コムギなまぐさ黒穂病菌を減らすには~水田化による低減効果と堆肥化の死滅温度~
道総研 中央農業試験場 病虫部 予察診断グループ
1.背景と目的
平成26年頃よりコムギなまぐさ黒穂病の発生が全道に拡大し、平成28年には本病による廃耕面積が1,000haを超え大きな問題となった。そこで令和3年には本病の防除対策を明らかにした。一方、生産現場からは発生ほ場における本病の発生リスクを低減する技術が求められた。そこで本試験では、湛水処理(水田化)による病原菌の厚膜胞子の密度低減効果を検討した。
また、発生ほ場の麦稈には本病の厚膜胞子が付着しているため、このような麦稈を用いた堆肥をほ場に施用することで発生が拡大することが懸念されている。本試験では、厚膜堆肥化過程における厚膜胞子の死滅条件について検討した。
2.試験方法
1)湛水処理による厚膜胞子密度低減効果の解明
2)堆肥化過程における厚膜胞子死滅温度条件の解明
3.成果の概要
1)水田内に深さ0cm(水底)~10cm に厚膜胞子または発病粒を埋設し、1か月ごとに回収し生存しているかを発芽率で調査した。その結果、水田内の土壌表面(水底)に設置した胞子は3か月経過しても高い発芽率を示したが、土壌中に埋設した厚膜胞子は3か月で発芽率が顕著に低下した(図1)。なお、中干が不十分で還元状態が80日以上となった条件では死滅していたのに対し、中干を十分に行い還元状態となった日数が短い条件では3か月経過後も僅かに生存していた(表1)。以上の結果より、湛水処理は本病病原菌の密度低減に有効であるが、厚膜胞子の死滅には還元状態の継続が重要であると考えられた。
2)滅菌した厚膜胞子を投入した水田土壌を撹拌し、その直後に水尻から採取した水からは厚膜胞子が高濃度で検出されたのに対し、撹拌後3日間静置した場合には顕著に濃度が低くなった(図2)。代かきなどで土壌を撹拌した直後の排水は厚膜胞子が流出するリスクが高いと考えられることから、土壌が十分に沈殿してから水を落とす必要がある。
3)本菌の厚膜胞子は、堆肥化過程で想定される水分条件(70%、75%、85%)に調整した模擬堆肥内において、いずれの水分条件でも40℃で10 日、50℃で3 日、60℃で1 日で死滅した(表2)。
4.留意点
1)なまぐさ黒穂病の発生ほ場の感染リスク低減のために活用する。
2)厚膜胞子の死滅温度条件は、罹病麦稈を堆肥化する際の参考として活用する。
3)本対策を行っても発病のリスクは残るため、小麦を栽培する際には適切な防除対策を実施する(R 3年・普及推進事項)。
4)本成果を反映した「コムギなまぐさ黒穂病 Q&A」の完結版を令和4年2月に公表する。
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