸別に住む石橋堂裕さん(40)は、最新技術の寒冷地エアコンの実力に驚いた。
石橋さんは2013年~14年の冬に、家電大手パナソニックの寒冷地エアコンモニターに参加。自宅にエアコンを設置して一冬を越した。
それまで使っていた灯油ストーブと比べ、暖房の即効性が高いことにまず驚いた。さらにスマートフォンで遠隔操作できる点にも利便性を感じた。「いままでなら帰宅後にストーブをつけ、部屋が暖まるまで車で待機することもあった」が、今は外出先から帰宅直前にスマホを使って暖房を入れている。既にストーブは撤去し、夏も冬もエアコンを使用しているという。
夫婦2人暮らしの朝倉俊介さん(40)も、モニターをきっかけにストーブからエアコンに移行した。「氷点下30度でも問題なく機能する。灯油と比べ、維持費も安くなった」と話す。
モニター試験を実施したパナソニックは「(原発停止による)電気料金の値上げという逆風を跳ね返すだけのメリットが、エアコンにはある」と自信をのぞかせる。実際、同社の寒冷地エアコンの売り上げは昨年、対前年比2倍。消費増税後の消費減退で、苦戦する家電も多かった中で、気を吐いた。
寒冷地エアコン人気は帯広でも徐々に高まっている。家電販売の100満ボルト帯広本店では、オール電化住宅を中心に年々、寒冷地エアコンが売れ行きを伸ばしている。
灯油を使わず電気だけで暖房を賄えることに加え、北海道向けのテレビコマーシャルが放送され性能の高さを認識する人が増えてきたことが、売上増の背景にあるとみている。
売り場を拡大して対応する同店は「断熱性の高い新築のオール電化住宅で選ぶ人が増えている。一昨年くらいから注目が高まっている」としている。
寒冷地エアコンに商機を見るメーカーは、今年の冬も新商品を続々と投入している。
空調業界最大手で十勝出身の十河政則社長率いるダイキン工業(大阪市)は今シーズン、昨年より3機種多い9機種を投入した。
業務用のイメージが強く一般消費者には知名度が今ひとつ、という長年の課題も、イメージキャラクター「ぴちょんくん」を登場させることなどで改善を図る。北海道など寒冷地向けのテレビCMも功を奏している。
同社の寒冷地エアコンの特徴は「垂直気流」だ。温風が壁に沿って床全体に広がり、暖房のように部屋を足下から暖める。「以前はヒートポンプ暖房(エアコン暖房)は寒冷地では使えない、と言われていたが、住宅断熱性の向上もあって、認められてきた。北海道などの寒冷地は国内でのエアコン最後の市場ととらえている」(同社広報)。
一方、家庭用エアコンシェアトップのパナソニックは今冬、高級価格帯の「UXシリーズ」に加え、中価格帯の「TXシリーズ」を新規投入し11機種をそろえた。
コンプレッサーからの排熱を蓄熱して霜取りに再利用することで、霜取り時間中も暖房力が落ちない同社独自の「エネチャージシステム」を搭載し、「パナソニックだけがお届けできる“快適なエアコン暖房”となっている」(同社広報)と胸を張る。
(長田純一、池谷智仁)