プリズムとかち 「カムイ」の技術“お墨付き” JAXAが試験活用へ
【大樹】NPO法人北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC、札幌)が2002年から大樹町を中心に打ち上げ実験を繰り返し、開発を進めてきた道産小型ハイブリッドロケット「CAMUI(カムイ)」。3月16日には宇宙航空研究開発機構(JAXA、東京)が初めて同ロケットを使い、研究中のエンジン部品の性能試験を行う予定だ。宇宙関連で国内最高機関であるJAXAのいわば“お墨付き”を得た形で、射場の確保などこれまで協力を惜しまなかった町側は、同ロケットの一層の成長を期待。「宇宙を夢見る研究者たちが気持ちよく実験できるよう、今後もお手伝いをしたい」(伏見悦夫町長)としている。
宇宙基地構想85年から協力
町は航空宇宙基地構想を掲げた1985年から、宇宙にかかわる実験に協力してきた。95年には町美成地区に多目的航空公園を開設、後に滑走路を舗装化するなどの取り組みを進めた。JAXAも積極的に大樹で試験を行い、昨年からは大気球の放球実験も実施するなど着実に利用実績を重ねてきた。
一方、HASTICは02年6月に任意団体として設立。03年1月にNPO法人に認可された。植松電機(赤平市)の植松努専務の技術・金銭的な支援もあり、小型、安価で安全なカムイロケットの開発が始まった。HASTICの伊藤献一理事長は、大樹を実験場に選んだ理由として、障害物のない立地条件以外にも「宇宙産業への熱意がひしひしと伝わってきた」ことを挙げる。町は同航空公園北側の民有地をあっせん。大樹漁協などにも働き掛け、周囲の理解を取り付けたほか、打ち上げ当日に人員を配置、安全管理にも目を光らせた。
07年12月の実験でパラシュートが開かず、人のいるテント内に落下するなどの失敗を教訓に、昨年12月には技術性を追求した実験に成功、機能の高さを実証した。
2機打ち上げ部品チェック
この優れた技術に着目したJAXAが今回、カムイを初めて使用し、北大と共同で研究中の宇宙往還機用のエンジン部品「エジェクターダクト」の性能試験を行う。宇宙往還機のような速度の機体が加速する際には、同ダクトが空気を吸い込んで推力を得ることが必要。JAXAによると、今回の試験では2機を打ち上げ、マッハ0・4ほどの速さの中で幾つかの項目をチェックすることになるようだ。
安全性や機能性に厳しいとされるJAXAの“お墨付き”が出たとも言え、伊藤理事長は「ここまで来られたのは、開発に携わってきた皆の努力や周囲の協力のおかげ。ひとまず形になってうれしい」と喜ぶ。伏見町長も「これまで、着実に進歩する様子を間近で見てきただけに誇らしい気分だ。カムイとともに、研究者も作業を手伝ってきた学生についても、まだまだ成長する姿をみたい」と期待する。
JAXAの大気球の放球実験と並び、カムイの成功は町の宇宙産業誘致の結果でもある。伏見町長は「射場の整備なども視野に入れながら支援していく」とし、伊藤理事長も「大樹町とは末永い付き合いをしていきたい」と希望している。大樹が宇宙に目を向けて24年。夢は途切れることなく進んでいる。(北雅貴)