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鹿追で心の再生、自然に 主演・中原丈雄さん~映画「おしゃべりな写真館」インタビュー(1)

十勝ロケの思い出を語る中原さん(平栗玲香通信員撮影)

 鹿追を中心とする十勝管内で撮影が行われ、来年2月23日にシネマ太陽帯広で公開される映画「おしゃべりな写真館」。十勝の雄大なロケーションの中、大物俳優たちが地域のエキストラとともに心温まる作品を作り上げた。妻を失ってから撮影する気力をなくしてしまった写真家を演じた主演の中原丈雄さんに、役柄や撮影現場の雰囲気、十勝でのエピソードなどを聞いた。(杉原尚勝)

 -役作りに当たって意識したことは。
 橋爪功さん演じる写真館主の義理の息子役。僕はもう髪が真っ白なので、橋爪さんと同じ世代の男に見えないかと、役作りの前にくだらない心配をした。

 もの静けさ、器の大きさ、優しさがこの役の核になると捉えていた。妻をなくしてから写真を撮る気力を失い、緑内障も患った写真家が、鹿追に来てから心が再生する、という気持ちの流れの部分は、割と自然にできた気がする。ただ、落ち込むところを映画自体の重さにならないようにするのは難しかった。

撮影する気力を失ってしまった写真家を演じた中原さん(作中より、(C)和ら美)

 -撮影現場の雰囲気は。
 映画によっては、監督や助監督がうるさくて、僕ら俳優陣の気持ちがかき回されることもある。しかし、今回の現場はそういうことが全くなかった。朝起きて、準備して現場に行き、ちゃんと仕事をして帰る。俳優もスタッフもすごく雰囲気が良かった。鹿追の人たちの支えがありがたかった。地域的な作品は地元の協力がないとできないので本当に感謝している。

 -映画初挑戦だった準主演の山木さんにどんなアドバイスをしたか。
 彼女には、びっくりした。芝居が素直で自然。なかなか大したものだと思った。逆に触発されていった感じ。直接演技指導なんてできません。ただ、芝居の時とそうじゃない時のけじめが大事だよ、という助言はした気がする。小さな映画は支え合うことが大切。主役を与えられた自分が現場でそう立ち回っていたので、先輩として話した。

「ここで生きているんだ」 景色や空気、演技の助けに
 -舞台になった十勝の印象は。

 出演する藤監督の「明日へ」という映画の鹿追上映で初めて十勝を訪れた。十勝に縁があるNHK総合連続ドラマ小説「なつぞら」でも木彫り職人を演じたが、それまで一度も来たことがなかった。初めて訪れた時にその素晴らしさに感じ入り、この作品で再訪できることを楽しみにしていた。

 演じる時、そこで生きている人間の存在というのは、周りの景色や空気に包まれている思いがどこかにないと、自分だけが浮いてしまう。どうやって生きているのかを表現するのに大事な部分が景観であったり、大地であったりする。ロケセットだけではそれを感じられない。

 ここで生きているんだ、ここで生活しているんだ、というようなものを役の中に出したいと思うのと思わないのでは大きく違う。僕がせりふをしゃべっている時に、例えば鳥が鳴いたり、風が吹いたり、木が揺れたり。それが助けになり、支えになり、自分のせりふ以上に良い絵ができる。そういったものを大事にしていきたいと心から思う。

 今回の映画で印象に残っているシーンを一つだけ挙げることはとても難しいが、やはり冬の雪の中での芝居は言いようがない思いがある。春も夏も秋もいいが、冬の北海道の大地は心から素晴らしいと思った。

 -長く滞在した鹿追で撮影中だけに限らず、どんな体験をしたか。
 映画に携わっていると、芝居から開放されたくなる時もある。鹿追でも何か気分転換をと思い、もともと、釣りが趣味だったのでルアー釣りに行った。地元の熊本では、一匹も釣れないことも多かったが、鹿追では30~40センチくらいのを何匹も釣った。それが思い出深く、夏には弟を熊本から呼び、一緒に行ってきた。

 -今年2月には帯広と鹿追で一人芝居公演やライブも開催した。
 大勢の人が関わるような映画とは違い、自分一人で何かを作り出すこともやっておきたいという思いがあり、一人芝居をやっている。この歳になって新しく始めたものを皆さんに楽しんでもらいたいという気持ちもあった。

 地域の方々には、映画だけではなく、自分の素の部分を見てほしかった。こんなこともやっているというものを見てほしかった。自分のバンドも持っているので、併せてやった。

 -来年2月23日の帯広での映画が封切りを迎える前にひとこと。
 劇場に足を運び、最後まで見届けてもらうのが映画。観客に育てられて大きくなっていくもの。この映画が大きく育つか、小さいまま終わってしまうのか。もちろん作品の力もあるが、われわれはやるだけのことをやったので、ぜひ、十勝・帯広の皆さんに劇場に足を運んでいただきたい。


映画「おしゃべりな写真館」 出演者・スタッフインタビュー(1)中原丈雄さん


<なかはら・たけお>
 1951年熊本県生まれ。劇団未来劇場で数多くの舞台を踏んだ後、映画・テレビなどの映像世界に移る。現代劇、時代劇問わず幅広い活動を行っており、プライベートバンド「TAKEO.UT☆MEN」でライブ活動も行う。



ロケ現場では映画初挑戦の山木雪羽那さん(左)を支えながら撮影に臨んだ中原さん(作中より、(C)和ら美)

失意の写真家、少女との交流
 舞台は住む人のいない鹿追町内の写真館。2年前に他界した館主の娘の夫である松原雄二(中原丈雄さん)に、「写真館を譲る」と館主の遺言が届く。写真家だが緑内障を抱える松原は、失意の中で写真館へやってくる。

 雪のある日、山村留学でこの地に来ていた中学生の吉本麻衣(山木雪羽那さん)が、写真館の前でうずくまっているところから2人の交流が始まる。十勝の雄大な自然に癒やされ、ぬくもりに満ちた人々との触れ合いを通じて互いの心を再生していく。

 昨年7月から今年2月にかけて、鹿追町内を中心に、音更町雄飛が丘や同町の白樺並木、帯広駅など十勝管内で撮影された。出演者は、ほかに賀来千香子さん、橋爪功さん、小宮孝泰さん、谷川清美さんら豪華俳優陣が脇を固める。

 鹿追の映画制作会社「和ら美(わらび)」(代表取締役・藤嘉行監督)の初作品。来年2月23日から、帯広市内のシネマ太陽帯広(西3南11)で先行上映される。

 ◇ ◇

 22日、準主演の山木雪羽那さん、来年1月に藤嘉行監督、賀来千香子さん、小宮孝泰さん、谷川清美さんら共演者のインタビューを掲載します


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  • 映画のワンシーン((C)和ら美)

    映画のワンシーン((C)和ら美)

  • 映画のワンシーン((C)和ら美)

    映画のワンシーン((C)和ら美)

  • 映画のワンシーン((C)和ら美)

    映画のワンシーン((C)和ら美)

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    映画のワンシーン((C)和ら美)

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