富良野塾「ノクターン」幕別公演 主役の帯広出身・松本さん熱演
【幕別】東日本大震災や福島第一原発をテーマに倉本聰さん(80)が、作・演出を手掛けた富良野塾GROUPの舞台「ノクターン」の幕別公演(十勝毎日新聞社、NPOまくべつ町民芸術劇場など主催)が14日夜、幕別町百年記念ホールで開かれた。帯広出身の松本りきさん(34)が主役を務め、満席となった客席からは終演後、惜しみない拍手が送られた。
「ノクターン」は東日本大震災から数年後、原発事故避難区域となった福島県相双(相馬・双葉)地域が舞台。津波で家族や大切な人を失った悲しみや、原発事故で今なお生まれ育った故郷に帰ることができない人の姿を描いた。実際に何度も被災地へと足を運んで取材を重ねた倉本さんが「早くも風化しつつある震災や原発事故を改めて問い直す、自分なりの『鎮魂歌』」と語る作品。松本さんは津波で父親を失った彫刻家の女性を演じた。
今年1月10日に全国公演がスタートし、この日までに道内7カ所、福島県内5カ所を含む全国23カ所38公演が行われ、幕別は全国公演のラストを飾る公演となった(15日に富良野市で凱旋公演)。
この日は800席がすべて観客で埋まり「演劇で満席となるのは異例」(同ホール)という盛況ぶり。出演者の熱演ぶりに家族や故郷のことを思い涙を流す観客も見られた。本別町の公務員三上由美枝さん(39)は「エンディングの演出やピアノの音が印象的だった。震災の起きた3月11日を改めて思い出すことができた」と話していた。
◆主役の松本さんに地元から惜しみない拍手
「お帰りなさい」「感動したよ」。富良野塾GROPU公演で初めて主役を演じ、故郷での凱旋公演に臨んだ帯広市出身の松本りきさん(34)。終演後はロビーであいさつに立ち、地元から訪れた家族、多くの友人らから花束が贈られるなど祝福を受けた。
帯広三条高校を卒業後、19歳で倉本聰さんが主宰する俳優・ライター育成のための私塾「富良野塾」の門をたたいた。入塾後の2年間は富良野で他の塾生とともに農作業に励むなど、自給自足の共同生活を送る体験もしてきた。
天真らんまんで明るい人柄もあり、これまでは奇抜なキャラクターを演じることが多かった。「ノクターン」ではミステリアスな女性彫刻家を見事に演じ切った。公演を振り返り松本さんは「いつもより緊張感があった。故郷を思うせりふを言う時は実際に自分の故郷を思い浮かべるが、きょうは目の前にいる人たちと同じ故郷の姿を思い浮かべていると思うと、特別な気持ちになった」と言う。
松本さんと家族ぐるみの付き合いで、幼少時代から知る白樺学園高校教諭の芦澤満さん(48)と娘の奏さん(新潟・敬和学園2年)は「りきさんが全国各地の公演で活躍していることがとてもうれしい」(満さん)、「改めて家族の良さを実感した」(奏さん)と松本さんの熱演や公演について感想を語った。
高校時代の同級生で、松本さんと共にソフトボール部で汗を流した帯広市の会社員外山暁子さん(34)は「(舞台上の松本さんを)初めは友人の目線で見ていたが、次第にその役の人として見るようになった。さすが『女優』。親友を誇りに思います」と満面に笑みを浮かべた。
会場スタッフとして陰ながら公演を支えた松本さんの両親、竜一さん(60)と治子さん(62)は、大舞台で輝く娘の姿を目にしっかりと焼き付けた。竜一さんは「感無量。倉本先生や塾生ら人との出会いが成長させてくれたんだと思う。娘にはまず『お疲れさま』と声を掛けてあげたい」と話し、「娘がこのすばらしいグループの中にいられることをとてもありがたく思う。周囲の人に恵まれた」と目を細めた。(大谷健人)