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創意と工夫で乗り切る高コスト 「農業新技術」座談会

 十勝毎日新聞社は、2025年の農作業シーズンのスタートを前に、生産農家、JA幹部、指導機関の関係者を集めて営農座談会を開催しました。メインテーマは「創意と工夫で乗り切る高コスト」。生産現場を苦しめている異常気象(高温化、干ばつ)、各種生産資材の高騰、人手不足への対応を中心に議論し、今季の十勝農業を展望してもらいました。

今季の営農について意見を交わした(左から)長島氏、外山氏、高橋氏、伊與田氏、道下編集局長


【出席者】(五十音順)
・十勝農業改良普及センター所長 伊與田まや氏
・JA上士幌町組合長 高橋昭博氏
・帯広市・畑作 外山聖子氏
・池田町・畜産 長島正典氏
・司会=十勝毎日新聞社 編集局長 道下恵次

異常気象が恒常化している
 司会 まずは昨年の振り返りを。一昨年と同様に暑かったが、JA取扱高は過去最高を記録した。

 伊與田 昨年は暑さに加え、晴天も続き、作物の生育は全般的に前倒しされた。天候がよい時に登熟が重なった作物は豊作となり、ジャガイモの早生種などうまく当たらなかった作物は苦戦した。ただ収量不足の作物も、単価でカバーされた形だ。生乳については価格が良かったのに加え、生産現場で暑熱対策を徹底した。デントコーンも暑さに合った品種を変える例が見られた。肉牛は枝肉価格は下がったが、取扱頭数が伸びて全体をカバーした。

 高橋 昨年の町内は気候が比較的よかったこともあり、基幹の4品は平年作以上だった。小麦は時折、ちょうどよく雨をもらい、史上最高の反収になった。ビートについては一昨年の褐斑(かっぱん)病流向の経験から、組合員個々で防除を徹底、肥培管理に頑張った。酪農は伊與田所長が述べた通り、ミストの配備など暑熱対策を進め、順調に搾ることができた。生乳の取扱も前年を上回った。台風がそれたこともあり、牧草も順調に収穫し、質・量ともまずまずだった。

 司会 外山さん、長島さんの農場はどうだった。

<とやま・せいこ>
 1959年宮城県出身。帯広市清川地区の37ヘクタール長男と共に農場を経営。サウナ付宿泊施設も運営。66歳。

 外山 小麦とジャガイモ、小豆は平年作、大豆は比較的豊作だった。小豆は一昨年、酷暑と長雨により過熟だった反省から、収穫時期に気を配った。メークインについては2次成長がみられ、デントコーンは暑すぎて不稔も見られた。 異常気象が異常ではなく、恒常化している。夏の暑さに焦点を絞って対応しなくてはならないと、実感する1年になった。

 長島 町内の畜産農家は黒毛と畑作をやっている。ホクレン市場が全国の素牛の供給基地になっている関係上、他市場より価格が高く、十勝にはアドバンテージがあったと聞いている。私のような肥育一貫経営はまだなんとか、マルキン(経営安定交付金)の発動でトントンでやって行けたという印象。しかし肥育農家は素牛導入からしないといけないので、経営はかなり厳しいとみられる。

 司会 今季の展望に移りたい。気象庁の予報によると、今夏も北海道・十勝は暑くなると予想されている。暑さ対策は第一の課題となりそうだ。

 外山 2月に記録的な豪雪があったとはいえ、平年の降水量に達していない。干ばつ傾向でシーズンを迎えるのだと意識しなくては。近年は災害級の気象状況が顕著で、気になるのは大雨。昔から「干ばつに不作なし」という。確かに湿害がない方が良いと感じる。国の事業で暗きょを整備しているが、畑の排水性を向上させる自助努力も必要。経験値を超える気象状況なので、昨年から企業と提携し衛星による気象や生育データを入手、生産管理につなげている。

<ながしま・まさのり>
 1981年池田町生まれ。「いけだ牛」(150頭)の肥育一貫経営に取り組む。44歳。

 長島 子牛は脱水状態になると1日で死んでしまうので、細心の注意を払っている。これまで手作業で水を与えていたが、自動給水に変えて、いつでも水を飲めるようにした。畑ではデントコーンを栽培しているが、高温ということで従来の90日から93日で収穫する品種に切り替えた。牧草は干ばつを意識し、保水性を高めるため堆肥を投入している。

 高橋 上士幌のような積算気温の低い地域は、高温化によって収量が比較的安定化した側面がある。ただ猛暑や大雨になると、従来はなかった病害虫が発生したり、見たことのない雑草がはびこる状況にある。気象情報や十勝農協連のデータを自身で分析し、肥培管理や家畜の健康管理につなげることが重要。基本は土づくりだと思う。

 司会 指導機関としてアドバイスがあれば。

<いよだ・まや>
 1965年東京出身。帯広畜産大卒。昨年4月から現職。十勝は2回目の勤務。中札内村在住。59歳。

 伊與田 今こそ基本技術を励行したい。大規模化、労働力不足の下、なかなか全体に目が届かなくなっている。これを補うには科学的根拠を入手し分析すること。広大な十勝は2キロ程度離れているだけで天気がガラリと変わる。気象にしてもメッシュの小さいデータを活用する必要がある。よい例がビート。褐斑(かっぱん)病の流向を受けて、生産現場では畑をしっかり観察し、初発期に適切な対策を施した。その後もカレンダー通りではなく、あくまでも畑の状態に応じて防除し、収量、糖分とも成果を上げた。

 高橋 最近の気象の変化は、従前の経験が通用しない側面がある。例えば、地温を高めるのにカルチをかけるのは必須だが、高温・干ばつではむしろカルチを控え、土壌水分を保持することが求められる。生産者の努力で補えない分野として、冷害対応の品種から、高温・干ばつに強い品種改良への転換が期待される。

 司会 現状で最大の問題点は生産資材の高騰。あらゆる分野で値段が上昇し、生産現場はコスト対応に四苦八苦している。輸入飼料の高騰に直面している畜産現場は、特に工夫が求められている。

 長島 畜産で一番経費がかかるのがエサ。この部分をどうすればよいのか、仲間とも話し合っている。一昨年からデントコーン栽培を始め、一部だが、輸入飼料の価格に左右されないエサの給与体系に切り替えた。肥育初期にもデントコーンを与え、輸入飼料を減らすようにしている。牛舎や鉄柵、電気関連の修繕も、可能なところは自前で行うようにした。資材は中古のものがあれば、安価で譲ってもらうようにしている。

<たかはし・あきひろ>
 1970年上士幌町生まれ。2023年から現職。同町の50ヘクタールで基本4品を中心に生産。55歳。

 高橋 飼料にしても、肥料や農薬にしても、現状の値上がりで農家は本当に苦しい。燃油を含む価格の高騰は為替や世界情勢の問題によるところが大きく、自助努力の範囲を超えている。そんな中でAI(人工知能)やデータを使い、肥料、資材のコストカットを行う余地はあるのではないか。上士幌町内には大規模なバイオガスプラントが展開されており、プラントから出る消化液を畑作にも還元し、肥料の節約につなげる研究を町や普及センターと一緒に取り組んでいる。

 長島 高橋さんも言及したが、生産現場の工夫は当然のこととして、国際紛争が1日も早く終結し、なおかつ円高に進むことを期待するばかりだ。

 司会 外山農場では電力の自給自足に取り組んでいると聞く。

 外山 太陽光発電による蓄電で、自家用車(電気自動車)、自宅などの電力に活用している。これらは設備投資を要するので、目先の収益ではなく、長期的な視点が必要。十勝は国内有数の晴天率で知られる。これを有効活用し、エネルギーを自賄いするのは、ひとつの方法だと思う。

 司会 技術面でコスト対応は可能か。

 伊與田 農薬などは無駄のない投入を心掛け、投入しただけの効果をしっかり出すこと。タイミングと選択が問われる。いま一度、従来の作業に無駄がなかったのか点検を。例えば暗きょを入れた畑について、排水性を維持する効果的なサブソイラーの入れ方になっているのか確認してほしい。基本の技術をベース、新しい技術を組み合わせて補っていくべき。

 司会 コスト高とも連動するのが人手不足。実践している対策があれば。

 外山 ジャガイモ収穫時は選別作業で人手が必要。地域では有志の農家が企業と組んでインターンシップを受け入れている。農場としてこの時期は民泊向けの1棟をクローズし、アルバイトに自炊による共同生活をしながら収穫作業を手伝ってもらっている。最近は経験者から誘いの輪が広がり、集客してもらえるようになり、非常に助かっている。

 高橋 JAとしては人材派遣会社の紹介、雇用労賃の一部助成に加え、繁忙期は全道の大学に募集し、町の体験住宅を使って、農作業をしながら観光もしてもらう取り組みをしている。リピーターも増え、繁忙期の人手はある程度カバーできると期待している。農作業を通じて十勝の素晴らしさを知れば、またやって来る。農家戸数が減少する中、農村も関係人口を増やさなくてはならない。

 外山 多くの農家は繁忙期になると、デイワーク(1日アルバイト)、アルバイトのマッチングサービス、派遣を利用している。ただ求人が集中し、結局、賃金の値上げ競争になる。労働力確保の問題は地域全体で考えるべき。他の地域の人を受け入れることは、畜大への編入や十勝での就職に繋がる事例もあり重要。

 長島 知り合いの畑作農家に農閑期の冬場は手伝ってもらったり、友人に声を掛けて、大学生の子弟がいる場合はアルバイトとして働いてもらっている。地域の畑作農家とチームを組んで、労働力を補い合うような仕組をつくることができたら。

 司会 最後に今年1年の抱負を。

 長島 いろいろな農家と出会い、営農技術やスマート農業など幅広い情報を共有、自身の生産活動にアウトプットしたい。個人的には人手不足が第一の課題になるとみている。その解決に向けた基礎づくりを進めたい。

 外山 どんな環境下でも植物がしっかり根を張り、実りが得られるよう「命」と対話したい。農場のキャッチコピーは「食卓に笑顔の種を届けたい」。家族一丸となり、この実現に努力したい。

 高橋 大切なのは基本を続けること。畑作なら土づくりと輪作体系の維持、酪農・畜産なら家畜をよく観察する。コスト高は自助努力で補えない部分もあり、国交付金のかさ上げなど、再生産可能な営農環境の維持を訴える。

 司会 指導機関として農家に呼び掛けたいことがあれば。

 伊與田 異常気象やコスト高が当たり前の時代、まずは「備える」をキーワードにしてはどうか。十勝の場合、減ったとはいえ農業者の数が一定数維持され、農業に関わる関係人口が多いのは強み。さまざまな「人財」が近場にたくさんいる。将来に備えていろんな人々と連携するべき。1人で判断するのではなく、地域で情報を今以上に積極的に共有し、解決策を探ってほしい。

 司会 本日はありがとうございました。

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