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導入進む「ハズバンダリートレーニング」 おびひろ動物園

キリンの右後ろ足の削蹄風景。左が片桐さん(2020年10月、おびひろ動物園で)

 「動物のストレスを最低限に、幸せに過ごせる環境を少しでも多く整えたい」-。おびひろ動物園の担当飼育展示係の片桐奈月さん(34)は、全国の動物園で進む「動物福祉」を重視した飼育の大切さを熱く説く。動物が自発的に健康管理に必要な動作を取れるように訓練する「ハズバンダリートレーニング」がその一つ。同園でも近年、飼育員らが麻酔なしでの採血や健康管理ができるよう、訓練を重ねている。

健康管理 動物が協力 
 ハズバンダリートレーニングは、動物の「健康管理」に重点を置いたトレーニング。餌をご褒美に、受診や採血、体重測定などに必要な動作を無理強いせず自発的に行ってもらえるようにすることが目的。「受診動作訓練」とも呼ばれる。

 同園の柚原和敏園長は「動物福祉の考え方が重要視されるようになった10年ほど前から、全国の動物園が取り組むようになった」と振り返る。それ以前も「馴致(じゅんち)」と呼ばれる、飼育員と動物が信頼関係を築くための訓練は行われてきたが、「サーカスや芸など、人に見せることを目的とした訓練が多かった」(柚原園長)という。

 同園ではキリンやホッキョクグマ、ライオンといった大型動物や、エゾシカ、アザラシ、チンパンジーの担当飼育展示係が積極的にハズバンダリートレーニングに取り組んでいる。一定の成果を上げつつあり、2017年ごろトレーニングを開始したアミメキリンは20年、道内で前例のない、麻酔なしでの右後ろ足の削蹄(さくてい)に成功した。

 昨年10月には札幌市の円山動物園の飼育員が、キリンを担当する片桐さんのトレーニングの様子を視察しに来園。ホッキョクグマも担当する片桐さんが逆に同園に学ぶことも多く、互いにより良い訓練ができるよう情報共有している。片桐さんは「飼育員は、動物の命を守るための『飼育技術者』でなければならない」と強調する。

技術継承に難しさ
 「技術者」であるからこそ、その伝承の難しさも感じている。動物が混乱しないように飼育員同士で技術をつなぐのは容易ではなく、「前任者が、担当者に実際に現場で指導しながら、時間をかけて覚えていく必要がある。マニュアル化するなど文章での継承は難しい」と話す。

 また、飼育員を専門職として配置する全国の多くの動物園と異なり、おびひろ動物園で働くのは市の職員。担当動物の変更はもちろん、動物園以外への異動もある。技術の継承に時間が割けず、担当変更を機にそれまでできていた動作ができなくなり、トレーニングが振り出しに戻る可能性もある。

 柚原園長は「職員の意思や希望を確認するのは大前提で、技術を受け継ぐことも大切」とした上で、「組織としては、職員がさまざまな動物を担当し、たくさんの経験を積んでほしい思いもある」と率直に語る。

 動物園関係者には当たり前となってきた、「動物福祉」を重視した飼育。一方で、ハズバンダリートレーニングなど、具体的な取り組みの一般への認知は進んでいない。柚原園長は、「何のために訓練をするのか、飼育員が来園者らに積極的に発信することで、理解も広まっていくだろう」と今後を見据える。(石川彩乃)

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