手間いらず 秋まき小麦の基肥一発施肥法
道総研 北見農業試験場 研究部 生産環境グループ
ジェイカムアグリ株式会社
1.試験のねらい
秋まき小麦に対する適期の窒素追肥は収量や品質の確保に重要であるが、作業競合や気象条件等により適期に実施困難な場合がある。そこで、秋まき小麦の春季以降のすべての窒素追肥を省略可能とする「基肥一発施肥法」を確立する。
2.試験の方法
1)各種肥効調節型肥料の窒素溶出特性
オホーツク、十勝管内の少雪・土壌凍結地域において、肥効調節型肥料(シグモイド型被覆尿素肥料LPS20、30、40、60日タイプ)を秋まき小麦播種期に土壌へ埋設し、生育期間の窒素溶出率を比較する。
2)基肥一発施肥法の開発
肥効調節型肥料と硫安の組み合わせによる「基肥一発施肥法」の収量や品質を、通常の追肥を行う施肥法(対照区)と比較する。また、現地圃場で試作肥料を用いて基肥一発施肥法の有効性を実証する。
3.試験の結果
1 )肥効調節型肥料の積算窒素溶出率は、LPS20では4月上旬で50%以上に達し、年次・地点間差も大きい。LPS30は積雪期間から、LPS40は融雪後から窒素溶出が増大し、溶出率は5月下旬までに各55~70%、35~55%で、7月中旬にはともに80%以上に達する。LPS60の溶出率は期間全体を通じて低い(以上、図1)。
2 )いずれの肥料も窒素溶出は地温の影響を受け、溶出率は積算地温の増加に伴い高まる。溶出の安定性や、秋まき小麦の一般的な窒素吸収過程を勘案すると、基肥一発施肥法にはLPS30、40の利用が有望。
3 )数種の基肥一発施肥法を検討したところ、「LPS30・14+2(窒素量としてLPS30で14kg/10a +硫安で2kg/10a施用を表す、以下同様)」、「LPS30・10+ LPS40・4+2」、「LPS30・4+ LPS40・10+2」の収量と子実タンパクはいずれも対照区と同等である。このうち「LPS30・4+ LPS40・10+2」は、子実タンパクの年次変動が最も小さく、安定した肥効を示す(表1)。なお、「LPS20・6+ LPS40・10」は収量が対照区と同等であったが、LPS20の溶出特性(図1)を考慮すると冬期間の窒素溶脱による肥効の変動が懸念
される。
4 )LPS30、LPS40、硫安を各4、10、2kg の割合で配合した肥料を基肥一発施肥すると、現地5圃場の平均では、基肥一発施肥の収量は農家慣行施肥と同等で、子実タンパクも基準値内にあり、基肥一発施肥法の有効性が確認された(表2)。
5 )ただし、圃場A のように、山間部で低温のため起生期が遅くその後の生育も遅延した場合は、収量が慣行施肥に劣ることがある。よって、基肥一発施肥法は初期生育量が十分確保できる圃場および気象条件で適用すべきと判断する。
6)以上を整理し、秋まき小麦に対する窒素追肥省略技術の導入指針を示す(図2)。
4.おわりに
基肥一発施肥法は追肥作業の省力化を最優先する場合に活用できる。ただし、次の点に留意する。
1 )基肥一発施肥法の適用に際しては、適期・適量播種および出芽率の確保により、初期生育量が不足または過剰とならないように努める。ただし、起生期が遅く低温で経過する気象条件や地域での適用は避ける。
2)泥炭土では止葉期以降の窒素供給が過剰となる場合が想定されるため、基肥一発施肥法の適用を控える。
3)基肥一発施肥法において生育途中の窒素施肥対応は行わない。
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